第527回:またまた“強姦事件”スキャンダル
アメリカのテレビ番組は大スターを生み出します。黒人のオプラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)のトークショーは全米ネットワークに乗り、彼女に巨万の富と盛名をもたらしました。超有名タレントと呼んでもよいほどの成功を収めたのです。彼女は自分の貧しい過去、父親からまでセクシュアルハラスメントを受けた過去を包み隠さず話し、本に書き、いつも黒人の立場、女性の立場から率直にモノを言い、彼女の番組にゲストとして招かれることだけで、とても名誉なことになるほどのステータスを確立しました。
もう一人、黒人男性ですが、オプラ・ウィンフリーと長者番付のトップを長年競い合っていたのが、ビル・コスビー(Bill Cosby)です。彼も『The Bill Cosby Show』というこちらでセットコム(シチュエーションコント)と分類されている番組を持ち、黒人の地位向上に向けての社会運動などもしていた大人気のスターです。この二人の黒人テレビタレントは、ハリウッドの人気スターが羨むような天文学的な収入を得ています。
ところが、この人気、実力とも絶大だったビル・コスビーが強姦、セクシュアル・ハラスメントで訴えられたのです。しかも彼がテレビに出始めた1960年代に始まり、2014年までの長期にわたり、ヨクゾ、マアこれだけの女性に手を付けたものだとあきれるほど、次々と、私も、私もヤラレタ…と名乗り挙げてきたのです。『ニューヨークマガジン』(http://nymag.com/)ではビル・コスビーにヤラレタ35人の女性の顔写真を表紙に載せ、この事件を掲載しました。
ビル・コスビーの事件をインターネットで調べようと、関連した記録に当たったところ、それこそ膨大な記録、新聞、雑誌、裁判の記録にぶつかり、とても全部に目を通すことなど不可能なほどの量に出くわしました。
数だけ挙げると、2015年の10月24日までに60人の女性が名乗りを上げ、ビル・コスビーを告発しています。個々の例、一人ひとりの女性にとって人生に暗い影を落とすようなストーリーばかりで、こんなこと本当に許されていたのか…と開いた口が塞がらない事例の羅列なのです。すでにインターネットのWikipediaには“Bill Cosby sex assault allegations”と言う項目まであり、訴え出た女性たち60人の一覧表が載っているくらいです。その後もビル・コスビーを告訴する女性が続々と増えつつあります。
億万長者のビル・コスビーを訴えるには、勇気だけでなく莫大な費用がかかります。しかもアメリカの10州とカナダのオンタリオ州にまたがっての犯罪ですから、グループ裁判とはならず、個々の例を実証していく裁判になります。しかも、州によっては時効になる古い犯罪も多く、第1ラウンドのビル・コスビー裁判は陪審員の票が完全に分かれ、ペンシルバニアの法廷では実証できる証拠不十分としてビル・コスビーに無罪を言い渡しているのです。ですが、メディアにバックアップされた被害者たちは、ビル・コスビー断罪のための運動を強めていくことでしょう。
アメリカの伝統になってしまったセックス・スキャンダルの中にあっても、驚くほどのスキャンダルが女子の体操界に起こりました。火付け役は『インディアナポリス・スター』(indystar.com)という新聞で(US Todayの系列です)、女子体操選手に対して360件のセクシュアル・ハラスメント、強姦が行われていた、それも20年間に渡ってのことだとスッパ抜いたのです。
槍玉に挙がったのは、1996年から2015年までアメリカ女子体操チームの専門医だったラリー・ナサール(Larry Nassar)で、確かな事例だけで95件もあるというのです。被害者は未成年の少女たち(13歳から16歳まで)が大半で、何としてでもアメリカ代表選手になりたい、オリンピックに出たいという心理をラリー医師がうまく利用したのです。
問題は、そのような医師を20年も専属にしていながら、ハラストメント、強姦に気が付かなかったか無視していた米国体操連盟(USAG)にもあります。1990年代に、すでにラリー医師を訴えた(選手の親が)こともあったのですが、US選手権前、オリンピック前、強化合宿が始まる時にそのような事件を公にするのは好ましくないと、揉み潰されていたことが明らかになってきたのです。言ってみれば、メダル至上主義が生んだ悲劇で、米国体操連盟はラリー医師の個人的な犯行で済ませたいことが見え見えですが、米国体操連盟の体質自体に大きな問題があることは間違いありません。
ラリー医師、22項目の犯罪で裁判にかけられることになりました。「彼の行いはまるで野獣だ」と、ミシガン州の検事が嘆息するほど酷いやり方で(内視鏡でヴァギナやアヌスの映像を撮影など)何度も犯行を重ねていたとされています。
2000年のオリンピックで銅メダルを取ったジェイミー・ダンシャー(Jamie Dantzscher)さんはラディカルで思い切った報道をするテレビニュース番組『60ミニッツ』に出演し、ラリー医師を名指しで具体的に告発しました。また、超州的権限を持つFBIまでが捜査に乗り出し、ラリー医師の自宅から大量のチャイルド・ポルノを見つけました。
恐らく、願わくばと言った方が当たっているかしら、ラリー医師に有罪の判決が下ることでしょう。でも、彼一個人の犯罪のほかにも、女子体操界に巣食っている強姦魔、見て見ぬふりをしている体操連盟のエライさんらも同罪なのですから、この際、思い切りウミを搾り出して欲しいと願っています。
第528回:隣人たち、サムとダイアン一家
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