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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
第179回:動転ともにフレンドリーに行こう
更新日2010/12/16


私は、このコラムを書かせていただくことになって間もなくの、8回目に『Ting Ting Rider~マイルドで行こう』という拙文を掲載したことがある。もう7年以上、回数で言うと170回以上前のことだが、自分の自転車にまつわる雑感を綴ったものだった。

当時は通勤車としては初代のものに乗車していたのだが、現在は3台目の自転車に乗っている。今夏に購入した、英国「Raleigh」社のロードバイクである。ロードバイクと言っても、本格的なドロップ・ハンドルではなく、フラット・バー・ハンドルのものだが、今までのものに比べて遙かにスピードが出るので、通勤は随分と楽になった。

店にいらっしゃるお客さんの中には、30万円を優に超える自転車を保持している方も少なくないが、私の購入したのは、ちょうど10万円という価格のものだ。それでも私にとっては、今までに乗ったことのないような「高級車」で、購入するにもそれなりの覚悟が必要だったのである。

とにかく車体が軽くなったので、坂道を上るときは、「今まで漕ぐのに要していた力は、実は自転車の自重分だったのだ」ということを実感する。通勤時間も2割方短縮された。

従前車道でも最も端っこの測道(いわゆる白い部分)を走っていたのだが、その部分は排水溝が多く設置されており、破片ゴミなども落ちているため、細くなったタイヤを傷つけてしまうのを避ける意味もあり、何よりある程度の速度を出すために、アスファルトのいわゆる黒い部分を走るようになった。

そうすると若干、自動車の通り道と重なることになる。たいがいの車は、少しだけ蛇行させて私の自転車を避けながら追い抜いてくれるが、ほんの時々露骨にクラクションを鳴らしてくる車がいる。

生来短気の私は、つい思い切りそのドライバーを睨めつけてしまう。「ここは自動車道じゃない。自転車も走れる道だ。ふざけるな!」。あまり酷い鳴らし方をされたときは、思わず怒鳴っているのである。

私はたまたま、自動車やオートバイではなく自転車を利用しているだけで、エコのためになっているなどと声高に話す気持ちはまったくない。ただ、大きな車にたいがいは一人しか乗っていない(私の通勤途上で見る限り、7割近くの車が一人乗車である)状態で、たばこの比ではない排気ガスを吐き出しながら走っている車に、ルールを守って走っている自転車乗りが大きなクラクションで脅されるのは理不尽な話だ。

「業務で走っているんだ、チョロチョロするな」と言うのであれば、私の方も通勤に使っているのである、こちらも立派に業務のための走行と言えるのだ。同じことだろう。

とここまで書いたが、自動車のドライバーが自転車乗りに対して苛立っている気持ちも理解できる気がする。とにかく、多くの自転車乗りのマナーは悪すぎるのだ。

信号は平気で無視をする。あたりまえのように右側を走る。携帯で話したり、メールを打ちながら走る。真っ暗になってもライトをつけようとしない。(対自動車ではないが、歩道を我が物顔でスピードを上げて走る)。

1ヵ月ほど前の、朝9時頃、凄まじい光景を見た。左手でハンドルと携帯を握り、携帯のキーを打ちつつ、右手に持った串刺しの焼き鳥を、無表情で頬張りながら自転車を運転している、アラフォーの女性がいたのだ。

ここまで極端な例も珍しいが、交通ルールを守らない自転車乗りの多さには、同じ自転車乗りとして辟易としてしまうのである。多くの場合、ママチャリに乗っているおじちゃん、おばちゃん、若者たちがそのルール違反の人たちだが、最近はロードバイク乗りにも、平気で道交法を無視して走っている輩も少なくないようだ。

空前とも言える自転車ブームで、自転車に乗る人が随分と増えてきた。私の店にいらっしゃるお客さんの中でも、ここ4、5年の間に本格的な自転車に乗り始めた人が5人以上はいらっしゃる。

自動車と自転車の関係が、今までよりも重要な問題になってくることは間違いない。ここら辺で、行政が本気になってこの問題を考えていかなければ大変なことになるだろう。

自転車道を作ってくれることも大歓迎だが、まずは自転車乗りのマナーの向上のための施策を講じてもらいたい。道交法の周知を徹底させるために「自転車免許」制度を導入したり、ルール違反をした自転車乗りには罰金などの罰則を設けたり、いろいろと困難なこともあろうが、自動車に準ずるルール作りは絶対に必要なことだと思うのだ。

道路の上で共存するドライバーとライダーが、お互い気持ちよく走行することができる方向を、私も真剣に考えていきたい。

-…つづく

 

 

第180回:卯→うさぎで思い出すこと

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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