のらり 大好評連載中   
 
■鐘を鳴らそう 鳴らせば鳴る鐘が、まだあるのだから~音羽信の心に触れた歌たち

更新日2025/09/11




鐘を鳴らそう

鳴らせば鳴る鐘が、まだあるのだから


~音羽信の心に触れた歌たち~


音羽 信



第9回: ヘミングウェイズ・ウイスキィー

by ケニー・チェズニー  歌 ガイ・クラーク

ヘミングウェイのウイスキィー

温かくて滑らかで、しかも強烈で

喉に焼けつくように感じる時でさえ

呑み終わってみればスッキリとして……

 

ヘミングウェイは水で割ったりなんかしなかった。

しっかりストレートで呑んだ。

もしかしたらヘミングウェイにとってウイスキィーは

必ずしも良くはなかったのかもしれないけれど

だとしたら、俺にだって良いわけがない

と、君だって思うよね。

ヘミングウェイにとってのウイスキィー

 

嗚呼、世の中って、厳しいよね。

素敵なミューズなんてどこを探したっていやしない。

でも、生きていくってのは、つまり

ひとこと発して、そして、次の一言

一行書いてまた一行。

そうして生きていくのはきっと

ウイスキィーよりマシな何か。

言葉というのは

韻を踏んだりすることなんかより

マシな何か。

 

何をしても結果が出ない時もある。

何をしてもかっこ良く見られない時もある。

だから

ヘミングウェイのウイスキィー。

 

帆を上げよう、船出をしよう。

風をはらむ帆があるんだから。

しっかり生きて、しっかり死んで……

そう、この歌は彼のための歌。

 

 

Hemingway's Whiskey - Kenny Chesney
Song by Guy Clark


 

ヘミングウェイは不思議な人だ。『日はまた昇る』『武器よさらば』『誰がために鐘は鳴る』『老人と海』などは高校生の時にみんな読んだ。大好きな作家だった。けれど面白いのは、一言ひとこと言葉を紡ぎながら、彼がさまよい歩いた場所だ。アメリカのシカゴで生まれたが、人は生まれる場所を選んだりできない。大切なのは、そこからどこへ向かったかだ。

ヘミングウェイは、アメリカの最南端のカリブ海の島、のちにヒップスターたちが好んで目指したキーウエストで暮らし、1920年代の、ピカソたちが近代絵画を生み出しつつあったパリに行き、そこで、まだ全く無名だったミロが描いた彼の初期の傑作『農園』を、画商が、こんな絵はとても売れない、なんなら、ハサミで小さく切ってたくさんの絵にして、それを安く売ったらどうかとまで言われて、仕方なくカフェに飾ってもらったその絵を、高値で買って、それをスポーツカーに乗せてパリの街を練り歩いたヘミングウェイ。その絵のことを、「この絵には、スペインにいる時に大地から感じるすべてと、スペインを遠く離れている時に感じるすべてがある」と言ったヘミングウェイ。

スペイン市民戦争の時、独裁者のフランコ軍の抗して市民軍を率い、敗戦後そのことで国外追放になって亡命生活を送り、フランコの死後にようやく故郷に戻った詩人のラファエル・アルベルティ、幸いなことに彼の最晩年に私が知己を得ることができた詩人の、その因縁の闘いに、外人部隊である国際旅団の一人として参戦しさえしたヘミングウェイ。そしてゲバラやカストロたちが革命を起こしたキューバにも移り住んだヘミングウェイ。

そんなヘミングウェイのことを歌ったこの歌は、アメリカのカントリーミュージックのスター、ケニー・チェズニーが創った歌だが、私が好きなのは、それをシンガーソングライターのガイ・クラークが歌ったヴァージョン。

彼が創った、“Somedays You   Write the Song, Somedays the Song Writes You”という歌詞が素敵な『Somedays the Song Writes You』もそうだが、 時々、妙に聴きたくなる歌。渋く飾り気のない声で彼が歌うこの歌を聴いていると、フッと、ヘミングウェイの気配を感じるような気がする。

 

きっとヘミングウェイは、60年代後半から70年代にかけて、そうではない場所を求めて、あるいは自分に合った空気を求めて、世界中からアーティストを含めた人たちが集まってきていた、私もその一人だったイビサ島。自分らしい暮らしをすることが何よりも大切だという風が吹いていたイビサ島、今はディスコの島、世界的セレブのパーティアイランドになってしまった島。けれど、それでも独特の雰囲気を持つ美しい島、イビサ。

