第526回:クマもケーキショップがお好き?
日本でもクマがあちらこちらに出没し、ご対面事件が起こっているようですが、ケガ人が出るのは主に山菜採りに藪をかき分け、山道を離れ、山や沢に入り込んだ場合がほとんどのようです。
先週、クマに追い立てられるようにして山から逃げ帰ったことを書き、山は彼らのモノ、クマに先住権がある…彼らのルールに我々が従うべきだ…と、偉そうなことを書いてしまいました。ところが、私たちの小屋に帰ってみたら、この高原台地にもクマ旋風が巻き起こっていたのです。
昨日(2017年8月16日)の新聞のトップ記事は、カラー写真入りでクマが真昼間に家の中まで進入し、台所、冷蔵庫、パントリー(食料を保存する小部屋)を荒らし回ったニュースでした。
街まで遠いこの界隈の住人は食べ物を盛大に蓄えておくのが普通で、日常的に使う小麦粉、朝食用のオートミール、砂糖、乾燥させた豆類、穀物などは大きなドラム缶で買い置きします。私たちが今住んでいる小屋を買ったとき、半地下の貯蔵庫に大きなドラム缶7本の小麦粉、お砂糖は2本、お米と麦も3、4本、小型のドラム缶5、6本の豆類、他に乾燥肉、スニッカーのような甘いスナックとまるで2、3年食べていけそうな食料が保存されていたのに驚きました。この家の前の持ち主ほどではないにしろ、近所の農家、牧場の人たちは大なり小なり、食料を大量に買い置きしたり、自分で保存食を作り蓄えています。
クマが一度こんな食料庫を見つけたら、ケーキの店に迷い込んだ子供(大人でもそんな人がいますが)みたいに、まさに天国でしょう。闖入したクマさんはフルコースメニューをデザートつきで堪能したことでしょう。クマの恐ろしげな爪の生えている手は意外と器用なようで、冷蔵庫のドアなど簡単に開け、中のモノがぶちまけられている写真が載っていました。
クマが侵入した家は、私たちの小屋から目と鼻の先のところだったのです。
一度味をしめると、同じことを繰り返すのは動物の(そんな人間もたくさんいますが…)悲しい習性で、そのクマ、同じ家に戻ってきたところを待ち構えていたレンジャーにズドンとやられ殺されてしまいました。
なんでも、今シーズン、この界隈限定で24頭目だといいますから、私たちがズボラを決め込んでいる間に、クマさん随分歩き回り、餌をアサリ、住宅、牧場に侵入し、殺されていたのでした。牧場や農家の人たちにとって、クマの被害はとても大きく、いつも卵を買っているマクドナルド・ファームでは何頭もの羊がヤラレ、マクドナルドさんついにクマを仕留めました。
狩猟のシーズン前に、鹿やエルクの狩猟許可証の抽選が行われます。自然保護のため毎年何頭の鹿、エルクを狩猟対象にするかを決め、それを抽選でハンターに振り分けるのです。この時期になると、廻りの住人は、お前のところは当たった、オレのところは全くダメだったと話題になります。このハンティング割り当ての対象からクマは外されています。申し込んだ人すべてに、それぞれ狩猟地域は決められますが、狩猟許可がおりています。
隣の娘さんもクマの許可を取った…だけど、クマを撃つのはとても難しいと言っていました。 牧場や住宅に迷い込んでくるのを撃つのは易しいけど、山の中でクマを探し、射程距離に近づくのは余程偶然が重ならない限り難しいというのです。でもこの季節、牧童たちが野良に出るときは皆、身近にライフルを置くようにしています。
私たちの家にクマさん、侵入してもらいたくはありませんが、山の中に棲んでいるクマまで、殺すことはないのではないか…と思うのですが。クマの行動範囲はとても広く、牧場荒らし専門のクマと山で木の実、野苺、山葡萄だけ食べているクマとの差はなく、一度でも人間の関係した食べ物、ドッグフードなどを味わうと、野生の自然食品より人工的な加工食品ファンになるらしいのです。
森林保護官の注意事項では、クマは甘いものが大好きだから、ハミングバード(ハチドリ)用の砂糖水の入った餌の瓶を軒下に下げずに、家の中に取り込むこと、犬の餌の食べ残しをなくし、餌の皿を綺麗に洗うこと、もしくは家の中で餌をやり、夜間犬は必ず家の中に入れること。ガレージに食料、犬、猫の餌袋などは置かないこと。ゴミの缶はきちんと蓋が閉まるものにすること、コンポストに当分スイカの皮などクマを呼ぶようなモノを捨てないこと、クマ除けスプレーを手の届くところに常設すること、車の中に食べ物を残さないこと、車、トラックは鍵をかけること(車のドアなどクマの器用な手で簡単に開けるのだそうです)、などなど、細かく並べています。
そんな注意は郊外の団地向けのもので、この界隈の農家、牧場でそんなことできるわけがありません。大量の家畜飼料を蓄える小屋、鶏小屋、豚小屋、牛舎、馬小屋、羊は小屋に入れず野放しだし、肉牛も放牧しています。我家でさえ母屋のほか、物置小屋は車庫を含め五つあり、平均的な農家ならもっと大きな建物が十軒はあるでしょう。ですから、クマさん、一度おいしいケーキの店を見つけ、味を覚えたら、次々ケーキショップを訪問することになります。人間の何千倍という嗅覚を生かしてケーキショップを見つけるのは造作もないことで、そんなクマは殺すより他ない…ということになります。
自然が一杯の高原に憧れて棲むのは、あまりハッキリしない野生動物との境界線上で暮らすことを意味し、クマが冬眠に入るまでビクビクしながら生活しなければなりません。
私も、普段かけたことのない家のドアの鍵、車の鍵を夜寝る前にかけることにしました。それを見てウチのダンナさん、「俺がクマならそんな鍵を開けようとしないで、軽いカウンタパンチでガラスを割るけどね~」と、先週クマに追われるようにテントをタタミ、逃げ帰ってきた割にはのんびり構えているのでした。
第527回:またまた“強姦事件”スキャンダル
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