第22回:Shanghai (1)更新日2006/06/22
乗り込んだ汽車の中はすでに中国であった。すでに香港は中国へ返還されているのだから当然といえば当然だが、特に国境らしい国境もないままに本土へ入り、自分達にあてがわれた寝台車のベッドへバックパックをチェーンでロックする。周りの乗客たちの食べているものや着ている物、話し方やしぐさ、抱えきれないほどの電気製品や土産物の山が、彼らが本土の人間であることを物語っていた。
最初の大きな都市である新川(Shenzhen:シンセン)へさしかかっても、最近の中国の経済的な発展振りのせいもあり、車窓を通して映る景色は、香港と比べてここが別段に地方都市というイメージは受けなかった。いや、むしろその発展振りにはただただ驚かされるばかりだった。
途中いくつかの街で停車しながら、列車は次の目的地である上海へ向かって広大な中国大陸を少しずつ少しずつ進んでいった。
上海駅へ到着して初めて車外へ出ることができるとともに、入国審査も受けなければならなかった。審査自体は問題なく通過したが、駅を一歩出てその余りの人の群れに圧倒されてしまう。
香港にしばらく滞在していたとはいえ、フェスティバル時などを除けば、それほど人ごみに出合うことのないアメリカから飛んできていることもこの驚きには関係しているのだろう。
さらにここで初めて受ける中国人パワーの洗礼、これには正直参ってしまった。香港の人達とは明らかに違う、旅人と見れば人の拒否を物ともしない強引な売り込みの人々の群れ。
自分自身は、この強烈なパワーをある程度は興味を持って楽しんでいたのだが、人との距離を保ち、昔ながらの生活規律を大事にする中西部出身のエリカには相当に堪えたらしかった。
この売込み人たちを振り切りながら、なんとかかんとか駅前の食堂に席をとった頃には、長旅の疲れと軽いカルチャーショックから、「この先こんな国で旅を続けることができるかどうかは、自信がない」と言い出す始末。
まだ中国の旅は始まってもいないというのに…。
-…つづく
第23回:Shanghai
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