のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第281回:政治家の仕事と外交

更新日2012/10/11



アメリカの大統領選挙が後1ヶ月足らずに迫り、テレビ、ラジオ、DMにメール、それに加えて電話攻勢が熱を帯びてきました。

ニュースも大統領選挙のことばかりで、しかも相手候補の悪口ばかり羅列するので、聞いている方もイヤになってしまいます。つい、早く選挙が終わってくれればいいなと思ってしまいます。

国連では世界各国の代表が弁舌をフルっていますが、アメリカの大統領選挙の方にばかり目も耳も向いているアメリカ人には、全く興味を引かない小さな外交行事としか映っていません。4年に1回の大統領選挙の年には、アメリカの政治が停止する…とりわけ票にならない外交は完全にストップするとよく言われます。

イランの首相、ムフムード・アフマディネジャドが国連で演説した時も、イランの言うことなど聞く耳を持たない…というのでしょうか、アメリカの席は空っぽ(もちろんイスラエルの席もですが…)でした。

イギリスのキャメロン首相もやってきて、シリアに国連が積極的に介入するよう呼びかけました。通常、国の元首が国連のあるニューヨーク(国連本部を置くには理想的な街とはとても思えませんが…)にやってきたとき、他の国の元首も来ていますから、公式的に、または秘密裏にたくさんの会談を持ち、根回しをするのが慣例になっているのだそうです。

ところが、キャメロン首相、現役のイギリスの首相として初めて、アメリカのテレビ、しかも何もかも笑い飛ばすことで有名なデイヴィド・レターマン(David Michael Letterman)の深夜のトークショー番組の「レイト・ショー」に出たのです。ブレアー元首相も2度このショーに出ていますが、いずれも現役を退いてからのことです。

このデイヴィッド・レターマンの番組では、イギリスの歴史なぞなぞクイズに答えていましたが、これがまた、イートン、オックスフォードをトップクラスで通してきたキャメロン首相、結構間違ったり、答えられなかったりで…笑いを取っていました。

スタジオにいる観衆から声援を受け、「私のイギリスでの人気は最近下がりっぱなしだから、こんなに盛大な声援を受けたことがない」などと、本音なのか冗談なのか分からないコメントを残していました。

その中で、一番大きな声援を受けたのは、アメリカでの大統領選挙のテレビ悪口合戦について質問された時、キャメロン首相が「イギリスでは、テレビでの首相選挙活動は禁じられている」と言った時です。ほとんどため息のような、短い「ホーッ」という声の後、ヤンヤの声援、拍手が飛び交いました。

アメリカ人の多くが、大統領選挙戦の相手の揚げ足を取るだけの膨大なテレビ放映に食傷しているのでしょう。もっとも、イギリスや日本のように多数党の党首が自動的に元首になるシステムについて、一般のアメリカ人が無知なこともあるでしょうけど。

それにしても、一国の首相が凡そ政治的でない深夜のテレビ番組に気軽に(ではないかもしれませんが)出演し、ウイットとユーモアに富んだ対応で視聴者を大いに笑わせたことに驚かされ、イギリス人の自信としたたかさを感じたのは私だけかしら。

自国の歴史をふざけ半分にしろ外国人に質問され、答えに詰まりながら、自分自身を笑い飛ばす精神は、チョットヤソットで持つことができるものではありません。よほどの自信と余裕がなければできないことです。

日本が外交下手と言われるのは、なにも言葉のハンディだけではないしょう。誰か専門の官僚が下書きしたものを読み上げるだけの答弁を、誰がわざわざ観たいでしょうか。

 

 

第282回:空港チェックに裸で抗議

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで

第251回:Twitterと一億総モノ書き時代
第252回:最後の言葉と辞世の句
第253回:ギリシャ語・ラテン語から中国語・日本語へ
第254回:人口論と歴史的事実
第255回:イースターのハレルヤコーラス
第256回:この世の終わり? 否、男だけが絶滅する!
第257回:天候不順と地球温暖化
第258回:"ティーボ-イング" スポーツ界への宗教の侵略
第259回:愛犬家と猛犬
第260回:猛犬ラットワイラーとピットブルの悲劇
第261回:シニア・オリンピックの記録映画
第262回:リサイクルの原点“原始チリ紙交換”
第263回:"シングルハンダー症候群"
第264回:ギル博士とハイド氏、アメリカ版二重人生
第265回:飛行機の旅の憂鬱
第266回:この村、この町、売ります!
第267回:オリンピックと女性の参加
第268回:自分はイイけど、お前はダメの論理
第269回:リス撲滅作戦
第270回:デービー・クロケットは3歳でクマを退治できた!?
第271回:虐殺、乱射事件の伝統!?
第272回:スーパー・マリオがフルモンティでやってきた!
第273回:アメリカの乱射事件と銃規制
第274回:東西のお年寄りチャンピオン
第275回:アメリカ大統領選挙の憂鬱
第276回:アンダルシアの郷土愛とアメリカの愛国主義
第277回:愛国主義はヤクザ者の隠れミノだ!
第278回:女性の時代?
第279回:一夫多妻と愛人志願
第280回:人々を笑わせ、考えさせる"イグノーベル賞

■更新予定日:毎週木曜日