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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第709回:“Qアノン”への恐怖 その2

更新日2021/05/27


まだまだ数え切れないほどのQアノン(QAnon)が絡んだ事件が起こっています。Qアノンは表に出て、公然と選挙にうって出て、確実に議席を獲得しているのです。比較的小さな町に始まり、次第に州政府、合衆国政府にまで広がりつつあります。そして、教育から、地方の財政を支配しつつあります。

Qアノンは保守的、原理主義のキリスト教カルトとコンスピラシー・セオリー(conspiracy theory)を信奉する極右と結びついた社会現象で、未だにトランプ元大統領を救世主とアガメ奉っています。

Qアノンの広がり、根の深さは、キリスト教の原理主義と結びついているところにあるのでしょう。彼らの多くは聖書の一言一句がそのままの真実であり、歴史的事実であると信じています。新約聖書が今の形に作られていく過程で、幾百とあった経典、文書を試行錯誤し取捨選択の上選んだことなど、耳にしたくもないようなのです。

第一、新約聖書の中で一番古いといわれているマルコ福音書でさえ、キリストが死んでから60年ほども経ってから書かれていて、聖書作家たちは実際のキリストを見ていないのです。最終決定をしたのは、アレキサンドリアの司祭、アタナシオスで、それも367年になってからのことです。 

近年発見された『ユダの書』は神学界に衝撃を与えました。古代エジプト語のコプト語でパピルスに書かれています。そんなものが存在したことは他の文書から推測されていましたが、本物が見つかり、それをどのように現存の聖書とかみ合わせていくか、なんたってユダは裏切り者、キリストを売った男として、すでに世界中にその名が広がっていますから、これを覆すようにユダはキリストの依頼を受けて、密告に走ったというのですから、聖書学者、信者は取り扱いに困り果てているようなのです。これは落ち着くまで恐らく100年単位のシゴトになるでしょうね。

聖書は元々人間が書き、選び、編集したものであることを原理主義者たちは認めようとしないのです。一言一句を正しいと信じるならまず、「汝、隣人を愛せ」を実行し、「右の頬を打たれたら、左の頬を差し出せ」を実践してもらいたいものです。

逆に全くの偽文書であると確定している『シオン賢者の議定書』を Qアノンのグループは、これぞ本物、われらの指針だとしています。私自身『シオ賢者の議定書』を読んだことがないので、ここからは、「ワシントンポスト紙」の受け売りになりますが、反ユダヤ主義をもっともらしく展開したものだそうで、Qアノンはこれをもって、反ユダヤ主義を主張し、ユダヤ系の財閥・ロスチャイルド家やジョージ・ソロスをバッシングしています。

中央政府にもQアノンの波が襲っています。

2020年の下院議員選挙の時、ジョージア州の共和党候補、マージョーリー・テイラー・グリーンさんは、「悪魔を礼拝してる幼児性愛主義者たちから、アメリカ、全世界を救えるのはトランプだけだ」とぶち上げ、また臆面もなく黒人への人種差別を謳い上げ、ユダヤ人排斥を訴えました。時の大統領トランプは、彼女こそ共和党のスターだと持ち上げたのです。

共和党の幹部、ケビン・マッカーシーやスティーブ・スカリースは、彼女の発言を弱い声で非難しましたが、彼女を党員から除籍しませんでした。その選挙で、マージョリー・グリーンさんは当選してしまいました。

また、オレゴン州の上院候補者であるジョー・レイ・パーキンスさんは2020年の議員選挙の時、はっきりと「私はQアノンの味方です。トランプ大統領の味方です。愛国者の皆さん、一緒に、悪魔の陰謀からアメリカを救いましょう!」というキャンペーンを展開しています。

デラウエア州で上院議員の共和党候補者ローレン・ウイッケさんはもっと直接的に選挙運動中にQアノンのTシャツを着込み、対立候補の民主党員クリス・クーンズさんを「キリスト教嫌いの、幼児殺し」と糾弾しています。

そして、他人事でない、私たちが住んでいるコロラド州の下院議員に当選してしまったローレン・ボーベルトさんがいます。彼女は超の付く右翼で、トランプ主義の信奉者、Qアノンを支持し、1月6日の国会議事堂乱入、襲撃を正当化していましたが、どうにも選挙戦でおおぴらにQアノンを謳うと得にならないと読んだのだのでしょう、途中から、私はQアノンのメンバーではないと距離を置こうとしています。しかし、彼女が白人至上主義者であり、黒人運動を蔑視し、コンスピラシー・セオリーを信じていることは彼女の言動から明らかです。ただ政治屋独特の勘、世論に迎合して生き抜いていく感覚を敏感に働かせ、一時、大賛成だったQアノンの活動に、今のところ、距離を置いた方が得だというだけのことが見て取れます。  

このように、Qアノンは新興宗教、オカルト的要素を多分に持っている暴力的極右の団体です。共和党内にハコビッテしまったコンスピラシー・セオリー、党大会で縦横無尽に振舞うQアノンを許すどころか、歓迎していることを憂慮した党員、議員は、党を離れて始めています。これは共和党の危機と言ってよいと思います。

ヒットラーが社会労働党という、大不況のドイツ人にアピールするプロパガンダで議席を増やし、国会で最大議席を占める政党になっていった過程を思い起こさせます。TwitterがQアノンに関連した書き込みを禁止した時、すでに数千のQアノン主体のサイトがあったといいます。そして、Facebookの分析では、2、3百万人のフォロワーがいたと言っています。

まだ田舎町と議員レベルだけの現象だと安穏としていられません。ナチスドイツ時代、社会意識のある人達は初めからナチス、ヒットラーの台頭に警鐘を鳴らしていたのですが、一般のドイツ人が気づいた時には、ナチスはもう、誰もコントロールできないほど巨大な悪しき政治力を持ってしまっていたのです。

QアノンのQの文字をアレンジした旗を見る時、ナチスのハーケンクロイッツ=カギ十字の旗を連想するのは私だけはないと思います。ジェノサイド(大量殺戮)研究所のグレゴリー・スタントンは、「Qアノンはリブランドされたナチスだ」と、Qアノンの反ユダヤ的行動傾向にネオナチの萌芽を見ています。

-…つづく

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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