第779回:地球を汚さないエネルギー
このところドイツと近隣の国を訪れる機会があり、汽車やバスの窓から存分に景色を楽しみました。一番深く印象付けられたのは延々と広がるソーラーパネル(太陽電池)のファームです。それこそ見渡す限りソーラーパネルで覆われているのです。
私たちが住んでいるコロラド州から父が住んでいるミズーリー州へは、カンサスの大平原を西から東に横切ることになります。その大平原に風車、風力発電の巨大な3枚の羽がゆっくりと回っている風車が林立し、それこそ何千と並ぶようになりました。
『オズの魔法使い』でカンサス州のトルネードはすっかり有名になってしまいましたが、今までところ、トルネードで吹き飛ばされた風力発電の風車はないと言いますから、微風から烈風まで、ハイテックを駆使した制御装置が上手く働いているのでしょう。
私たちが始終出かける山やスキー場へ行くため、南に向かう幹線道路ハイウエイ50は“バッドランド”(悪い土地)と呼ばれ、白茶けた乾燥しきった地帯を貫くように続きます。準砂漠地帯です。以前から、他に使い道のない土地、そここそ太陽電池にもってこいの場所だと言い合っていたところ、やっと重い腰を上げて、大掛かりな太陽電池ファームが建設され始めました。
太陽の光と風をエネルギーに変えるのは、地球温暖化を抑えるためにも必要だと昔から分かっていたのでしょうけど、すでにある石炭や重油を燃やす火力発電所、原子力発電所をどう破棄するのか、炭鉱をどのように閉鎖していくのか、国の大問題ですから、とてもスムーズには風力、太陽に移行できなかったのでしょう。フランスは未だに原子力発電に拘っています。
ドイツの太陽電池ファームも速やかに石炭火力発電から移行できたわけではありません。元々、ドイツは石炭の露天掘り、狭いトンネル状の炭鉱から石炭を掘り起こすのではなく、地表からいきなり削り、巨大な穴を掘っていくという機械化し易い、したがって、経費のかからない採掘方法が可能な炭鉱でしたから、そこから運んでくる安い石炭を燃やし、発電していました。
例えばポーランドとの国境に近いゲルリッツ(Görlitz)は、未だにドイツで稼働している大炭鉱の一つですが、ここの石炭は茶褐色で純度が悪く、従って、モウモウと煙をあげる割りに火力の出ないタイプのものです。地球を汚すチャンピオンの燃料だと言う学者がいるくらいです。そんな石炭を大量に燃やして電力を得ているのです。汽車やバスの窓から見た太陽電池ファームの陰で、ドイツでもまだ火力発電が電力供給のトップだと知り、クリーンエネルギー、地球温暖化防止を訴えるのは簡単だけど、実際に太陽電池、風力発電に移行するのはとてつもなく大変な、これから長い年月をかけて少しづつ根気よく変えていく性格のものだと知りました。
ドイツの電気代は世界で一番高く、そんな高額の電気代を払っても、地球を汚さないエネルギー源から電力を得ているからと、消費者が納得し満足できるモノなのか、喜んで高い電気代を払えるものなのかわかりません。
電気を使うとき、その電力がどこから来ているかなどと私たちは意識しませんし、電力会社も電源のこと、原子力何パーセント、石炭の火力発電から何パーセント、重油から何パーセント、原子力、風力、太陽電池からは…とは意図的にかどうか、明記しません。
この高原台地の森に移り住んだ時、ダンナさん大いに西部開拓時代に想いを馳せ、水は風車で地下水を汲み上げ、電気も太陽電池で賄うという幻想を抱いていたようです。ソーラーパネルは一生ものですから、一枚一枚の値段は高くても、まあ~我慢できるか…とか、色々と算段しましたが、問題は電池でゴルフカートに使う6ボルトの電池でした。
現時点ではそれが最も効果的だろうと判断し、超重い電池を10個並べ使ってみましたが、電池の直流DCを交流電気のACに変換するインヴァーター自体が少しではあるにしろ電気を食い、とてもコンスタントに冷蔵庫を回し、ビデオを観たり、何よりも地下の貯水槽から家の台所、風呂、トイレに水圧を掛けるポンプを回すには十分な電力が得られなかったのです。
そのためには、屋根全面をソーラーパネルで覆い、電池も今の5倍ほど設置しなければならないとダンナさんの計算で出たのです。おまけに高価なバッテリーには寿命があり、7年くらいで全部交換しなければならないと分かり、ダンナさんの自給自足、自然のエネルギーを使うという夢は潰えたのでした。
利用可能な自然のエネルギーは十分あるのですが、それを電気に変え、蓄えるには初めにとんでもない投資をしなければならないのです。政府が大々的に援助しなければ、とても個人レベルで太陽、風力のクリーンなエネルギーを始動できるものではありません。
私たち自身、クリーンエネルギーに移行するべきだと言いながら、何を燃やしているのか定かではない発電所からの電気を使って暮らしています。
-…つづく
第780回:競争馬の悲劇
|