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第320回:流行り歌に寄せて No.125 「東京流れ者」〜昭和40年(1965年)

更新日2017/02/02

今書いている昭和40年くらいになると、有名な曲に関して言えば、それを歌っている人の名前も顔も覚えていないということは、ほとんどなくなる。うろ覚えではあるが、どことなく思い出せることの方が圧倒的に多い気がする。

ところが、今回の竹越ひろ子に関しては、お名前もお顔も、未だに思い出せないでいる。もちろん、彼女が『東京流れ者』を歌う声も歌詞もよく覚えているのにである。ネットなどで姿を確認したが、未だにピンと来ないでいる。

この歌の最初の版のレコード・ジャケットでは、目鼻立ちがはっきりというより、しっかりした顔の、ポッチャリした方という印象である。

昭和16年大阪生まれ、西成区にあった岸の里音楽院を昭和34年に卒業し、ジャズ歌手としていろいろなところで歌っていたが、縁あってプロレスラーの力道山に見出され昭和38年、キングレコードから『男の行く道』でデビューした、と資料にはある。

ジャズで鍛えた、強くしなやかな声の持ち主で、その後もブルースを中心に女心を表現する曲を次々と録音していったようである。割合に最近の映像ではデビュー当時からは想像できないくらい痩身になっていたが、これは、胃がん、子宮がんなど、がんを4度経験したことからだった。その度に、病苦を乗り越えてステージに立っているとのこと、歌い手としての、強い矜持を持った人だと思う。

「東京流れ者」  永井ひろし:作詞  作曲者不詳  竹越ひろ子:歌

1.
流れ流れて 東京を

そぞろ歩きは 軟派でも

心にゃ硬派の 血が通う

花の一匹 人生だ

ああ 東京流れ者

2.
夜の暗さに はぐれても

若い一途な 純情は

後生大事に 抱いて行く

浪花節だよ 人生は
 
ああ 東京流れ者

3.
曲がりくねった 道だって

こうと決めたら まっすぐに

嘘とお世辞の 御時世にゃ

いてもいいだろ こんな奴

ああ 東京流れ者


さて、この『東京流れ者』は作曲者不詳の、いわゆる伝承歌である。有名なのは競作となった、この竹越ひろ子盤と渡哲也盤ではあるが、それ以前にも別タイトルで歌われていたものもあるようだ。先般亡くなった松方弘樹が、竹越、渡とほぼ同じ時期に出した『関東流れ者』も、同じメロディーの曲である。

渡哲也がポリドール、クラウン、テイチクの三つのレコード会社で、それぞれ別の作詞者による『東京流れ者』を発売しているのは、なんとも興味深い話しである。

ポリドール・バージョンは、キングレコードの竹越ひろ子と同じく永井ひろし、クラウンは川内和子、テイチクは高月ことばによる作詞で録音されている。クラウンとテイチクのバージョンを、下に1番だけだが挙げてみた。翌年の同名の日活映画に使われたのはクラウンのものだった。

永井ひろしのその他の作品には、大月みやこの『愛してちょうだい』があり、高月ことばは石原裕次郎の『面影』などの作品を残している。川内和子というのは川内康範の別ネームであり、川内は、映画『東京流れ者』の原作、脚本も担当した。


クラウン・バージョン 川内和子:作詞

何処で生きても 流れ者

どうせさすらい ひとり身の

明日は何処やら 風に聞け

可愛いあの娘の 胸に聞け

ああ 東京流れ者


テイチク・バージョン 高月ことば:作詞

黒いジャンパーに 赤いバラ

きざななりして ゴロ巻いて

渋谷新宿池袋

風もしみます 日の暮れは

ああ 東京流れ者


渡哲也盤の中では、私はテイチクのものが好きである。何かザラっとして拗ねたような雰囲気が、この頃のまだ荒っ削りの渡哲也に合っている気がする。それにしても三つの別々のレコーディング・スタジオで、詞だけが違う同じ曲を録音するというのは、どんな心境だったのだろうか。人を介してでも、一度ご本人に伺ってみたい気がする。

-…つづく

 

 

第321回:流行り歌に寄せて No.126 「下町育ち」〜昭和40年(1965年)

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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