第12回:ベトナム、シクロ物語
更新日2002/06/06
ベトナム・ホーチミンの人力車「シクロ」といえば、その悪名はとても有名。ボッタクリの代名詞にもなっているほどで、街の人も「シクロの運ちゃんはろくでもない人」と決めつけている。「シクロ・シンジケート」という犯罪組織もあるらしい。
街をぶらぶら歩いていると、若い日本人女性観光客が街の真中で泣いている姿を時々見かける。泣いている原因はもちろんシクロのぼったくり。シクロの料金は、歩いて15分ぐらいの距離でせいぜい5,000ドン(約40円)。乗る時には言葉巧みに5,000ドンと言っておきながら、降りる時に1万円だの、100ドルだのと言う始末。
もめていると周辺から仲間のシクロが集まってきて取り囲まれ、大金を払わざるを得ない羽目になる。タチの悪いシクロにつかまると、知らない間に治安の悪い4区に連れて行かれて、所持品一切を持ち去られる場合もあったりする。
そういう被害に会うのは、やはり日本人だけ。欧米人は理由のないチップを要求されると、今にも殴りかかりそうな感じで怒鳴り散らし要求に応じることはない。しかし日本人の場合は、不当な要求なのに値切ってでも払おうとする人が多い。
こんな事情からか、日本人相手のシクロはけっこう簡単に儲かるらしい。ベトナム人の通常の月収は約100ドル。やさしい?日本人を見つければ1日で簡単に稼ぎ出してしまう。知り合いの日本食レストランやカフェのベトナム人従業員が、ある日突然シクロ運転手に転身してしまった……。
ところで、快適なシクロライフを送ろうと思うならば、シクロの運ちゃんとコミュニケーションをとって「にわか友達」になるのが最良の方法。路地のカフェやベトメシ屋でおごったりして仲間意識が芽生えると、シクロの裏事情やいろんな穴場を教えてくれたりと、とたんに現地事情に明るくなったりする。しかし一番のメリットは、親しくなった運ちゃんの名前を出すことでトラブル回避できること。シクロの横のつながりや連帯感にびっくりすることも度々あった。
そんなシクロの運ちゃんたちは、何故か英語がペラペラ。いろいろ聞いてみると、BBCのラジオを聞いて勉強しているとか。3、4年で普通に喋られるようになるらしい。そんな話をしていると必ずお決まりの質問が飛んでくる。
「日本人は10年も英語を勉強しているのに、なんで喋れない人が多いんだ?」
そう聞かれても、いつも返答に困ってしまう……。
ある日、親しくなったシクロの運ちゃんの家に招待されたことがある。なんとなく行ってみると、日本製の中古ビデオと説明書を持ってきた。
「ビデオの使い方が分からないんだ。マニュアルも日本語だからまったく分からないし、使い方と配線の仕方を教えてくれないか」。
なんとか無事にビデオとテレビがつながると、どこからかカラオケビデオを調達してきて朝までどんちゃん騒ぎ。中古のビデオといっても、ベトナムでは高価な製品。シクロはやはりもうかるらしい。
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