第432回:航空機内の全面禁煙とタバコ訴訟
世界の主な航空会社が全面禁煙を打ち出し、私のようなタバコの煙アレルギーの人には大助かりです。元々、飛行機の中のような狭く限られた空間でプカプカタバコを吸うこと自体、間違っていたのですが…。
といっても、先鞭を切ったアメリカが機内の全面禁煙を打ち出したのは1987年のことで、それほど昔のことではありません。それまでは禁煙席と喫煙席が一応分かれてはいましたが、座席の枕のところに、ここより先禁煙と書いたカードが虫ピンで止められているだけで、煙の方は自由に漂っていました。別室になっていたわけでありませんでした。
FAAというアメリカの航空局が、1970年代に禁煙席を30席設けるべしというお触れを出し、おまけに"セカンドハンド・スモーカー"と呼ばれる、他の人が吐き出したタバコの煙を吸った人は、タバコを吸っている本人より健康に悪影響がある…という研究結果が出たりで、USエアーラインは急遽の策、なんともアメリカ的な民主主義、最大多数の最大幸福論を各フライトごとに適応したのです。
チェックインの時に、喫煙か禁煙かを乗客に問い、もし禁煙派が半数以上いたら、その便は機長の権限で全面禁煙としたのです。これがFAAの限定禁煙席を義務づける前の年、1986年のことです。この民主主義的禁煙決定方式は非常に受け、禁煙便が多くなり、USエアーラインの乗客が増え、他の航空会社も右へ倣えしました。
民間航空機で全面禁煙になるとき、航空機の安全という面では問題にならず、もっぱらタバコアレルギーの人たちが禁煙運動をし、航空会社もすべての便を禁煙としてもショーバイにさほど支障はない…と見込んで決定したことのようです。
ですが、大手タバコ会社から盛大な支援金を受けている愛煙家の"禁煙反対グループ"は、当初、過激な??行動、禁煙の機内でタバコをプカプカ吸い、CAの注意を睨み返し、パーサー、機長の警告を無視し、着陸した機内で逮捕される事件を何度も起こしていました。飛行場の記者会見室では、タバコ会社から派遣された弁護士と一緒に記者会見を開たりしています。もちろん、彼らはその席でも堂々とタバコを吹かしていました。
日本は、スペイン、イタリアなどの地中海の国々、アラブ諸国、中国と並び、タバコ天国の国でした。一昔前のことになりますが、うちのダンナさんと日本に帰り、彼の友人と居酒屋などに繰り出すことは、私にとって最悪の事態でした。彼の友達と会って、お話をするのはとても楽しみなのですが、一歩、居酒屋に足を踏み入れるや、ムッとしたタバコとお酒の臭いに圧倒され、まるで煙突の中を手探りで歩かなければならないような地下の狭いバーなどは、ワ~、これから地獄行きだ~、とさえ思ったほどです。
よく分からないのですが、男の人がチェーンスモーカーでも、奥さんのほうは全くタバコを吸わないカップル、夫婦がたくさんいます。あれでは、奥さんの方としては、汚れた灰皿にキスするようなもので、とても我慢できることではないと思うのですが、その辺の事情、ウチのダンナさんの解説では、「ナーニ、日本の夫婦は結婚して3日も経ったらキスなんかしないから、問題にならん」と言っています。それって、ホントでしょうか?
そんな事情からでしょう、アメリカより12年も遅れ、JALやANAなど日本の大手の航空会社が全面禁煙を打ち出したのは1994年の4月からのことです。
未だに、タバコOKの航空会社もあります。エアーインディアやタヒチ航空です。
今、空港や駅にガラスの箱のような喫煙ルームがあり、アンタたち、そんなにまでしてタバコ吸いたいの…という軽蔑の視線に耐え、動物園の珍種のサルのように外から眺められながら一服している光景はなんだか、哀れです。
そこで、愛煙家の方々に、素晴らしいトラの皮を奥さんや家族に残してあげる秘策をお教えしましょう。
2014年のことですが、フロリダ州に住むJ・レイノルズさんが肺がんで亡くなりました。彼は13歳から"キャメル"一本やりの愛煙家で、死因は明らかにタバコの吸い過ぎによるものでした。奥さんが、主人が死んだのはタバコのせいだとタバコ会社を裁判に訴え、なんとタバコ会社から2兆3,900億円相当の賠償金を州に払わせ、別に遺族には17億円相当の慰謝料を払えという判決を勝ち取っているのです。
現在、その手の裁判がアメリカ全州に拡がり、進行中の裁判は39の州に及び、総額42兆円相当の賠償金裁判に発展しています。ちょっとした国の国家予算並です。
日本の愛煙家の皆さん、今まで散々、煙たがっていた奥さんに迷惑をかけながらタバコを吸い続けてきたのですから、定年と同時に禁煙…などというヤボなことをしないで、断固死ぬまで吸い続け、死因がタバコによるものであると明確な事実、裏付けを残し、奥さんや子供たちが、タバコ会社を裁判に訴える充分な資料を遺産代わりに残すべきです。
民間のタバコ会社が、これだけ大きな裁判沙汰になり、莫大な罰金、賠償金を払ってもつぶれないのですから、後ろに国が控えている元専売公社の日本たばこ産業株式会社が潰れるわけがありません。
日本でも、盛大なタバコ裁判が広がり、今まで儲け過ぎていた日本たばこ産業株式会社が未亡人たちに億単位の賠償金を払う日が来ることを祈っています。
がんばれ、愛煙家の奥さんたち。そして、死ぬまで吸い続けましょう、愛煙家の旦那さんたち。
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