■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで

第51回:スポーツ・イベントの宣伝効果
第52回:国家の品格 その1
第53回:国家の品格 その2
第54回:国家の品格 その3
第55回:国家の品格 その4
第56回:人はいかに死ぬのか
第57回:人はいかに死ぬのか~その2
第58回:ガンをつける
第59回:死んでいく言語
第60回:アメリカの貧富の差
第61回:アメリカの母の日
第62回:アメリカの卒業式
第63回:ミャンマーと日本は同類項?
第64回:ミャンマーと民主主義の輸入
第65回:日本赤毛布旅行
第66回:日本赤毛布旅行 その2
第67回:日本赤毛布旅行 その3
第68回:スポーツ・ファッション
第69回:スペリング・ビー(Spelling Bee)
第70回:宗教大国アメリカ
第71回:独立記念日と打ち上げ花火
第72回:ティーンエイジャーのベビーブーム
第73回:アメリカで一番有名な日本人
第77回:ロパクってなんのこと?
第78回:派手な政治ショーと選挙
第79回:「蟠桃賞」をご存知ですか?
第80回:日本の国際化と国際化した日本人
第81回:またまた大統領選挙
第82回:またまた大統領選挙 その2


■更新予定日:毎週木曜日

第83回:勝海舟と700,000,000,000ドル

更新日2008/10/23


古臭いことが頭に一杯詰まっているウチのダンナさんが言うことには、勝海舟がアメリカから帰り、徳川家と自分の家を守ることしか頭にない幕府の上級お役人の前で帰米報告をしたとき、「アメリカとはどんな国か?」と問われ、「アメリカというのは賢い人が上にいる国です」と無能な老中たちの面前で言い、「大統領とは、たとえば一番下の労働者の生活を心配してる」と述べたと、ダンナさんその場に居合わせたように表現してくれました。また、ワシントンの子孫のことなどアメリカ人は誰も知らないし、知ろうともしないと、勝海舟先生は語ったそうです。

700,000,000,000ドル、これだけ0が並ぶとどう読んでよいのかさえ分りませんし、ただ天文学的数字になってしまい実感がわきません。私がどうにか想像が及ぶ範囲は、10,000ドルくらいまでかしら。

この数字を米語で読むと、700(ビリヨン)Billionドルとなります。日本の数え方では7,000億ドルになります。これが今回アメリカ政府が緊急救済資金として大手の保険会社、証券会社に与える金額です。アメリカの政府は大赤字を抱えていると思っていましたが、そんな大金をポンと出せることに驚きました。その効果のほどは、いままでのところ全く上がっていませんが…。7,000億ドルはオランダの経済総力と同額に当たるそうですし、アメリカの一世帯当たり、6,200ドル支払っていることになります。

さらに追加資金で、あと250ビリヨンドル(2,500億ドル)出すそうですから、やはりアメリカはお金持ちの国です。とは言っても、国の負債、赤字の総額は10,000,000,000,000ドル(10Trillion=1兆ドル)を超えていますから、アメリカは"借金、赤字も財産のうち"という豪快な性質を持っているのでしょうね。それだけの赤字を抱えていても国がどうして潰れないのか分りませんが…。

アメリカには日本やヨーロッパの国々が持つ国民年金のようなものがなく(正しくは社会保障が任意の形であるのですが、年金としては微々たるもので、ペットの餌代にもなりませんし、事実上破産状態です)、すべて個人がプライベートの年金会社に年金を積み立ています。営利企業である年金会社は、年金プランを沢山用意して私たちに売り込みます。もちろん年金会社は私たちが積み立てたお金を利用して様々な投資をして、会社も儲け、年金をかけている人たちにも見返りが(多少は)いくようにしています。

掛け金の元金を保証するタイプの年金は銀行の利子と変わらず、利子はゼロに近いですから、大半の人は年金会社が勧める株式や国債へ投資する年金プランを選ぶことになります。 個人で株を買うのと違って、投資は年金会社のプロが行いますので、自分の掛け金がどんな会社の株になったのか全く分りません。ただ、毎月送られてくるレポートで、あなたの掛け金は何百ドル増えました、減りましたと知らされるだけです。

ですからアメリカの年金は、日本の年金のように景気、不景気に左右されずに一定額が支給され、物価上昇率と同調するように年々上がっていくことはありません。自分が積み立てた金額の残っている総額を引き出せるだけです。 

その総額が、毎月大変な勢いで減っているのです。年金会社が株式に投資し、その株が値下がりしているので、私たちが積み立てた年金もグングン減っています。私の例ですと、長年積み立てた総額の半分くらいにまで減ってしまいました。まだ私はどうにか働いているから良いようなものですが、すでに定年退職している人は大変です。一挙に年金が半分、4分の1になってしまうのは当たり前で、全くなくなってしまった人も大勢います。

テレビ、新聞はそんな人たちのニュースで溢れています。もちろん、年金会社はなんの責任も取りませんし、政府も証券会社に7,000億ドル出す以外何もしません。アメリカのシステムでは、株式の不況は100%近くのアメリカ人の生活に直結した大問題なのです。

勝海舟先生が見たアメリカは、現在のアメリカとなんという違いでしょう。もし、勝海舟先生が今のアメリカを見たら、「親から子に譲られたような大統領の職で、その大統領は労働者や失業者、年金生活者のことを考えず、大企業、証券会社、保険会社、石油会社のことしか考えていない」と答えるでしょうね。

勝海舟先生に150年先まで見通して欲しかったと言っても、それは無理でしょうけど…。

 

 

第84回:長生きをする秘訣は?