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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第280回:人々を笑わせ、考えさせる"イグノーベル賞"

更新日2012/10/04



日本人がイグノーベル賞を6年連続で受賞ました。

今回、受賞したのは音響学賞という、あまり耳にしない分野ですが、"スピーチ・ジャンマー"と名付けた機械を、おしゃべりの人に向けると、言葉が出なくなり、口を閉じ、静まるというのですから、私たちの大学の会議室に是非、一台備えたい素晴らしい道具の発明です。また、電話に備え付け、ボタンを押すと"スピーチ・ジャンマー"が作動する商品を開発してくれたら、大ヒット間違いなし…だと思います。

発明したのは、栗原一貴さんと塚田浩二さんです。おめでとうございます。

このイグノーベル賞というのはもちろん、ノーベル賞のモジリです。英語の"ignoble"という単語からきており、"恥ずかしいこと、卑劣なこと、下品なこと"を意味します。An ignoble manといえば"下品な奴"ということになります。この単語をIg と Nobleを切り離し、e とlの語順を替えてNobel賞に掛けたところが秀逸です。

イグノーベル賞は"Annals of Improper Research" という、 風変わりな研究で人を笑わせ、同時に考えさせる科学研究を集めた雑誌が主催し、ハーバード大学、ハーバードコンピューター協会、ハーバードラドクリフSF協会などがスポンサーになり、主にその雑誌の編集者であるマーク・エイブラハム博士の独断と偏見で選出されている……(と思われる)賞です。

賞の部門もその都度、ユニークで人々をハッと思わせ、笑わせる研究があると、その内容に応じて部門を創設しているようです。もちろん平和賞もありますが、1991年には水爆の父と呼ばれるエドワード・ティーラー博士、1995年にはヒロシマ50年を記念して(かどうか)、ムルロワ環礁で6回も原爆実験を行った、フランスの元大統領ジャック・シラクを選んだりで、ブラックユーモアに溢れています。

授賞式は、ハーバード大学内のサンダンス劇場で行われますが、受賞者の賞金も旅費も出ませんから、すべて手前弁当で列席しなければなりません。もちろん、受賞者は本当のノーベル賞のように記念講演をするチャンスが与えられます。しかし、条件があり、スピーチの中で必ず笑いを取らなければならいのです。これは日本人にとって、旅費を自分で払うより、案外難しい条件かもしれませんね。

過去の受賞内容はかなり滑稽でユニークなものが沢山あります。"へそのゴマ"の研究、動物のすべてのペニスの比較研究とか、日本語のサイト(ウィキペディア;「イグノーベル賞受賞者の一覧」)もあるようですから覗いてみてはどうでしょうか? 

ペニスといえば"チャックにペニスを挟んだ時の緊急処置についての研究"がなんと医学賞をもらっています。うちの仙人ダンナさんに言わせれば、何でもその痛さたるや、とても女性の想像できるものではない…というのです。女性が毎月のように苦しむ月経や出産の苦しみを男どもが分かるか…と言いたいところですが、今回はイグノーベル賞のテーマなので、ひとつくらい男性に女性が理解できない痛さがあることを認めてやってもよいと、おおらかな気分になっています。  

肝心の"緊急処置"の方法ですが、ヴァセリン、ペンチ、かみそりなどを使用し……
私にそこまで説明させることはないでしょう。

後は、男性ご自分でイグノーベル医学賞を読み、実践してください。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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