もしヘミングウェイが私たちの時代を生きていたら、きっとイビサにも来たに違いない、ピンク・フロイドが創った『イビサカフェ』の舞台となったカフェ・モンテソルのテラス席で、ブラックコーヒーにウイスキーを入れたカラヒージョを手にしているヘミングウェイの姿を目にしたに違いない、と思ったりする。

 

Guy Clark - Hemingway's Whiskey <2009/09/22>
https://www.youtube.com/watch?v=dc9Cj1Evn64

Guy Clark, Hemingways whisky <2009/03/01>
Guy Clark and Verlon Thompson at The Cactus Cafe, Austin Texas

https://www.youtube.com/watch?v=YaJCJ3GQVy0

 

No.9-01
Guy Clark @Newport Folk Festival 2009

…つづく

 

 

 back第10回:アイ・ショット・ザ・シェリフ by ボブ・マーリィ 歌 エリック・クラプトン

このコラムの感想を書く

 

 

 

modoru

 



谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
著者にメールを送る

本や歌や建築、さらには自治体や企業のシンボリックプロジェクトなどの、広い意味での空間創造を仕事とする表現哲学詩人、ヴィジョンアーキテクト。
主な著作に『鏡の向こうのつづれ織り』『鳥たちの夜』『空間構想事始』『天才たちのスペイン』、主な建築作品に『東京銀座資生堂ビル』『ラゾーナ川崎プラザ』『レストランikra』などがある。
なお音楽作品として、シンガーソングライター音羽信の作品として、アルバム『わすれがたみ』『OTOWA SHIN 2』などがある。

アローAmazon 谷口江里也 著作リスト

アロー未知谷 刊行物の検索 谷口江里也
アローElia's Web Site [E.C.S]


■連載完了コラム

ジャック・カロを知っていますか?
~バロックの時代に銅版画のあらゆる可能性を展開したジャック・カロとその作品をめぐる随想
[全30回]*出版済み

明日の大人たちのためのお話[全12回]

鏡花水月 ~ 私の心をつくっていることなど (→改題『メモリア少年時代』[全9回+緊急特番3回] *出版済み

ギュスターヴ・ドレとの対話 ~谷口 江里也[全17回]*出版済み

『ひとつひとつの確かさ』~表現哲学詩人 谷口江里也の映像詩(→改題『いまここで  Here and Now』) [全48回] *出版済み

現代語訳『枕草子』 ~清少納言の『枕草子』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語に翻訳 [全17回]

現代語訳『方丈記』~鴨長明の『方丈記』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語訳に翻訳 [全18回]

現代語訳『風姿花伝』~世阿弥の『風姿花伝』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語に翻訳 [全63回]


岩の記憶、風の夢~my United Stars of Atlantis [全57回]
*出版済み

もう一つの世界との対話~谷口江里也と海藤春樹のイメージトリップ [全24回]
*出版済み

鏡の向こうのつづれ織り~谷口江里也のとっておきのクリエイティヴ時空 [全24回]
*出版済み

随想『奥の細道』という試み ~谷口江里也が芭蕉を表現哲学詩人の心で読み解くクリエイティヴ・トリップ [全48回]
*出版済み

※休載中
ドレの『狂乱のオルランド』
~物語の宝庫、あらゆる騎士物語の源


バックナンバー
第1回: レナード・コーエン Anthem(聖歌)より
第2回:21世紀の精神異常者 by ピーター・シンフィールド~アルバム 『キングクリムゾン宮殿』より
第3回:墓碑銘(エピタフ) by ピーター・シンフィールド ~アルバム 『キングクリムゾン宮殿』より
第4回: もうすぐ、激しく激しい雨が、降る by ボブ・ディラン~アルバム『The Freewheelin' Bob Dylan』より
第5回: ハレルヤ by レナード・コーエン~アルバム『哀しみのダンス』より
第6回: サザンマン by ニール・ヤング アルバム『アフター・ザ・ゴールドラッシュ』より
第7回:あなただけを(Somebody to love) by ダービー・スリック、ジェファーソン・エアプレイン アルバム『Surrealistic Pillow』より
第8回: ブラザーズ・イン・アームス  by ダイアー・ストレイツ(マーク・ノップラー) アルバム『ブラザーズ・イン・アームス』より
 
■更新予定日:隔週木曜日