■くらり、スペイン〜イベリア半島ふらりジカタビ、の巻

湯川 カナ
(ゆかわ・かな)


1973年、長崎生まれ。受験戦争→学生起業→Yahoo! JAPAN第一号サーファーと、お調子者系ベビーブーマー人生まっしぐら。のはずが、ITバブル長者のチャンスもフイにして、「太陽が呼んでいた」とウソぶきながらスペインへ移住。昼からワイン飲んでシエスタする、スロウな生活実践中。ほぼ日刊イトイ新聞の連載もよろしく! 著書『カナ式ラテン生活』。


番外編:もろモロッコ!(1)

番外編:もろモロッコ!(2)
番外編:もろモロッコ!(3)
番外編:もろモロッコ!(4)
番外編:もろモロッコ!(5)
番外編:もろモロッコ!(6)
番外編:もろモロッコ!(7)

 

■移住を選んだ12人のアミーガたち、の巻(連載完了分)

■イベリア半島ふらりジカタビ、の巻(連載完了分)

■更新予定日:毎週木曜日

番外編:もろモロッコ!(8)

更新日2004/04/15


1月1日

午前4時45分に起床、ホテルのフロントへ。離れのように各々独立している客室からフロントまで、だだっ広い敷地を「寒い、寒い」と言いながら早足で歩く。途中、頭上に輝くあまたの星に気づいて「ひゃあ、キレイなー!」と歓声を上げると、キャリーはチラと見上げて「ケニアの方がもっとキレイよー」とあまり関心なさそう。ケニアって……。その比較、私の想像の範囲を超えてます。

フロントで待っていたのは、ブルーのターバンを頭に巻いたガイドさん。背が高く、眼鏡を掛けていて、現場主義の考古学の教授のような雰囲気。って、そんな知り合い、いないけど。あいにく先方は英語がわからず、こちらはフランス語がわからず、会話は成立しない。試しに、私も持参してきたブルーの布を差し出して、身振り手振りで「巻きたいのだけど」と伝えてみると、「ハハァ」と笑って巻いてくれた。なんとかなるもんす。

というわけで、ラクダが似合う姿になったサハラ・バージョンの私、颯爽と4WDの後部座席に乗り込む。ちゅうても腰には、腰痛防止のコルセットをしているのだが。さぁ、念願の「サハラ砂漠で初日の出を見る半日4WDツアー」(3人で600DH=約6000円と考えた)が、はじまるぜー!


10分ほど舗装道路を走り、さらに20分ほど「辛うじて舗装道路だけど穴ぼこが多くてすでに4WDじゃなきゃ走行不可能」という道を行くと、車はウィンカーを出すこともなくぐいっと道路から外れた。それからあとは、ヘッドライトに照らし出されるものといえば、茫洋とした赤茶色の地面ばかり。いったいなにが目印になっているのかさっぱりわからんが、我らが4DWは、真っ暗闇のほんの一部だけをライトで照らしながら、腰も砕けよとばかりに爆走する。もし昼間にこれを頭上のヘリから見たら、あのパリ・ダカール・ラリーのような光景になるんだろうなぁ。

そのうち、チラリと小さな光がふたつ見えたかと思ったら、ぐんぐん近づいてきた。他の4WDだ。どうも様子がおかしいのでガイドさんが話を聞くと、ヨーロッパからの旅行者で、道に迷っていたらしい。こんな道もない砂漠の真ん中で、いや、出会えて良かったねぇ、ホント。車を停めてしばらく話をするとのことなので(もちろんジェスチャー・トーク)、ちょうど腰も限界に来ていたことだし、と、私も車のドアを開けてエイヤッと砂の上に降り立った。とすん。そして腰を伸ばしがてら頭上を見上げて……、絶句。

星が、降るようにどころじゃなく溢れるように、どっちゃりと光っているのさぁ! いつも夜空を見るたびにまず最初に探す北斗七星が、ぎゅうぎゅうにひしめき合って輝く星の中に埋もれてしまって、どこにあるかさっぱりわからない。「ヘイヘイ、ミラ、見て、ルック、すごいよ!」 私の興奮した声にキャリーも降りてきて、「ワーウ!」と欧米人らしい感嘆の言葉を発する。「ケニアとどっちがすごい?」「どうかなー、同じくらいかなー? でもホント、キレイなー」 身を刺すような寒さのなか、しばし呆然と、スーパー・デラックスな夜空に見惚れる。夜空にラメ入りの透明マニキュアを20回重ね塗りしたら、これくらいのキラキラになるかなー?


約1時間で、サハラ砂漠のほぼ北端、大砂丘の入り口へ到着。「ここからはラクダに乗るか、歩くかだよ」と言われる。ラクダのモモヒキ、違った客引きが、これは流暢な英語とスペイン語で「日の出を見るポイントまで歩いたら1時間、ラクダで15分」としつこく誘うのを、そんな砂丘の奥まで行くつもりはないと笑顔で断る。まだ日の出までは1時間ほどあるらしいので、しばし休憩。

6時半、空から星がほとんど姿を消したところで、私たちは大砂丘へと歩き出した。どっちに行ったらいいのかわからないので、とりあえず前をゆく観光ラクダについていく。しかし、ラクダの歩みはのろい。しかもウンコがポーロポロ。我慢できず、しばらくして追い越してしまった。ん? ということは、「ラクダで15分、歩いて1時間」っていうのはいったい?

