第281回:政治家の仕事と外交
アメリカの大統領選挙が後1ヶ月足らずに迫り、テレビ、ラジオ、DMにメール、それに加えて電話攻勢が熱を帯びてきました。
ニュースも大統領選挙のことばかりで、しかも相手候補の悪口ばかり羅列するので、聞いている方もイヤになってしまいます。つい、早く選挙が終わってくれればいいなと思ってしまいます。
国連では世界各国の代表が弁舌をフルっていますが、アメリカの大統領選挙の方にばかり目も耳も向いているアメリカ人には、全く興味を引かない小さな外交行事としか映っていません。4年に1回の大統領選挙の年には、アメリカの政治が停止する…とりわけ票にならない外交は完全にストップするとよく言われます。
イランの首相、ムフムード・アフマディネジャドが国連で演説した時も、イランの言うことなど聞く耳を持たない…というのでしょうか、アメリカの席は空っぽ(もちろんイスラエルの席もですが…)でした。
イギリスのキャメロン首相もやってきて、シリアに国連が積極的に介入するよう呼びかけました。通常、国の元首が国連のあるニューヨーク(国連本部を置くには理想的な街とはとても思えませんが…)にやってきたとき、他の国の元首も来ていますから、公式的に、または秘密裏にたくさんの会談を持ち、根回しをするのが慣例になっているのだそうです。
ところが、キャメロン首相、現役のイギリスの首相として初めて、アメリカのテレビ、しかも何もかも笑い飛ばすことで有名なデイヴィド・レターマン(David
Michael Letterman)の深夜のトークショー番組の「レイト・ショー」に出たのです。ブレアー元首相も2度このショーに出ていますが、いずれも現役を退いてからのことです。
このデイヴィッド・レターマンの番組では、イギリスの歴史なぞなぞクイズに答えていましたが、これがまた、イートン、オックスフォードをトップクラスで通してきたキャメロン首相、結構間違ったり、答えられなかったりで…笑いを取っていました。
スタジオにいる観衆から声援を受け、「私のイギリスでの人気は最近下がりっぱなしだから、こんなに盛大な声援を受けたことがない」などと、本音なのか冗談なのか分からないコメントを残していました。
その中で、一番大きな声援を受けたのは、アメリカでの大統領選挙のテレビ悪口合戦について質問された時、キャメロン首相が「イギリスでは、テレビでの首相選挙活動は禁じられている」と言った時です。ほとんどため息のような、短い「ホーッ」という声の後、ヤンヤの声援、拍手が飛び交いました。
アメリカ人の多くが、大統領選挙戦の相手の揚げ足を取るだけの膨大なテレビ放映に食傷しているのでしょう。もっとも、イギリスや日本のように多数党の党首が自動的に元首になるシステムについて、一般のアメリカ人が無知なこともあるでしょうけど。
それにしても、一国の首相が凡そ政治的でない深夜のテレビ番組に気軽に(ではないかもしれませんが)出演し、ウイットとユーモアに富んだ対応で視聴者を大いに笑わせたことに驚かされ、イギリス人の自信としたたかさを感じたのは私だけかしら。
自国の歴史をふざけ半分にしろ外国人に質問され、答えに詰まりながら、自分自身を笑い飛ばす精神は、チョットヤソットで持つことができるものではありません。よほどの自信と余裕がなければできないことです。
日本が外交下手と言われるのは、なにも言葉のハンディだけではないしょう。誰か専門の官僚が下書きしたものを読み上げるだけの答弁を、誰がわざわざ観たいでしょうか。
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