第323回:アメリカ的成功物語
昔から、アメリカ人は成功物語が大好きです。どんなに貧しく生まれても、大金持ちになれる、なった、大統領になれる、スポーツや映画で大スターになったという、お決まりの成功物語です。丸太小屋で生まれ育ったリンカーンが大統領になった話や、ロックフェラー、フォード、カーネギィーの成功談が好きですし、最近ではアップルコンピューターのスティーブ・ジョブスの本は、出版されると同時にベストセラーになりました。
歴代の大統領も、大統領夫人まで、退官すると同時に成功談プラス"今だからこそ言える告白的メモワー"回顧録を書き(ゴーストライターが書くこともありますが)、そこそこ売れます。日本で"元首相"が書いた回顧録はベストセラーになるのでしょうか? 毎年変わる首相が書いても、あまりインパクトがないかもしれませんね。
アメリカ的成功物語の不思議なところは、現在、2億人を超すアメリカ人の中で、大統領になれるのは一度に一人です。いくらなろうと努力しても、そう簡単になれるものではありません。2億分の1といえば、最も確率の低い宝くじの方が当りやすい…と思えるほど、可能性がゼロに近い数値ではありませんか。
最近の出世頭は、ハイテックの億万長者たちです。彼らは起業家としてアレヨアレヨという間に、20代で、まだボーヤ風の風貌のまま巨万の富を築き上げています。彼らにしても、何千万人に一人という例外中の例外的な存在なのですが、なぜかアメリカ人は彼らができるなら、オレにも私にもチャンスがある…と思う傾向があるようです。
元はと言えば、アメリカはヨーロッパの落ちコボレ集団、早く言えば、ヨーロッパにいてはどう転んでも芽の出ない、不成功者が海を渡ってきて創った国です。言ってみれば、アメリカはヨーロッパの負け組が創った国なのです。
現在、大統領も、私たちのようにあまり成功したとは言えない2億人の人たちが、不平を言いながら、愚痴をこぼしながら払っている税金の上に立っているのです。ということは、一人の成功者を押し上げ、作り出すのに、何百万、何千万人の成功ならざる私たちが必要だと言うことになります。皆が皆、アメリカ的成功物語の主人公にはなれないのです。
日本で総理大臣を成功者の一番目に据える人は少ないのではないかしら。日本的成功物語は、経済ではソニーやホンダの創業者、立志伝中の立志伝、松下幸之助さんでしょうか。アメリカに比べると、あんな小さな島でヨクゾあれだけ豊かな国を創っていると半ば呆れ感心してしまいます。
ウチのダンナさんの同級生の大半はすでに引退して、年金暮らしの人が多いのですが、まだまだ現役で働いている人も何人かいます。日本に行くたびに思うのですが、彼らは歴史に残るような成功者ではありませんが、自分の仕事をよく知っていて、長時間働いていることに感動させられます。そして、マジメに働くプロがこんなにたくさんいるから、豊かな国を創り上げることができるのだと改めて思い直します。
一人の成功者より、多くのプロ集団の方が国、社会にとってよほど大切でしょう。言い換えれば、一人の成功者を生む影には、何千、何万人という、社会的には成功者とは呼べないけれど、地道に生きてきた人たちがいるのです。現実的には、このような大多数の人たちが一人の成功者を押し上げていると言っていいのかもしれません。
そして、アメリカも普通の人、午前8時か9時には事務所、工場に行き、夕方まで働く人たちが創り上げている国です。アメリカは、昔はヨーロッパから、最近ではメキシコ、ハイチ、グァテマラや南米から、アジアから自分の国にいてはラチの明かない人たちがやってきて、懸命に働き、自分の生活を少しでも良くしようとアガクことで成り立っている国です。
私たちは、アメリカは偉大な成功者が創った国だと教えられてきましたが、本当のところ、日本と同じように、普通のありふれた人がマジメにコツコツと働き創ってきた国なのです。
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