ひんやりとした砂が、サラサラサラと靴の中に入ってくる。歩いた跡は、靴の形じゃなくて、体重の分だけなのかスワッと優しいかたちに、砂が凹んでいる。まるで夢の中を歩いているような、ふわふわとしたかんじ。やがて目標をわりと近くの、日の出がきれいに見えそうな大きな砂丘に定めて登る。傾斜は、けっこうきつい。足下の砂が、サラサラヘロヘロと頼りなく落ち続ける。バランスを崩して、思わず前に手をつく。でも砂は湿度を含んでいないせいか、汗っかきの私の手のひらにも少しも留まることなく、スルスルと零れ落ちて、ぜんぶ砂丘の一部に戻ってしまった。なんだかやたら楽しい気分になり、四つんばいのような体勢のまま「ひゃー!」とかなんとか叫びつつ頂上まで駆け上がった。

隣の丘にガイドらしき男性と客なのか年配の女性がいる他は、近くに人影はない。先ほど追い越したラクダの隊列は遠くの丘を目指して歩いていて、そこにはいくばくかの人影が固まっているのが見える。といっても目に入る範囲で見えるのは、50人にもならないだろうか。あとは日の出を待つばかり。私は優しい感触の砂の上に、ぺたんと座り込んだ。サーラサラ。コータローは、ごろんと寝転んでいる。砂丘に打ち上げられたトドのようだ、なんて言わない、元旦だし。やがて東の空なのだろう、連なる丘の向こうが次第に白んできた。


それからは、なんだか一瞬のことだった。こんなん書けるかい! と思うのだけど、できるだけ頑張って書いてみますんで、それぞれのみなさんの日の出体験を思い出しつつ読んでください。

東の空は、美しいグラデーションが柔らかい円を描いている。縁の方から濃い藍色、それが水に滲み出したような深い青、そしてどうやってこれらと混じりあっているのかわからないけど、明るいオレンジ色。このオレンジは、手前の丘にかかるところなどではずいぶん濃く暖かい色合いになのに、まだ姿を現さない中心に向かっては白さが増すというか、かえって色を失ってしまって、「輝き」だけがあるように見える。その輝きが増すにつれ、遥か遠くまで連なる砂丘はシルエットに姿を変えてしまい、輪郭以外のディテールは黒々としたなかに沈んでしまう。

そして、ぺこん、と、光がなんの躊躇もなく顔を出した。クロスフィルターをかけたかのような光条が現れ、すぅと伸びる。いまはやや濃淡のあるシルエットになった砂丘が、まるで海の波のように浮かび上がる。その向こうで、光がどんどん膨れ上がる。ふと、隣の丘の斜面が赤っぽい色で照らし出されたと思ったら、周囲がだいぶ明るくなっていて、足下といわずどこといわず風紋が広がっているのがわかった。あたかも、波打ち際に佇んでいるかのようだ。その風紋の小さな隆起が、この日この年はじめて迎えた光で、影で、くっきりと描き出されている。

毎日繰り返されている光景なのだろう、何千年も、あるはもっと長い間。でも私は、これらの景色のすべてに、ふるふる震えるほど感動したぞー!


すかさず2004年最初の太陽にカメラを向けると、フレーム内に黒い影が入ってきた。「ヘイ、カナ、撮って撮って」 御来光をバックに、キャリーが最高のスマイルをきめている。一瞬「あーあ日の出を撮りたかったのにぃ」と思ったのだが、すぐに「バカヤロ、どっちが私にとって大事なんだ!」と大反省。「コータローも入れ!」と叫び、おおいにフラッシュをたいてサハラ砂漠の初日の出、スーパー逆光写真を撮った。

もちろん私も、初日の出をバックに撮ってもらった。なんせコータローは元高校の英語教師なのだが、フリーのカメラマンでもあったのだ。ちなみにライターでも編集でもあり、また世界中で物騒な魚と格闘してきた釣り師でもある。ここらへんのぜんぶ、私は奴から学んだ。そういえば麻雀もだなぁ。チートイツを「ニコニコ」(ちなみに同じ牌を2個ずつ揃える役)とキュートなネーミングで騙くらかされて教えられた、小学校4年生の春。

そんなイカサマ・ハッタリ・大騒ぎゲハゲハ人生の元凶、もとい、師がカメラを構える前で、私は初日の出に向かって高倉健のごとく渋めにきめた。が、その写真は、見事にキャリーの家族の大爆笑を得たらしい。そうだ忘れていたのだけど、頭にはターバン巻いてたんだった。……まぁ、よかろう。こうなりゃ2004年も、大いに笑ってちょうだい。そこのあなたも、ねー! よろしくぅ。


 日の出後、静かな静かな大砂丘。
 左にちょこんと見えるのが、人間。
 なんせ、圧倒的な光景でした。


−…つづく

 

番外編:もろモロッコ!(9)

 


 
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