第776回:無視できない空気汚染、“オナラ”
ウチのダンナさんはところ構わず、どこでもいつでも臭いオナラをばら撒きます。彼に言わせれば、「草食人種は腸が長く、消化にゆっくりと時間をかけるから、自然腸の中で発酵し、ガスも発生する…」云々と理屈を捏ねています。ところが、義理の妹(アメリカ人です)としばらく一緒に生活する機会を持ったとき、彼女が盛大にオナラをするのに呆れ果てました。音も大きく、しかも長く、その上頻繁に放出するのです。それを恥ずかしがるところが全くなく、至極当たり前なことのようにフリ撒くのはショックでした。とてもウチのダンナさんの比ではありませんでした。「そりゃ、オメエ、あの体格だから(彼女は超おデブなのです)、オレが負けて当たり前だな」とあっさり負けを認めるくらい、オナラを発しまくるのです。
よく彼女の家族がガス中毒にならずに今まで生き延びてきたのもだと、感心するほどなのです。おまけに、上から(口から)ゲップを四六時中するのです。彼女のような体質、ブーとゲップをしまくる人が5、6人いれば、一般家庭で使うガスコンロくらいカバーできるのではないかしら…。
オナラは匂わなければ、十分に火力のあるメタンガスです。大気中にばら撒くのは大気汚染になりますが、上手に集める方法さえあれば有効に使える資源なのです。元々オナラの主成分であるメタンガス(炭化水素)は無色無臭なのですが、オナラのように発生源が澱んだ沼や動物の死体など、臭いモノと親密に関わっていることが多いので、メタンガス=臭いオナラの図式ができ上がってしまったのでしょう。
今盛んに問題になっている地球温暖化の悪役、二酸化炭素の80倍もの温暖化パワーがメタンガスにあるのだそうです。そして、その発生源の35%は牛や豚などの家畜と聞いてさらに驚いてしまいました。これにダンナさんや義理の妹が発生したガスは含まれていないようですが…。
石炭発掘の時に発生するメタンガスは全体の8%、オイルやガソリン生成に伴うものが30%ですから、私たちが飲んでいる牛乳、食べている牛肉、豚肉は膨大な量のメタンガスを撒き散らしている結果だというのです。
地球温暖化の凶元全体の25%がメタンガスによるものです。
慢性下痢気味のウンコを大量に撒き散らしている牛のウンコを集め、資源としてガスを発生させ、それを利用しようという動きがあります。アメリカの乳牛の産地ウィスコンシン州の酪農では、牧場主のカール・クレイブさんが自慢するように、メタンガス収集装置を“cow power”(牛発電所)だとして、300ヵ所ある装置を大きく広げようとしています。
しかし、中西部で膨大に放牧している肉牛のウンコはハナから集めることなど不可能で、私たちが歩く森の中、ハイキングコースに撒き散らし、垂れ流しの状態です。牛の緑色のベットリした大きなウンコは搗きたての草餅を臼から出し、そのままポイと投げ捨てたように、そこここにあります。絵に描かれた美しい草原、幸せそうに草を喰む牛、その背景には、垂れ流した牛のウンコとそれに群がる蠅の大群がいるのです。
アメリカに9,800万頭の牛がいます。牛はメタンガスの大量発生元であるウンコ、そして絶え間ないオナラ、もう一つ四つの胃袋から吐き戻すように口内に送り返す反芻の時にするゲップがあります。これは牛に反芻するな、ゲップするなとは言えません、言ったところでゲップを抑えるテーブルマナーを躾けるわけにはいきません。
ところが、科学者は色々考えてくれるもので、牛にある種のマイクロバイオティックな飼料を与えると30%もゲップの中のメタンガスを減らすことができるというのです。牛のための整腸剤のようなものでしょうか。これは実験段階で、その飼料で乳の出が良くなるわけでなし、ただ温暖化をスローダウンさせるだけですから、牧場主さんたち、そんな特別な飼料にお金を払うわけがありません。これは大々的に政府の援助がなければ、牛のゲップはコントロールできないことなのです。
ウンコを集めメタンガスを有効に集め、かつゲップが少ない牛からの牛乳、乳製品に緑のマークを付けようとする機運もありますが、オルガニックな食品が一般に受け入れられたのは、自分たちの身体に良いから、あるは優しい、少なくとも化学薬品など害になるものを含んでいないと、幻想を抱かせたからで、その牛の乳製品がどれだけメタンガスの発生を抑えているかとなると、緑マークの広がりには限界があるでしょうね…。
「オイ、人間にも緑マークを適応したら、メタンガス発生を抑えることができるんじゃないか?」とダンナさんが言っています。それなら、まず自分が率先してガスの発生をコントロールして貰いたいと思いますけどね……。
-…つづく
第777回:犯罪天国になってしまったアメリカ
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