第382回:アメリカで黒人であること
数年前、家の屋根を葺きなおしてもらうため、黒人(アフリカン・アメリカンと言わなけばならないそうですが)を雇いました。髪をアフロスタイルに決めたホレボレするくらい、それはそれはハンサムなマッチョがやってきました。ナヨナヨした植物人間的イケメンとは次元が違うのです。ボブという名前でした。彼は二人、手下を連れてきました。 一人は刺青だらけのプエルトリコ人で、もう一人はダラスという名の黒人で、男前こそボブに50歩は譲りますが、これまた大変な筋肉マンでした。
夕方、彼らが日々の仕事を終え、帰る前に、ウチの旦那さん、彼らにビールをご馳走し、ポーチでの雑談を盛んに楽しんでいたので、後で何の話をしていたのと尋ねたところ、ボブもダラスも刑務所仲間で、ダラスは2、3日前、刑務所から出て来たばかりで、そこで一緒だったプエルトリコ人を連れてボブの屋根葺き業に加わったと言うのです。
そんな人たちを雇い、家の中に入れたことに多少の後悔の念が浮かんだことは認めなければなりません。ダンナさんにそのことを言うと、「俺たちの家には盗むものなんか何もないではないか、モノを持たない者の強みだ」と、余計な心配するなとばかり、はなから全く気にしていないのです。
その後、彼らが毎日仕事に来て、毎夕ビールを飲み交わすのが、なんだかダンナさんの楽しみになったきたようでした。私も加わり、この大学町では、ほとんど黒人を見かけないと言ったら、ダラスは、「何を言っているの、刑務所はほとんど黒人ダラケ、残りはスパニッシュだ(主にメキシコ、中南米人。スペイン語を話すラテン系の人をそう呼びます)。この町では、俺たち黒人を刑務所に押し込めているだけだ」と言うのです。
帰り際、ダンナさんはいつも彼らにビールを持たせてやります。その時、彼らは丁寧に礼を言い、そして、缶ビールを茶色の紙袋でビールを包みます。ボブが運転するピックアップトラックの助手席に乗って行くダラスやプエルトリコ人は運転しているわけではないし、車の中でゆっくり飲みながら行けばいいではないか…と言ったところ、3人が一斉に、「何を言ってるんだ、黒人が公共の場でアルコール飲料を缶やビン、ムキダシで持っていただけで、たとえ飲んでいなくても逮捕されるだぞ」と言うのです。
そして、今週何回、警察に止められ、免許証、保険証、身分証明書をチェックされたか、俺は3回、月に8回だ…と、お互いに警察に止められた回数を競い合う始末でした。そういえば、一応、コーカソイドに分類されている私は、11年間一度も街中で警察に止められたことなどありません。
彼らの車の中に運悪く、ビールの空き缶が転がっていたなら、即警察署に引っ張られ、ウジウジと質問攻めに遭うというのです。そこで反抗的な態度を取れば、待ってましたとばかり、即、拘留される仕掛けになっているというのです。この半分眠ったような田舎の大学町ですら、黒人であることはそれだけで大変なことなのだと、感じさせられました。
ミズーリー州、セントルイスで、黒人の若者が警察に射殺された時、全米でチョットした騒ぎになりましたが、あのような事件はアメリカ国内でたくさん起こっており、そのような事件がきっかけになり根の深い社会運動に発展することはめったにありません。 要はマスコミの取り上げ方が浅く、センセーショナルな事件にワッと群がり、時間をかけた追跡報道をしないところに問題があります。
2014年9月4日、サウスカロライナ州で警察が黒人を撃った事件は、日本では報道されなかったでしょう。ガソリンスタンドに付随するコンビニに入ろうとした黒人を警察が撃ったのです。
レーヴァー・ジョーンズさんはサイレンを鳴らさずに後を付けてきた警察官、シーン・グルバートに免許証と車の登録証の提示を求められ、ジョーンズさんが車の登録証はグラーブコンパートメントにあるからと、それを取り出すために自分の車に引き返し、グラーブコンパートメントを開けようとしたところ、警察官はジョーンズさんに、3秒間に4発もの銃弾を浴びせたのです。
ジョーンズさんは、「どうして、俺を撃つんだ?」と言いながら、全く抵抗の構えすら見せていませんでした。もちろん、グラーブコンパートメントにはピストルなどの武器はなく、車の所有検証、保険証などの書類だけでした。
パトカーのダッシュボードに取り付けられたビデオカメラの録画(裁判所の提出命令で公開されました)を通じて、その様子を見ることができます。
私も、車の登録証、所有権証、保険証などは、グラーブコンパートメントに詰め込んだままです。おそらく100パーセント近くのアメリカ人はそうしていることでしょう。そんな書類等をお財布に入れて持ち歩く人にお目にかかったことがありません。
サウスカロライナだけではありませんが、このように白人の変質狂的警察が黒人を撃つ事件は、相手が死んだ場合でもまず"お構いなし"、無罪の訓告、戒告、減給程度で終わってしまいます。
実際、サウスカロライナ州で70歳の男性(もちろん黒人です)が突いていた杖をライフルとカン違いし、撃ち殺してしまった警察官も"お構いなし"でした。検察庁自体が頭からそんな事件、白人のお巡りさんが黒人を撃ち殺すことに事件性を認めず、訴えを却下するのです。
今回のジョーンズさん事件は、偶然? ダッシュボードのカメラで録画していた映像(警察は逆にこの録画で、警察官の行動の正当性を証明しようとしたのですが)が流れ出て、世間に知られ、私のような部外者でも観ることができましたが、そんな映像の記録がない"警察が黒人を撃った"事件は、サウスカロライナ州だけで2014年9月までに、少なくとも35件あり、そのうち16人の黒人が死んでいます。
無抵抗のジョーンズさんを撃った警察官のシーン・グルバートは、"市民を暴力から守った栄誉により"表彰されていました。
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