音羽 信
第9回: ヘミングウェイズ・ウイスキィー
by ケニー・チェズニー 歌 ガイ・クラーク
ヘミングウェイのウイスキィー
温かくて滑らかで、しかも強烈で
喉に焼けつくように感じる時でさえ
呑み終わってみればスッキリとして……
ヘミングウェイは水で割ったりなんかしなかった。
しっかりストレートで呑んだ。
もしかしたらヘミングウェイにとってウイスキィーは
必ずしも良くはなかったのかもしれないけれど
だとしたら、俺にだって良いわけがない
と、君だって思うよね。
ヘミングウェイにとってのウイスキィー
嗚呼、世の中って、厳しいよね。
素敵なミューズなんてどこを探したっていやしない。
でも、生きていくってのは、つまり
ひとこと発して、そして、次の一言
一行書いてまた一行。
そうして生きていくのはきっと
ウイスキィーよりマシな何か。
言葉というのは
韻を踏んだりすることなんかより
マシな何か。
何をしても結果が出ない時もある。
何をしてもかっこ良く見られない時もある。
だから
ヘミングウェイのウイスキィー。
帆を上げよう、船出をしよう。
風をはらむ帆があるんだから。
しっかり生きて、しっかり死んで……
そう、この歌は彼のための歌。
Hemingway's Whiskey - Kenny Chesney
Song by Guy Clark
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ヘミングウェイは不思議な人だ。『日はまた昇る』『武器よさらば』『誰がために鐘は鳴る』『老人と海』などは高校生の時にみんな読んだ。大好きな作家だった。けれど面白いのは、一言ひとこと言葉を紡ぎながら、彼がさまよい歩いた場所だ。アメリカのシカゴで生まれたが、人は生まれる場所を選んだりできない。大切なのは、そこからどこへ向かったかだ。
ヘミングウェイは、アメリカの最南端のカリブ海の島、のちにヒップスターたちが好んで目指したキーウエストで暮らし、1920年代の、ピカソたちが近代絵画を生み出しつつあったパリに行き、そこで、まだ全く無名だったミロが描いた彼の初期の傑作『農園』を、画商が、こんな絵はとても売れない、なんなら、ハサミで小さく切ってたくさんの絵にして、それを安く売ったらどうかとまで言われて、仕方なくカフェに飾ってもらったその絵を、高値で買って、それをスポーツカーに乗せてパリの街を練り歩いたヘミングウェイ。その絵のことを、「この絵には、スペインにいる時に大地から感じるすべてと、スペインを遠く離れている時に感じるすべてがある」と言ったヘミングウェイ。
スペイン市民戦争の時、独裁者のフランコ軍の抗して市民軍を率い、敗戦後そのことで国外追放になって亡命生活を送り、フランコの死後にようやく故郷に戻った詩人のラファエル・アルベルティ、幸いなことに彼の最晩年に私が知己を得ることができた詩人の、その因縁の闘いに、外人部隊である国際旅団の一人として参戦しさえしたヘミングウェイ。そしてゲバラやカストロたちが革命を起こしたキューバにも移り住んだヘミングウェイ。
そんなヘミングウェイのことを歌ったこの歌は、アメリカのカントリーミュージックのスター、ケニー・チェズニーが創った歌だが、私が好きなのは、それをシンガーソングライターのガイ・クラークが歌ったヴァージョン。
彼が創った、“Somedays You Write the Song, Somedays the Song Writes You”という歌詞が素敵な『Somedays the Song Writes You』もそうだが、 時々、妙に聴きたくなる歌。渋く飾り気のない声で彼が歌うこの歌を聴いていると、フッと、ヘミングウェイの気配を感じるような気がする。
きっとヘミングウェイは、60年代後半から70年代にかけて、そうではない場所を求めて、あるいは自分に合った空気を求めて、世界中からアーティストを含めた人たちが集まってきていた、私もその一人だったイビサ島。自分らしい暮らしをすることが何よりも大切だという風が吹いていたイビサ島、今はディスコの島、世界的セレブのパーティアイランドになってしまった島。けれど、それでも独特の雰囲気を持つ美しい島、イビサ。
もしヘミングウェイが私たちの時代を生きていたら、きっとイビサにも来たに違いない、ピンク・フロイドが創った『イビサカフェ』の舞台となったカフェ・モンテソルのテラス席で、ブラックコーヒーにウイスキーを入れたカラヒージョを手にしているヘミングウェイの姿を目にしたに違いない、と思ったりする。
Guy Clark - Hemingway's Whiskey <2009/09/22>
https://www.youtube.com/watch?v=dc9Cj1Evn64
Guy Clark, Hemingways whisky <2009/03/01>
Guy Clark and Verlon Thompson at The Cactus Cafe, Austin Texas
https://www.youtube.com/watch?v=YaJCJ3GQVy0

Guy Clark @Newport Folk Festival 2009
-…つづく