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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第232回:健康のためのデブ防止税

更新日2011/10/20


支払う人皆に納得のいく税金システムや満足する税制などというものは全く存在しません。

アメリカの億万長者、ワーレン・バフェットさんはいつも長者番付けのトップクラスに名前を連ねている人ですが、自ら「お金持ちがもっと税金を払い、そして取る税制にすべきだ」とぶち上げました。

彼自身が払った税金は6,938,744ドルですが(約6億5千万円相当かな)、それは彼の全収入の17,4%にしか当たりません。ところが、彼の秘書で、年収5万ドルから10万ドルの人たちは、彼より高い平均36%の税金を払っているというのです。超お金持ちの企業家の方から、もっと税金を払わせてくれ……というのも珍しい話ですね。

アメリカの税制は厳しく、昔からこの法律の実定制は高く、アメリカの古典として有名な『森の生活』を書いたソロー(Henry David Thoreau)も、政府のあり方に反対して納税を拒否したあげく、牢屋に入れられたりしています。もっとも、彼は生涯超貧乏でしたが……。

そういえば、元大統領夫人だったナンシー・レーガンも、ミンクか何かのコートを贈られ、それを申告しなかったとかで、税務署から呼び出しを喰らっていました。過大な追徴金を払って無事にコトナキを得たようですが……。

このように、会社の忘年会のくじ引きで当たったような物品も、親から譲り受けた中古の車も課税対象になります。けれども、大金持ちの人たちは、優秀な会計士、税務弁護士を抱え、税法をかいくぐっているのはどこの国も同じでしょうね。

中国で旧歴の8月15日に贈る習慣のある『月餅』、このお菓子、私の姑さんの大好物ですが、に税金をかけるとお役所が言い出し、ちょっとした騒ぎになっています。 『月餅』はパイ状のクラストの中にアンに胡桃を混ぜたり、卵の黄身を入れたりで、自分の家でもそれぞれ違った風味で造るし、お菓子屋さんもこのときとばかり、売り出します。

中には『月餅』のゴダイバ(Godiva)的なブランド銘菓もあるといいます。年収1億円相当以上のスーパーリッチが世界で一番多い中国で、8月15日には日本の暑中見舞い以上、誰しもがする庶民の習慣に税金をかけようと言うのですから、穏やかではありません。『月餅』を非現金収入とみなし、課税対象にするというのです。

もっとも、『月餅』はとてもカロリーやコレステロールが高く、すでに西欧化したデブが多くなりつつある中国で、将来の健康を見越した、健康税だ……と見る人もいることはいるようです。

日本でのタバコの税金も、今まで莫大な税収を得ていましたが、ここでさらに増税し喫煙者を減らす狙いは、タバコのせいで健康を害し、医療で持ち出される金額の方がタバコで得る税収入より大きくなってきた……という試算に基づいているのでしょう。

この健康のための税金という考え方は、奇妙に響きますが、医療が国の財政を締め付ける前に、デブ防止策の税金を実際に導入している国があります。

デンマークでは、ある一定以上の脂肪分を含む食品の税率を高く設定しています。これには、脂身の多い肉、バターなどの乳製品、脂肪が含まれた牛乳も課税対象になるそうです。

おいしい豚肉の産地であり、酪農が盛んなデンマークで、しかも、ハム、乳製品の大好きなデンマーク人にとっては、税金、医療、胃袋の三つ巴の大問題になっています。生産者はどのように対応しているか、興味のあるところです。

ハンガリーでも、糖分が多いお菓子に税金をかけているそうです。主食は課税対象とせずに、主にスナック類、甘いもの、ポテトチップのような脂分と糖分の多い間食が槍玉に上がっています。バターとタマゴをたっぷり使ったお菓子の好きな人にとっては、頭だけではなく、懐も痛むことでしょう。

予防にお金を使う方が、実際に病気になってから治療に使うお金よりはるかに少なくて済むのは明らかです。それになんといっても、自分で予防を怠らず、健康管理をして元気な毎日を過ごす方が、病院のベッドに縛り付けられるより、はるかに素晴らしいことなのですから……。

 

 

第233回:日本のクマ騒動とアメリカの猛獣狩り騒動

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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