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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第180回:クマがでた~!

更新日2010/10/14


夏休みが終わってからも毎週末山登り、ハイキングに出かけキャンプをしています。9月に入ってからは、これ以上望みようもないほどの晴天が続き、空気が澄み渡り、山々の稜線がくっきりと浮かび上がって見えるほどです。それに夜の星はどうでしょう、全天がグンとマジカに迫ってきて、星同士がぶつかり合ってしまいそうです。流星群が近づいたときは、流れ星を数え切れないほど見ました。

9月の初めにサンホアン連山の頂上近くにあるアイスレイクまで登り、谷間に脛(すね)ほどの深さの渓流が走る川辺にキャンプしました。山登りですっかり汗にまみれた体をシビレルほど冷たい清流で洗っている最中、私の裸に魅せられたわけではないでしょうけど(こんなおばあさんですからあたり前でしょうけど)鹿が二頭近寄ってきたのです。まだ狩猟シーズンが解禁になる前でしたから、人間を恐れていなかったのかもしれません。鹿が二頭連れ立って川をジャボジャボ歩いてくるのです。私はヤセッポチですから、発育不良の小鹿とでも思ったのかもしれません。

二頭の鹿が突然何かに驚いたように、川から跳ね上がり優雅な跳躍を見せて川向こうに去ってしまいました。どうしたのか、何が鹿を驚かせたのか分かるまで、5、6分かかったでしょうか、川の向こうの藪の中で黒いものが動いているのです。それがクマだと判明するまで、またさらに5、6分かかりました。距離にして60~70メートルはあったでしょうか、野生のクマをこんな近くで見たのは始めてでした。距離を置いて見ると、クマはなかなかメンコイ動物ですね。

私が鈍いのか、恐しさが全く湧いてきませんでしたが、自然に溶け込むことを理想としているはずのウチの仙人、ダンナさんの方が先にテントを畳もうと言い出し、こんなところにキャンプするのはとても危険であることを思い起こさせたのです。 

急いでテントを畳み、広げたキャンプ道具を片付けながらも、眼の片隅にクマの姿を常に置き、万が一クマがこちらへ向かってきた時にはソーセージ、ハンバーグなど、クマが好きそうなものをそこに置き去り、ユルユルと後退するのだぞと、なんだかクマのエキスパートのようなウチのダンナさんの言葉どおり、おっかなびっくり、かつ静かに退散したのです。

谷川の流れが私たちの臭いと、音を消してくれたせいでしょうか、幸いクマは私たちに関心がないようで、ガサゴソ対岸の藪や木立の間を散策している姿で、30分以上も私たちを楽しませてくれました。

家に帰ってから、新しく近くに越してきたバッドにクマの話しをしたところ、コロラド州の記録で一番大きなクマを仕留めたのは俺だ、敷物にしてあるから見ていかないかと言われました。そのクマの大きさたるや、ウチの仙人が薪割り用の片手で持つ小さなマサカリを振り上げ、「クマが来たら、俺がクマの目と目の間にこのマサカリを打ち込むから、その間にお前は逃げろ」などと勇ましいことを言っていられるサイズではないのです。その手には凶暴そうな爪がニョッキリと出ていて、あれで軽く撫でられただけで、人間の頭全部が飛んでしまうでしょう。

日本でもクマ騒ぎがあり、岐阜県飛騨氏古川町のギャラリーに侵入して、ハンターにあっけなく仕留められたそうですが、体重が110キロとありますから、本州のツキノワクマはずいぶん小さいんですね。「のらり」の編集長の越谷さんと同サイズですから、可愛いものです。※「110キロもありませんので、訂正させていただきます…」(只今ダイエット中の「のらり編集部」より) 

どうしてでしょうか、今年はクマが大いに繁殖し、ウチの裏山ではすでに14頭も撃ち殺されています。町を挟んだ向こう側の高級避暑地のアスペンでは、クマの被害、ゴミ箱荒らしから、家宅侵入、人身の害まで多発し、自然保護管は昨年より200頭も多い、405頭の狩猟許可を出しました。2010年9月24日までに81頭が殺されました。 

コロラド州ではハンティング許可証を売り、それが自然保護、国立公園などの大きな財源になっています。今シーズンは州全体で1,020頭のクマ狩猟許可を出しています。ライセンス料は州の住人にはクマ一頭41ドルですが、州外の人、外国人からは一頭351ドルも取っています。それでも、州外からハンターがドッと押し寄せ、ハンティングロッジや銃砲店、キャンプ洋品店、モーテルは不況知らずの大盛況です。

クマや鹿、トナカイ、マウンテンライオンなどの狩猟ライセンスは前払いで、ライセンスは取ったけど結局獲物を獲ることができなくても、お金は返金されません。獲ってからライセンスを要請するのは違法です。獲った獲物は、町にたくさんある肉屋さんがさばき、仕分けし、500グラムくらいずつの冷凍パッケージにしてくれます。

名ハンターの隣人バッドは、もう何年も肉を買ったことがなく、4家族、10人以上の肉はすべて狩猟でまかなっているそうです。

いよいよこれから本格的な狩猟シーズンに入ります。私たちが見たあのクマは無事に生き延びることができるのでしょうか。

自宅に戻って詳しい地図を見たところ、私たちがキャンプしようとした、小川の向こうの山は、なんと"Bear Mountain(クマの山)"という名前でした。

 

 

第181回:日本語教室、言葉は人、言葉は国

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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