第650回:アメフト“スーパーボウル”狂想曲
今年の“スーパーボウル(Super Bowl)”、アメフトのチャンピオンシップはサンフランシスコ・フォーティナイナーズ(San Francisco 49ers)とカンサスシティー・チーフス(Kansas City Chiefs)の間で行われました。全世界でのテレビ視聴者数では、サッカーのワールドカップ決勝戦には及びませんが、アメリカ国内での馬鹿騒ぎと言いたくなるほどのマスコミ合戦、プレイヤーや監督のプロフィール、試合の予想、入場券の異常な値段とさらにインターネットで転売される天文学的価格…と、試合前から過熱気味でした。
それに加えて、カンサスシティーは何と言っても私が育った街ですし、父親、叔父、親類がゴソッと住み続けているところです。カンサスシティーが“スーパーボウル”まで行ったのは50数年ぶりのことで、その時はグリーンベイ・パッカーズ(Green Bay Packers)に35対10という悲惨な負け方をしています。
“スーパーボウル”と呼び始めたのは1967年からで、それまでは“ワールド・チャンピオン・ゲーム”(アメリカ人にとって、アメリカだけがワールド=世界なのです)と呼んでいましたが、同時にもっと簡単でアピールする呼び方を探しあぐねていたところ、これもカンサスシティー・チーフスのオーナーの娘さんがスーパーボウルというボールをぶつけ合うオモチャで遊んでいるのを目にして、「よし、これでいこう…」と決めたことのようです。
大学のアメフトの決勝戦は“オレンジボウル”、“ローズボウル”、“ピーチボウル”などの名称が付けられていますが、何と言っても傑作なのは、日本の大学アメフトの決勝戦の“ライスボウル”でしょう。“ライスボウル”、これってオニギリじゃありませんか。アメフト・オニギリ決勝戦、なんだか、オニギリを投げ合い、ぶつけ合い、ご飯だらけの顔になるゲームをイメージしてしまうのは私だけかしら…。
アメフトの決勝戦、“スーパーボウル”が今日のようにアメリカ最大のイベントになったのはそう昔のことではありません。インターネットで1967年の入場券のコピーを見ますと、10ドルでしかも3分の2ほどは売れ残っているのです。それが、今年の2020年には平均で2,500ドルから3,500ドル、その上ダフ屋というのでしょうか、インターネットで転売されている入場券は7,000ドルまで跳ね上がっています。しかも、それだけ払うつもりでいても、余程早く手を回さない限り入手はまず不可能だというのです。
1月、2月の2ヵ月間、スキー場近くの町に小さなアパートを借りてネグラにしていました。“スーパーボウル”の日、日曜日でしたが、午後になってまるで潮が引くように、スキー場のスロープにヒトケがなくなったのです。アレッ、アメリカがロシアと戦争でも始めたのかなと思いつつ、ガラガラになったスキー場を独占した気になり気持ちよく滑り、アパートに帰ってテレビを点けたら、“スーパーボウル”の真っ最中でした。私たちの山里の家にはテレビがありませんので、テレビは珍しい文明の利器で、すぐに点けてしまうのです。
アメリカではアメフト未亡人という言葉が生まれるほど、奥さんソッチノケで男どもはアメフトに熱中します。しかも、大事な試合になると、どこか友達、親類の家に集まり、ビールやワインを飲みながら、大声を上げて観戦するのが伝統になっています。
しかも、私のホームタウン、カンサスシティーが勝ってしまったものですから、街中大騒ぎでした。2日後に行われた、カンサスシティー・チーフスの優勝パレードでは、街中がチーフスのチームカラーである、真っ赤なジャケット、帽子、マフラー、ティーシャツ、ジャージーを着た人で埋まり、まさに気違い騒ぎもいいところでした。どのようにして数えるのか20万人とか30万人が駅前広場、沿道を埋めたと…マスコミは言っています。さすがに選手、監督は酔っ払っていませんでしたが、紙吹雪やテープを投げる観衆の方は、ベロンベロンの酔狂の態でした。
アメリカでは街頭、街中でアルコールを飲むことは厳しく規制されていて、お酒は自宅かバー、レストランで飲むものとされています。道路、公園など公共の場所での飲酒はオマワリさんにしょっ引かれます。それを、ウイスキーやビールを真昼間からラッパ飲みしているのです。この日ばかりは羽目をはずしたのでしょうか、もっともオマワリさんの方も、パレードに参加していたのかもしれませんが…。
自分が住んでいる界隈以外の他の国、州、街の地理に疎いのはアメリカ人の特徴です。いったい、小学校の地理で何を習ってきたのだといいたくなるほど、トンチンカンな地理的感覚しか持ち合わせていません。トランプ大統領にしてから、“スーパーボウル”の勝利はカンサス州の住民の誇りになる…云々とやらかしたのです。カンサスシティーはカンサス州ではなくミズーリー州にあるのです。まさか、トランプさん、酔っ払っていたわではないと思いますが…
8万人が熱狂したスタジアム、20~30万人のファンが街中で回し飲み、それでも新型コロナウイルスの陰も形もなかったのは、どうしてでしょう? チームカラーの“赤づくめ”に除菌効果があるのかもしれませんよ。でもまだ、“真っ赤”な下着が買いダメ、買い占められたという話は耳にしませんから今のうちですよ。
今年の“ヨサコイ・ソーラン”で、伝統の“北大赤フン踊り”が新型コロナウイルスを蹴散らしてくれることを祈っています。
-…つづく
第651回:国際的広がりをみせてきた映画界
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