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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第572回:お墓はいりませんか?

更新日2018/07/26



ウチのダンナさんのお姉さんが、「お墓、どうするの…?」と、日本からファックスしてきました。日本の伝統では、長男らしきウチのダンナさんが骨になって入る…まではいいのですが、私たちに子供がいませんから、お家断絶で、無縁仏になり、お参りしてくれる人もいなくなるのです。どうもそれではご先祖様、彼の父親、母親に申し訳ないような気もするのですが、当の本人は、「オレの骨は海に撒くなり、この森に石灰肥料として撒いといてくれればいいぞ…」とか言って真剣に取り合わないのです。

それでも、甥っ子や姪っ子に、「お前たち、墓いらんか?」と電話で当たっているようですが、これが至って売れ行きが悪く、タダなのに誰も欲しいと言わないのです。

私の父は中学校の先生を引退してから、3年ほど大きな墓地のマネージャーをしていました。例によって、ウチのダンナさん、「親父さんのお客さんは、誰も苦情を言わないから(死んで土の中に埋葬されているから…)静かでイイな~」とか言っていました。

私の父は目の前2、3メートルのことしか見えず、考えることができないタイプで、その墓地のシゴトを辞める時、私たち兄弟に夫婦並んで墓石が立てられる、絶好の墓所をプレゼントしてくれたのです。彼に言わせれば、日当たり、見晴らし良好、大きな木の麓で、最高の場所だと、不動産屋みたいなことを言っていたのです。

私の兄弟姉妹4人とも、そんなもの欲しい人は誰もいません。皆、土葬は無駄、焼いて灰にしてどこかにバラ撒けばそれで良い…と思っているいるのです。

そこでこの前、兄弟4人集まった時に、墓所の権利を誰かにプレゼントしようということになりました。お墓の地所は結構値が張りますから、土葬してもらいたいが、貧乏で墓地を買えない人がいるのではないかと思ったのです。

驚いたことに、ネットに掲示したその日のうちに全部行き先が決まってしまうほど、貰いたい人がいたのです。後で気が付いたのですが、少しばかりのお金を取って売り、そのお金をアフリカかどこかで飢えている人に回せばよかったかなぁ…と思いましたが、時すでに遅しでした。

母方のお爺さん、お婆さんのお墓は、ミズーリー川が氾濫した時に流れてしまいました。土葬の棺桶はオークなどの硬く、腐りにくい木で頑丈に作りますから、上の土が流されたとなるとプカプカ浮き上がり、下流にドンドン流されて行ってしまったのです。下流の町で回収された棺桶もないではありませんが、濁流に巻きまれて沈没した棺桶もたくさんあったことでしょう。回収された棺おけも誰のものか、それどころか、どこの墓地からのモノかも分かりませんから、一つの共同礼拝堂のようにして葬ることになりました。 

フランスの山間の町で、死んだ人を葬る墓地のスペースがない、これからこの教会区で死ぬことを禁止するとオフレが出ました。この村はサルポレーン(Sarpourenx)という人口260人の小さな山村です。

ヨーロッパ、アメリカのお墓は、個々人の墓標が立てられ、土葬されます。日本のように何々家の墓と家で括ってしまうことがないので、至って土地利用(墓地利用)の効率が悪く、盛大に場所を喰ってしまうのです。日本では先祖代々同じ墓に入るのですから、省スペースで詰め込みが効きます。

それに加え、離婚の多いアメリカでは一番目の奥さんと二番目、三番目の奥さんが一緒のお墓に入るのには無理があります。このフランスの村のように何百年、ひょっとすると千年以上の歴史があるとすれば、そこで葬られた人の数は膨大なものになるでしょう。

サルポレーン村の司祭さん、村長さんと相談して法令を出したのでしょうけど、教区内で死ぬことを禁じるだけでなく、違反者は厳罰に処するとまで言っているのです。どんな厳罰が下されるのか知りたいものです。まさか死刑?ではないと思いますが…。

こうなると、死体を刻んで鳥に食べさせる“鳥葬”とか、川ベリで燃やし灰を川に流す方が、“理に適っている”ように思えてきます。

-…つづく

 

 

第573回:火気厳禁~異常乾燥の夏

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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