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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第365回:流行り歌に寄せて No.170 「君に会いたい」~昭和42年(1967年)

更新日2019/01/17


昨年末のザ・カーナビーツの『好きさ好きさ好きさ』をご紹介し、年をまたいで、彼らと同じ日にデビューしたザ・ジャガーズをご紹介できるのは、何かしばらくGS三昧になったようで、不思議と楽しい気分である。

私の店のお客さんで、もう古稀を迎えるくらいの年齢の方々が時々口にされるのが『六本木野獣会』というグループの存在である。彼らはヤッチンこと田辺靖雄を中心に、お金持ちの子女が六本木の“カフェ・レオス”や飯倉の“キャンティ”などに集まって遊んでいた。

メンバーとしては、峰岸徹、中尾彬、大原麗子、小川知子、井上順、かまやつひろしなどの芸能人の他に、レーサーの福沢幸雄やデザイナー志望の若者たちも多く存在したという。

その会のバンドとして昭和38年に結成されたのが『野獣会オールスターズ』で、翌39年に『宮ユキオとザ・プレイ・ファイブ』というエレキ・バンドに発展した。そのグループが42年、フィリップス・レコードからジャガーズと名を変え『お前に会いたい』でレコード・デビューを果たすことになったのである。

前述の通り、ザ・カーナビーツの『好きさ好きさ好きさ』と同日の昭和42年6月1日に、同じくフィリップス・レコードから『カーナビー・ビート・グループ』というカテゴリーでデビューということだった。このダブル・デビューの理由が何だったのかは分からないが、何かしらのレコード会社の意図を感じる。明らかなブーム到来の波を受けて、ジャンジャンとデビューさせ、さらにそのブームを加速させたかったのだろう。

それにしても、もう52年近く前の話であり、ザ・カーナビーツのアイ高野、ザ・ジャガーズの岡本信の二人のヴォーカリストも随分前にこの世を去っている。GSブームというのがいかに古い時代の出来事なのかを改めて感じるが、もう今や還暦前の人々にとっては、ほとんど縁のない存在なのだろう。

そして古いだけではなく、実に短い期間のブームだったとも言える。僅か3年あまり、それだけに、その熱狂ぶりは大変濃かったように思う。それにしても短かった。ユーミンやサザン、中島みゆきといった方々が、もう40年以上第一線で活躍していて、今の小学生にも存在を知られているのとは、大きな違いがあるようだ。


「君に会いたい」  清川正一:作詞・作曲  ザ・ジャガーズ:歌
 

若さゆえ苦しみ 若さゆえ悩み

心のいたみに 今宵もひとり泣く

忘られぬあの日 思い出のあの時

*初めての口づけに 知った恋のよろこびよ

帰れ僕のこの胸に

My baby want you want you see again*

日の暮れた森を あてもなく歩いた

あの日の涙は いつまでもかわらない

忘られぬ瞳は 今誰をみつめる

(*くり返し)

My baby want you want you see again

want you see again

 

ザ・ジャガーズ、このデビュー曲の際のオリジナル・メンバーは、
宮ユキオ(Dr.リーダー)
岡本信(LVo.)
宮崎こういち(RGt. Vo.)
森田巳木夫(Bs. Vo.)
沖津ひさゆき(LGt. Vo)
佐藤安治(Or.)

GS世代の先輩諸氏に聞くと、「ザ・ジャガーズと言えばミリタリー・ルック だよね。他のグループも身につけていたけれど、彼らが一番似合っていた」、そんなことを述懐する方が何人かいらっしゃる。

ビートルズなどの影響なのだろうが、ザ・スパイダーズやザ・タイガースはか多くのGSが、ヨーロッパの昔の軍服姿を模倣したステージ衣装を着ていた。そんな中でも、ザ・ジャガーズが最も印象に残っているということなのだろう。ヴォーカルの岡本信は、今風に言えばかなりのイケメンである。

少し気になったことだが、歌詞の冒頭「若さゆえ」とあり、“ゆえ(故)=のため”という意味なのだが、最近はほとんど使われなくなった言葉だと思う。島倉千代子の『恋ゆえの花』というタイトルの曲があったり、ヒデとロザンナの『ふたりの関係』の中に「何故に 誰故に かばい合うの おたがいを」と言う歌詞があったりするが、いずれも昭和の香りを放つ曲である。

さてその詞を、そして曲を書いた清川正一という人、今回少し調べてみたが、この曲の作者ということ以外は、詳しい情報が分からなかった。どんな人なのだろう。

この曲、後年になってテレビのCMに使われ、いわゆるGS世代の方々以外にも広く知られるようになった。昭和56年、アサヒのミニ樽のコマーシャルで、まだアサヒビールはスーパードライを発売する前の大低迷期にあり、この放映で会社としては久々に話題を呼ぶ製品になった。

覚えている方も多いと思う。この『君に会いたい』がバックに流れ、映画仕立てに青春模様が映し出されて、最後のシーン、スナックのカウンターに座った風間杜夫が「夢だったんだよな」と呟くと、隣に座った真行寺君枝が「ダメ、今降りちゃ」と熱く囁く。

もう一つのミニ樽のCMには、ザ・サベージの『いつまでも いつまでも』が使われており、当時としても懐かしいGSのサウンドを起用していたのだが、それでさえも40年近く前のことで、軽く目眩を覚えそうになる。

-…つづく

 

 

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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