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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第274回:東西のお年寄りチャンピオン

更新日2012/08/23



今年の夏は、日本のお姑さんと私の年老いた両親、両方を訪れ過ごしました。日本のお姑さんはリハビリセンターに入院していますので、そこでたくさんのお年寄りを観察することができました。

まず、私の単なる直感なのですが、アメリカの老人に比べ、日本のお年寄りは若い…という印象を強く持ちました。アメリカの老人は80歳、90歳なる前に、それまで膨大な体重を支え続けていますので足、腰にガタがきて、半数以上が車椅子か、膝やお尻に人工関節を入れ、歩行器で歩いています。 

ところが、日本の80代、90代のお年寄りは腰こそ曲がり、全体に縮んでしまいますが、まだまだ活発に動き回り、よくおしゃべりをし、よく食べ、よく笑います。

この違いは、コーカソイドの白人とアジア人の違いだけでなく、もちろん人種的な差も大きいでしょうが、文化的な差といった方が当たっているかもしれません。食の文化も含め、お年寄りを大切にする文化が、日本のお年寄りを若々しくしているのでしょうか。

私の両親の家で、古い写真やスライドを引っ張り出して皆で観る機会がありました。私の母方のお爺さんは75歳、お婆さんは92歳、父方はお爺さん82歳、お婆さんは89歳で亡くなりましたから、当時としては、両方ともとても長寿だったと言ってよいでしょう。ところがそのお爺さんやお婆さんが、今の私の両親と同じ歳だった時の写真を見ると、もうヨボヨボの老人なのです。保健衛生や老人対策が進み、平均寿命が伸びたからでしょうか、50年前の80歳と現在の80歳ではとても同じ歳とは思えないくらいの違いが歴然としてあります。

今では、60代はまだ青春……とは言いませんが、とても枯れる年齢ではありません。日本では昔、人生50年とか言われていたそうですが、日本の義理のお兄さんなど75歳を越しているはずですが、とてもスマートでおしゃれ、ダンスにゴルフと、今が人生の最高の時のように暮らしています。

生物学的年齢が飛躍的に延びていると言ってよいでしょう。もう一つ、大切なのは心理的年齢でしょう。精神年齢と書くと、いい歳をとっても子供っぽい行いをする人の専売特許のように聞こえますが、心のあり方は歳のとり方と密接に関連しているように思います。簡単に言ってしまえば、50歳を過ぎたら、個々の生き方、姿勢の方が加齢に大きく影響しています。

無理に若く見せようとするのは、逆に見苦しいものですが、自分の歳を受け入れたうえで、その日その日を存分に楽しんで生きていくことが精神的な若さを保つ秘訣のような気がします。

私の96歳になるお姑さんは、デイサービスに出かける日は朝早くから、着ていく服を選び、何度か取替え、その服に似合うアクセサリーを選び、いつもより丁寧に洗顔し、髪を撫で付けて、ハンドバックにチリ紙、ハンカチ、小銭を入れ、送迎のマイクロバスがやってくる30分前には準備万端整って待ちます。

「こんな婆さん、何を着ても栄えない…」とか、「デイサービスのお迎えより、あの世からのお迎えの方が先に来るかも…」と、自分自身を笑う精神を持っており、その日その日を楽しんで生きているようなのです。

アメリカのお年寄りチャンピオンは、"ディーンお爺さん"です。今年94歳になりますが、大学の授業を(とりわけアメリカの歴史、独立戦争と南北戦争)聴講し、社交ダンスを踊り、リベラルな政治観を持ち、保守政党と宗教家を悪し様に言います。

週に3度は私の事務所を表敬訪問します。その時、必ず小さなノートにメモした新着のジョークを披露してくれます。「何でもメモしないと、すぐに忘れるんでね~」とは言っていますが、なかなか、記憶力は私よりもズーッと良いのです。

ディーンお爺さんの表敬訪問はどうも私のところだけなく、話を聞いてくれ、よく笑ってくれる先生の事務所をぐるりと何軒か回っているようなのです。ディーンお爺さんは94歳にして、社会、政治に対する怒りがあり、知的好奇心が旺盛です。

西洋人と東洋人の差、それに時代の差も大きいですが、それらは自分で選ぶことができません。私たちは偶然、地球上のどこかで、この時代に生まれ、生きてきましたから、いわば選択の余地なく、今ここに存在しているといえます。受け入れるしかない現実です。

東の老人チャンピオンのお姑さん、西のディーンお爺さんには、現実を素直に受け入れた者の強さがあります。お二人とも、ひと時、ひと時を大切に長生きしてください。

 

 

第275回:アメリカ大統領選挙の憂鬱

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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