第462回:大学キャンパスはレイプゾーンか? その2
どうしてこんなに事件が発生しているのに、犯人が起訴されなかったり、起訴しない事態になるのか? ノースカロライナ大学でレイプされたアニィーさんは、彼女自身のケースを引き合いに出して説明しています。
彼女が新入生として親元を離れ、大学の寮に住み、初めてフォルタニティー(男子学生のための、結社的な寮、どうにも日本語に適当な訳語がないのですが、それぞれ異なったギリシャ文字を冠した寮組織です。大きな大学内に数軒はある自称エリートのお金持ちグループ組織で、大学に巨額の寄付をしている家の子弟が審査を受けて入る)のパーティーに招待され、そこでウブなアニィーは酔い潰され、気が付いたときには、男子寮の部屋で裸にされて、幾人かにレイプされました。
彼女は直ぐに大学当局に報告に行きましたが、まず学生課の事務所で、「私たちがきちんと処理するから絶対に誰にもこのことを言うな、公表するな…」と告げられ、それから、「どうしてもっと抵抗しなかったのか、どうして酔いつぶれるまで飲んだのか」と言下にアニィーさんがあたかもレイプを呼び込んだかのように諭されました。事件が起こった場所、ファルタニティーも、犯人の部屋も分かっていても、レイプ犯が容疑者として取り調べられることすらありませんでした。
このように一度、味を占めると、レイプ犯は繰り返し犯行を重ねる傾向が強く、"運悪く"起訴された強姦魔は平均で6回は犯行を重ねるというデーターがあります。そりゃそうです、新入生を酔っ払わせたり、ドラッグを吸わせたりして、意識がなくなったところをレイプし、しかも捕まらないのですから…。
大学が評判を気にするあまり、キャンパス内での事件をひた隠しにし、時には事件をもみ消し、嘘の報告をするのは、新入生と寄付集めにヒビクからだと前に書きました。言ってみれば、大学はお金の力に弱いのです。レイプ率全米1位の大学に自分の娘を行かせたいと思う親はいないでしょう。
アメリカの大学は州立であっても、財源の大半を寄付に頼っています。その大学を卒業した普通の人たちから大成功した人まで、税金控除になるということもあるでしょうけど、相応の寄付をします。私のところにも渡り歩いた三つの大学から毎年のように寄付の要請がきます。
そしてもう一つ大きいのが遺産です。どうせ相続税で持っていかれるならと、大学に莫大な遺産の何割かを遺す人が多いのです。ですから、アメリカの大学は基本的にお金と権力、評判に弱い構造になっているのです。
ジェームス・ウィンストンは、1994年にアラバマ州で生まれました。小さい時から運動能力がナミでなく、反射神経も筋力も目を見張らせるものがあり、野球とアメリカンフットボールの両方で大活躍するスポーツ万能少年でした。高校からスポーツ奨学金トレードで、タラハシーにあるフロリダ州立大学に進みました。
エリカ・キンスマンは、色白、金髪の大変な美形で、思わず振り返って見てしまうような容姿を持っています。彼女もフロリダ州立大学の1年生のでした。2012年12月7日、友達に誘われるまま、期末試験が終わってパーティーに出かけたのが運命の分かれ目でした。
そのパーティーで、しつこく彼女に付きまとう男子を毅然とした態度で追い払ってくれた男性が現れ(それはエリカをモノにするために仕組まれた芝居だったのですが…)、エリカはすっかりその男子学生を信用し、彼の部屋まで付いて行ったところ、先ほどの2人組みと彼の3人に押さえ込まれ強姦されてしまったのです。
エリカにとって、始めの難関は家族に打ち明けることでした。やっとの思いで打ち明けたところ、当初、父親は娘の将来を考えると表沙汰にしたくない…と考えたことでしょう。しかし、このまま泣き寝入りはできない、なんとしてでも犯人を罰しなければならないと、苦しい選択の末、大学当局と警察に訴えて出たのです。
ところが、そのレイプ犯がアメリカンフットボールのエースで、大学に入るや否や大スターになったジェームス・ウィンストンだったのです。ジェームスは、それまでにも万引き、セクシャルハラスメントなどで捕まった前歴がありましたが、いずれも即時釈放されています。大学の運動部や町の有力者が、大学フットボールファンだったので、彼らの圧力によるものだと思われます。
レイプされた時、エリカはジェームスのことをまったく知りませんでしたが、テレビでフットボールが放映され、新聞にジェームスの顔写真が出るに及んで、私を犯したのはあの人だ、と分かったといいます。
大学も警察も、事件後11ヵ月間、まったく何もせず、ジェームスも共犯の二人の学生、クリス・キャシャー、ロナルド・ダオービィーも召喚していません。エリカの家族は、プライベート調査官と弁護士を雇い、検察庁がジェームスと彼の仲間二人を起訴し、裁判に持ち込まなければならないように、逃げ場のない状況を作り上げました。こんなことを、被害者の方がお金を払ってやらなければならないのがアメリカなのです。
その間に、ジェームスは大学スポーツの最高栄誉賞であるホイスマントロフィーを最年少で貰い、フロリダの英雄になっています。そして、ドラフトが解禁になる20歳を待って、プロフットボールのタンパベイ・ヴァッカニアーに入団しています。野球の方でも、大リーグのテキサス・レンジャーがジェームス獲得に乗り出しましたが、フットボール一本にしたようです。
-…つづく
第463回:大学キャンパスはレイプゾーンか? その3
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