のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第621回:現在も続く人身売買と性奴隷

更新日2019/08/08



大学の教職に就いているタダ一つの良いこと、特権は、学生さんと同様に夏休みが長いことです。3ヵ月たっぷりあるので、旅行したり、実家に帰ったり、普通の職業ではあり得ない自由時間を持つことができます。もっとも、長い休みは、一応研究休暇ですから、マジメな先生は自分の専門分野の研究やフィールドワークに出かけたり、本を書いたりしますが、私のように引退間近、半ば化石化したご老体としては、3ヵ月の夏休みは存分に遊びまくるのに使います。

でも、歳を取り相当ボケてきた両親の面倒をみるために3,000キロ近いドライブをしなければなりません。そんなことができる時間を持てるだけ幸運なのですが…。今年の夏は2回、その超長距離ドライブをしました。他にも、西海岸、オレゴン州やワシントン州に住む弟、妹のところに遊びに行ったり、山登りのために登山口までと、私が偉そうに車社会、車に頼らなければ生活できないアメリカ的生き方が嫌いだ…と言いながら、必要悪とても言うのでしょうか、大いに車に頼って生きているのです。それにしても、大中古のホンダは、文句も言わずによく動いてくれています。

長いドライブの途中、何度もガソリンを入れるため、高速道路脇の大きなガソリンスタンドに立ち寄ります。そこでコーヒーを買ったり、トイレを利用したりします。

ここ数年、女性用のトイレに少女が悲しそうな顔をした張り紙が目立つようになってきました。 “不法に拘束されているなら、近くにいる誰にでも、携帯電話を借りて、1-888-373-7888(アメリカのフリーダイヤルです)へ電話するか、233733へテクストを送ってください”と、英語とスペイン語で書いてあるのです。

中南米からやって来る亡命移民が増え、その中に相当数の貧しく、行き場のない不法入国者がいます。彼らはヤクザのようなプロの“国境越え、アメリカ入国させる”ショーバイをしている人たちや入国マフィアに大枚を払い、密入国します。ですが、その時、入国マフィアにお金を払えない人たちは、アメリカに入ってから働いてお金を返せ…という大昔からあるタコ部屋的な労働者、女性の場合は売春婦にならざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。

それどころか、未成年の若い女性は奴隷のように売り買いされているのです。と言うのは、アメリカは州ごとに売春に対する法規制が異なり、そのあたりをよく心得た斡旋業者が、女性を需要の多い州や地域へと移動させ高値で売るのです。原油フラッキング(水圧破砕法と呼ばれる原油採掘法)のブームになっている町、パイプライン建設基地など、男ばかりが長期間独身寮のようなところに住まなければならない地域には、即座に娼婦の館が建ち並びます。

女性の需要の多いところへ移動させるのですが、ほとんどが窓のない車、荷物用のバンに女性を乗せて搬送します。ですが、トイレだけはどこかで使わせないわけにいかず、ガソリンスタンドでトイレストップしなければなりません。そこで、私が目にしたポスターが張られることになります。

現在、アメリカに怪しげな“マッサージ・パーラー”が9,000軒あると言われ、それは大都会、田舎町、高速道路のインターチェンジ脇と、ところ構わずどこにでもあるといった感じなのです。私が働いている大学町へ高速道路から降りるところにも『パーラー・フジヤマ、オリエンタルマッサージ』というのがありましたが、数年前に手入れを受けオーナーの韓国人のおばさんが逮捕されました。この9,000軒というのも一応マッサージ、指圧など営業許可を受けているところのことで、モグリの方がはるかに多く、氷山の一角なのは確かです。3,000億ドルの産業だと言われています。これは普通の娼婦さん?を勘定に入れていない数字で、人身売買産業だけに限ってのものです。

フロリダ州がそのような人身売買の拠点になっているのは確実なのですが、いくら市民団体が少女たちを救済しようとしても、実態が掴めず、彼女たちの方から「助けて~」と連絡があって、やっと動き出すしか方策がないようなのです。しかも、そのような少女たちは洗脳されていて、アメリカの警察に捕まったら、酷い牢獄にぶち込まれ、強制送還されるぞ…と脅されていますから、救済の連絡を取るのはなかなかできないことなのです。

