第179回:インターネットの“蚤の市”
どこの町に行っても、"蚤の市"を覗くのはとても楽しいものです。その町や国の普通の人々の生活が垣間見ることができますし、面白いお土産や"掘り出し物"にめぐり合うかも知れない期待があります。泥棒市のように出所の分からない怪しげなものを並べている蚤の市もあります。蚤の市は消費税を払わずに買い物ができる数少ない場所です。
アメリカでも、最近、市や町の公園で蚤の市が開かれるようになりましたが、最も一般的なのはガレージセールと呼んでいる、個人の家の庭先やガレージに、いらなくなった物を並べ売り出すやり方です。元々、不要のものですから、馬鹿安値で叩き売りします。新聞にガレージセールの欄があり、そこに、期日、主な売り物の簡単なリストが載っているので、それを見て、春や秋のガレージセール・シーズンには、大型トラックで町中を掛け巡り、掘り出し物を漁るセミプロバイヤーが出現したりします。
蚤の市は狭い地域社会に根ざしたリサイクル運動ともいえます。そんな蚤の市をインターネットで始めた人がいます。クレッグ・ニューマンさんは、コンピューター・ソフトウエアの技師ですが、商業主義を廃し、地元で町内会的に売りたし、買いたしの欄をインターネットに設けたのです。それが1995年のことで、サンフランシスコ界隈のベイエリアだけのコミュニティーを対象にした、口コミをインターネットに載せたような極々小さなものだったようです。
もちろん売りたい物をリストに載せるのも、その欄を利用するのも無料です。クレッグさんのアイディアは、売りたし、買いたしの欄は設けてあげましょう、後は直接お互いに連絡し合い、当事者同士で交渉、決定してくださいというものです。E-bay、
Amazon、Googleなど、ほかのインターネット販売のように、売り手から手数料、掲載料を取らないのです。
ところが、クレッグさんの名前をそのまま付けた、クレッグズリスト(Craigslist)はあれよあれよと言う間に50ヵ国、570都市に広がり、今ではアメリカ人でクレッグズリストを開いたことのない人、利用したことのない人はいないと言ってもよいほどです。1ヵ月間のアクセスは20億回と言いますから、大変な数です。言葉も英語だけでなく、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語に及んでいます。
クレッグズリスト
http://www.craigslist.org/
は画面に宣伝が全く出ません。自分が探しているモノをクリックまたはインプットすると新しく掲載した順に出てきます。不動産、アパート、自動車のほか、ガレージセール、蚤の市にあるものなら何でも見つけることができますから、新聞の売りたし、買いたし欄より余程充実しています。クレッグズリストで見つからないモノはこの世に存在しないと言われるほどです。
私たちも、近くの牧場で放牧している牛が庭に入ってこないよう、丈夫なゲートをクレッグズリストで破格の値段で買いました。学生さんのアパート、借家探しにはなくてはならないツールになっています。
このとても便利なサイトが今大きな社会問題になっています。そのクレッグズリストに、新聞、雑誌のように求人欄、人探し、出会いサイトがあり、求職活動には大いに役に立っているし、サイトを通じて知り合い、ロマンスもたくさん生まれているようですが、例によってエスコートサービス、リラックスマッサージに名前を借りた売春が入り込んできたのです。
フィラデルフィアでクレッグズリストで知り合った女性を殺し、本人も刑務所内で自殺する事件が起きました。あまりに容易に誰でも利用できるのことを非難する声が上がり始めたのです。また、掲示欄にあるアダルトサービス(実際は売春でしょうね)を通じて、自分でショーバイを始める少女が増え、社会問題になりつつあります。
地域社会のため、あまりに便利で使いやすいインターネット掲示板を提供すると、どうしてもそれを利用して違法行為を行う人が出てくるのは、止むを得ないことかもしれませんね。クレイグズリストではすぐにエロチックサービス、アダルトサービスの欄を削りました。
元々、クレッグズリストは非営利事業として始めましたが、これだけ膨大な利用者、リストをカバーするには費用がかかります。不動産の売買や貸しアパートなど、商売としてリストに載せるのに、地域によっても異なりますが、5ドルから75ドル取っています。エロチックサービス(アダルトサービス)も1件10ドル取っており、それがクレッグズリストにとってはドル箱だったようですが、あっさり切り捨てました。
サンフランシスコにあるクレッグズリストの本社は、木造2階建て(日本流なら3階建て)の貧相な古い普通の住宅です。アメリカ主要都市にソフトを管理するスタッフを置いていますが、それでも社員全員で28人しかいません。
これだけ、流行に流行ってくると、それを足場にお金儲けをたくらむ会社乗っ取り屋、投資家が出てきます。一番クレッグズリストに恐怖を感じていたインターネットオークションのE-bayがクレッグズリストの株25パーセントを買い占めたのです。そして、路線を儲け主義に変更しようとしていますが、今のところ、クレッグズリストでは、あくまで商業主義を取らないと声明を発表し、E-bayと裁判沙汰になっています。
クレッグズリストを実際に使っている人は誰でも、今のままでいて欲しいと願っているのではないでしょうか。蚤の市が庶民の憩い、楽しみの場であるように、インターネットで妙な宣伝が全くない、売りたし、買いたし欄を見ることができるのは素晴らしいことだと思うのですが…。
第180回:クマがでた~!
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