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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第600回:ローマ字とカタカナ語

更新日2019/03/14



もう長い間この『のらり』にコラム、雑文を書いていますが、日本語の最終点検はウチのダンナさんが盛大にアカを入れて校正してくれています。「お前、まだこんな間違いを犯すのか?」という表情をアリアリと見せることもあり、私としては、大いに落ち込むところです。でも、主題の掴み方、話題の展開の仕方、視点は面白い、独特だ…と褒められ、励まされることもあります。たまにですが…。

ウチのダンナさんにいつも言われるのは、ローマ字や外来語、カタカナ語をできるだけ使うな…、もし日本語で表現できるなら日本語を優先しろ…ということです。

その程度の日本語ですから、インターネットの日本語新聞、ニュースを見ていて、トンチンカンな読み違いをすることはショッチュウです。最近、日本女性の名前に“アナ”が増えたと思い込んでいたところ、男性にも“アナ”がいて、オカシイ、あっそうか、これはアナウサーの省略形だと気が付いたのは、ほんの2、3週間前のことです。

それにしても、日本語の標準語を全国にくまなく行き渡らせる役割を担っているはずの本家、本元が“NHK”とローマ字で社名を名乗るのはとても奇妙な現象です。どうして“日本放送協会”と言わないのでしょうか? きっとBBCとかPBSの向こうを張って、国際的に通用させるつもりでNHKにしたのでしょうね。

JAL、ANAは大きな国際的な航空会社ですから、納得できるのですが、JRは滑稽です。JRは日本国内だけしか走っていないし、これからもJR韓国、JR中国、JR台湾、JRアメリカが走る可能性もないのに、なぜJapan Railになってしまったのでしょうか? ますます分からないのが農協がJAになったことです。日本の三大家元が揃ってローマ字の看板を掲げているのですから、日本政府もJG(Japanese Government)とかNS(Nihon Seifu)と言い始めるかもしれませんよ。

数え上げればキリがないほど日本にカタカナ語が溢れています。「クールビズ」=夏の暑い盛りに、電力消費を抑えるため、背広は着ず、ネクタイを締めない服装のことらしく、「クール・ビジネス・ウェア」(英語になっていませんが…)を縮めた言い方のなのでしょうか。

目に付いたカタカナ語を並べて見ますと、「最後のチャンス」、「コミュニケーション」、「電気系のトラブル」、「イノベーション・システム」、「誰かとコラボレーション」、「ベンチャーとスピンオフ」、「リスク・マネージメント」、「それがスタンダードになっている」 「マーケット・ニィーズ」 「フィードバックする」 「パッケージ化する」「産業クラスター」、「ホワイトカラー・エグゼンプション」、「マスコミ、マスメディア」、「スケジュール」、「プラニング」、「ライバル視する」・・・

本の題でも(タイトルと書きませんでしたよ…)カタカナ語だらけです。
「プロセスに食い込め」、「成功をシェアせよ」、「さようなら、ニルヴァーナ」、「スクラップ・アンド・ビルド」、「シネマチャート」、「プリズンの満月」、「レクイエム涙」、「ビギン・ザ・ビギン」、「ドライ・ママ」、「マイコン・オーズ」、「メンズ・クッキング」、「クレイジー・ドクターの回想」、「All My Tomorrows」・・・とキリがありません。

日本語化したカタカナ語、「ミーティング」、「タイトル(タイトルマッチ)」、「バーゲンセール」、「チェックする」など、たくさんありますから、今、こんな難しく意味不明と思われているカタカナ語もいずれ日本語化するのかもしれませんが…。

こんなカタカナ語のことをウチのダンナさんと話していたら、戦争中は敵性語(主に英語ですけど)は禁止されていて、すべて日本語に訳して使わなければならなかったと知りました。ベースボールを“野球”としたのは最高ですが、ストライクを“良いタマ”、ボールは“悪いタマ”、セーフは“ヨシ”、アウトは“ダメ”と呼ばなければならなかったそうで、なんともシマラナイ呼び方です。それはまだ良いとして、兵器、機関、機械類をすべて奇妙奇天烈な造語で学ぶのはさぞ大変だったことでしょうね。

オカシイと思えるのは、日清戦争の時、中国語、漢語、漢字を一切使うなと軍事政権がやらなかったことです。もっとも、そんなことをしたら、日本語自体成り立たなくなってしまうでしょうけど…。米西戦争の時、アメリカが敵性語のスペイン語、スペイン語からの外来語を使うな…とはしませんでした。もちろん現在の英語は60%内外広義のスペイン語(ラテン語系)を含んでいますから、敵性語などという考えはハナからあり得ませんが…。

昔、日本に着いた当初、驚いたのは喫茶店で、「オレ、ホット!」と男の人が叫んだことです。英語なら“アイ・アム・ホット”(I am hot)というのは、「オレ、サカリが付いている」、「セックスがしくたくてたまらない状態だ」、「俺、発情期!」ということになりかねません。

このように、外来語、カタカナ語をどこで制限するべきか、どこに一線を引くかはとても難しいことです。でも、基本的には日本語で置き換えることができるなら、日本語を使うことでしょうか。そして、ちょっとカッコウが良いから、カッコウをつけたいからと言うだけでカタカナ語を使うのを止めるべきだと思います。どうしてもカタカナ語でなければ表現できないか、もうすでに一般に広く使われている言葉(これが観念的ですけどね…)だけ使うことにしてはどうでしょうか?

そして、カタカナ語を使う場合、その言葉を一度英語、ドイツ語、フランス語など外国語の辞書で引き、そのカタカナ語が持つ本来の意味に合っているかどうか調べてみると良いでしょう。

と、偉そうなことを書いてしまいました。でも、言葉は生き物ですから、「オレ、ホット!」と言えば、「ホットコーヒーを下さい!」という意味になり、世界中で通用する日が来るのかもしれませんが…。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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