連邦警察に届けられた2017年の統計では、人身売買の対象になっているのはもちろん少女たちの売春目的が圧倒的に多く、7,797人に及びます。少し意外ですが、1,979人は農園や食品加工工場などへ、奴隷労働者として売られています。年齢層でははっきりと15歳から17歳までの少女が多く、それに12歳から23歳までを加えると70%近くになります。30歳を超えた女性の娼婦としての商品価値はほぼなくなり、奴隷労働に回されます。州によって異なりますが、アメリカでは大半の州は売春は違法で、売る方も、買う方も両方逮捕され罰せられます。


投資会社の社主で超大金持ちのジェフリー・エプスタイン(Jeffrey Epstein)がフロリダ州で未成年の少女を買い(彼の場合は14歳の少女を奴隷のように買い、所有していました)、しかも十数人の人身売買に関わっていたとして逮捕されたのは2007年のことです。普通なら、フロリダ州では45年の禁固刑になるところですが、彼はお金に糸目をつけず、高名で有力な弁護団、ハーバード大学の教授アラン・ダショーウィッツ(Alan Dershowitz)、クリントン大統領のモニカ・ルインスキー・スキャンダルの時の検事だったケン・スター(Ken Starr)などを組織し、たった13ヵ月の刑で出所しました。しかも、1日12時間牢を出て、自分のシゴトをすることが許されていましたから、牢屋へは寝るために帰ってくるだけでした。(資料:Washington Postによる)

滅多にないことですが、“私はセックス・スレイブ(性奴隷)だった”と名乗り出る勇気のある女性もいます。バーバラ・アマヤ(Barbara Amaya)さんは止むに止まれず裁判所に自分の逮捕歴を記録から消すように訴えて出ました。というのは、彼女が強制的に売春をさせられた時に何度か逮捕された経歴があり、その後やっと自由の身になり、子供ができて仕事に就こうとしても、娼婦としての逮捕歴があるため、どこにも就職できなかったからです。

バーバラさんはレッキとしたアメリカ国籍のアメリカ人ですが、ヴァージニア州の貧しい家庭に生まれ、12歳の時に家出し、すぐにニューヨークでマフィアやヤクザに拘束され、麻薬漬けにされ、売春を強制されています。

バーバラさんの訴えが注目を集め、ローカルTVで放映され、今になって、やっとと言う感じで市民団体のボランティア弁護士たちがバーバラさんに触発され、性奴隷を保護、サポートする運動を始めたのです。

黒人奴隷解放は150年も前に終わったと思っていましたが、現代、アメリカに何十万人と言われる新しいタイプの奴隷がいるのです。

-…つづく

 

 

第622回:高原大地のフライデー・ナイト・フィーバー

このコラムの感想を書く

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで
第351回~第400回まで
第401回~第450回まで
第451回~第500回まで

第501回~第550回まで

第551回~第600回まで

第601回:車がなければ生きられない!
第602回:メキシコからの越境通学
第603回:難民の黒人が市長になったお話
第604回:警察に車を止められる確率の件
第605回:日本と世界の浮気事情を比べてみる
第606回:寄付金と裏口入学の現実
第607回:狩猟シーズンと全米高校射撃大会
第608回:アルビーノの引退生活
第609回:人間が作った地震の怪
第610回:チーフ・エグゼクティブ・オフィサーとは何か?
第611回:ホワイトハウス・ボーイズの悲劇
第612回:Hate Crime“憎悪による犯罪”の時代
第613回:ルーサー叔父さんとアトランタでのこと
第614回:“恥の文化” は死滅した?
第615回:経済大国と小国主義、どっちが幸せ?
第616回:“Liar, Liar. Pants on Fire!”
(嘘つき、嘘つき、お前のお尻に火がついた!)

第617回:オーバーツーリズムの時代
第618回:天井知らずのプロスポーツ契約金
第619回:私は神だ、キリストの再来だ!
第620回:両親の老後と老人ホーム

■更新予定日:毎週木曜日



  TOP-トップページ》 《コラム一覧 》 《のらりインタビュー》 《コラム・バックナンバー
……………………………………現在連載コラム……………………………………
新・汽車旅日記 】 【店主の分け前 】 【イビサ物語
 【亜米利加よもやま通信 】 【鏡花水月~私の心をつくっていることなど 】 【よりみち
………………………………掲載完了イチオシコラム………………………………
[拳銃家業 ] [貿易風の吹く島から ] [ くらり、スペイン ] [グレートプレーンズのそよ風 ]  
[フロンティア時代のアンチヒーローたち ] [ギュスターヴ・ドレとの対話]

    

このサイトに関するご意見・ご感想・お問い合わせはこちらまで。
Copyrights 2020 Norari