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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第322回:この夏を涼しく過ごす方法

更新日2013/08/01



夏は暑いものと昔から決まっていますが、その暑さをなんとか上手く凌ごうと、人類はエアコンのない時代から知恵を絞ってきました。

北に口を開いた洞窟住居、その路線上にあるアースホーム(半地下のような家)、木を南側にたくさん植え、木陰をつくる、日本の古い建物のようにヒサシを長く大きく取るなど、少しでも涼しく過ごそうという表れでしょう。

日本独特なのは、風鈴と怪談です。チリーン、チリーンという鈴の音が涼をもたらすというのは、かなり詩的な心を持たなければ涼しさ感じることができないでしょう。お化けの話を聞くと、確かに鳥肌が立ちますから、世の東西を問わず、背筋が寒くなる現象は、全人類、共通の生理的現象かもしれません。しかし、それを夏の暑さを吹き飛ばすために、好んで夏に語るのは、やはり日本独特の感性かもしれません。小泉八雲さん、やはり目の付けどころが良かったようです。

アメリカ人はもっと直接的で、暑かったらエアコンをギンギンに効かせる、それとも冷たい水に飛び込む、そしてハダカになる、といういたって風流に欠ける解決策に飛びつきます。と、偉そうなことを言ってしまいましたが、私も今までズーッとエアコンなしの車で通勤していたのですが、ついに大枚を叩いて、エアコンを修理し、涼しい車で運転しています。今まで何を我慢していたの! と、自分がバカに思えるほど、エアコンが快適なのを認めないわけにはいきません。

冷たい湖水に飛び込むのは、私の得意とするところで、とりわけ誰もいない山の中の沼や湖に汗だらけの身体を浸す爽快さは最高です。日本でも、ハダカで山の中の湖に喜び勇んで飛び込んだことがあります。ところが、誰もいないと(見ていないと)思って、シビレるように冷たい湖に入ったのはいいのですが、突然、登山の人々が現れ、湖畔で休憩し、お昼を食べ始め、ハダカの私は湖から出られなくて、歯の根が合わないほど冷え切ってしまったことがあります。最後には、エイッ、見るなら見れ、どうせお見せするような肉体ではないし、とばかり水から上がりましたが…。

オレゴン州のポートランドでは、恒例の裸大行進が行われました。なんと今年は、4,000人もの参加者がパレードし、ハダカを謳歌しました。今年は、市の美術館も力を入れ、ルネッサンス以降の彫刻、絵画、芸術は人間の体の賛美ですから、当然といえば当然なんですが、入場料を素っ裸の人はタダ、パンツ(下のほうを隠している人)は1ドル、ビキニのように上下を覆っている人は2ドルと、ハダカの度合いによって、入場料を差を付けました。

ハダカ、ヌードといえば、すぐにプレイボーイ、プレイガールの雑誌に登場するウルトラセクシーな若い男女を想像しますが、ポートランドのハダカパレードでもそんな人はまず見当たりません。ごく普通の体型、ということはアメリカではお腹に肉がたっぷり付いて、お尻が引力に負けている太目が圧倒的です。世界中のどんなイベントにも大挙して参加する日本人が、あまり見当たらないようですので、是非、大きなグループを作って参加してください。このような"ハダカの日"はかなりたくさんの町で催されますので…。

AANRと言って何の頭文字、どんな団体か分かる日本人は少ないでしょう。『裸を楽しむ全米協会』(American Association for Nude Recreation)という協会のことです。この協会では、素っ裸でマラソン大会、その名もBare Bun Run(お尻丸出しマラソン)を実行していますし、他に一斉にハダカで水に飛び込み、ギネスブック記録を打ち立てようと企画しています。

ヨーロッパでは、もっと自然にハダカが市民権を持っているように見えます。

日本でも、一昔前は温泉の混浴は当り前だったといいますから、昔はもっと開けていたのでしょう。でも、ウチの仙人曰く、「オメーみたいにやたらとどこでもハダカになりたがる奴は、"コウキョ、リョウゾク"を乱したカドで『猥褻物陳列罪』で牢屋に入れられるぞ」と脅すのです。

と書いていて、思い出したのですが、開高健さんの『ずばり東京』という本に、「すたすた坊主」というのが、昔、多分江戸時代までいたと書かれています。荒縄の鉢巻を締め、異相よろしく素っ裸になり、家の前で奇妙奇天烈なハダカ踊りを演じ(ショーバイ繁盛、夫婦円満、ダンナが絶倫マンになるなどのご利益がある??)ながら小銭を貰い歩いたといいます。日本が、まだ『猥褻物陳列罪』など存在しなかった、よき時代だったのでしょう。

日本の夏は、浴衣などを着て、風鈴の音を耳にしながら、団扇(ウチワ)で襟首にそよ風を送る…のが慎ましやかで風流な過ごし方なのでしょうね。

 

 

第323回:アメリカ的成功物語

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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