第685回:新しいベルトと幸せな時間 - 東北本線 仙台~黒磯 -
泉中央駅から仙台駅に戻ろうと、プラットホームへ階段を降りていたらベルトが壊れた。腹の下でブチッと鳴って、下腹部の開放感。やれやれ。慣れたとは言え、肥満体型はこれだから困る。腹が逆円錐形だから、ベルトをキツく締めないとズボンが下がってしまう。一方、腹は常に膨らもうとするから、バックルは常に緊張状態だ。その結果、ベルトがバックルに噛まれる部分で切れる。こうなると、常に片手でズボンの腰部分を引き上げなくてはいけない。
ベルトを選んでくれた、親切な洋服屋さん
これから東京まで、行きと同じ各駅停車だ。その間ずっとこの状態はつらい。仙台駅に到着した後、外に出て街を見渡す。代わりのベルトを売っていそうな店は見当たらない。そもそもまだ10時前で、大きな店は開いていない。ズボンを引き上げつつ駅前を巡っていたら、ハピナ名掛丁というアーケード商店街があった。小さな洋品店がありそうだと思って進んでいくと、まさに婦人服屋があった。ベルトなんて、どうせ上着で隠れる。女性用でもいい。女性の店主に、この太い腹に使えるベルトを探していると言ったら、市松模様のオシャレな品が出てきた。500円。
快速、仙台シティラビット
ベルトを締め直し、腹の位置も収まったら腹が減った。駅ビルに戻り、2階のコンコースを歩いたら「仙台名物ひょうたん揚げ」という店がある。串刺しのドーナツ団子という形。買ってみたら、紙に包んでくれてケチャップの小袋が付いてきた。甘い食べ物ではなかった。アメリカンドッグのようで、しかし中身はソーセージではなくカマボコだった。この店は笹かまぼこで有名な阿部かまぼこ店が経営しているという。なるほど、仙台名物だ。
今日は帰路だ。青春18きっぷの5回目を使い、東北本線を南下する。それだけではつまらないから途中で烏山線に寄るつもりだ。上野着は20時過ぎの予定。各駅停車の乗り継ぎでも10時間ほどで帰れる。青春18きっぷの1回分は2,370円。たいていの人には苦痛だろうけれど、私にとっては1時間あたり237円のレジャーだ。
電車に乗りづめだから、昼食用に駅弁を買っておく。昨夜は牛タンを食べたから、仙台名物の牛タン系弁当は避け、苦手な魚介系を避けると、なぜか"秋田比内鶏弁当"に落ち着いた。鶏肉は好物だ。この駅弁は秋田、青森、東京駅構内でも買った。数え切れないほど食べている。
向きが固定されたクロスシート
10時49分発の福島行き快速"仙台シティラビット"に乗った。719系という交流区間線用電車だ。ステンレス製の銀色車体に、運転席正面が白い。関東で活躍した211系直流電車に似ている。しかし車内は独特だ。セミクロスシートで扉付近がロングシート。扉と扉の間のクロスシート部分は、中央に向かって二人掛け2組が向かい合う"集団見合い方式"だ。座席の向きは転換できない。私は進行方向の前向きの席に座れた。傷んでいるようには見えないけれど、やはり古い車両だ。どこかから隙間風が漏れてくる。暖房は効いているけれども、寒い。
ここでロングシート車とは……
福島駅に12時03分に到着。構内に軌道試験車「イースト・アイ」が停まっている。各地の線路を巡回して、線路を点検する車両だ。鉄道の安全は点検や保線で維持されている。心の中で手を合わせたくなる。次の電車は12時20分発の郡山行き。昼飯時だし駅弁を開きたいけれど、車両は701系電車。ロングシートでは食べづらい。仕方なしに車窓と車内を観察する。向かいの席の美女はスマホを眺めつつ悲しそうな顔をしている。少し離れたところにいる初老の男性は、口を閉じていても上の前歯が2枚だけ見える。マンガ『美味しんぼ』の係長に似ている。人生いろいろだ。
13時07分、郡山着。次の列車は13時50分発の黒磯行きだ。約40分の暇つぶしに駅構内を散歩する。なんとなく駅弁を覗いたら、昨日買った"海苔のり弁当"の隣に"海苔のり牛めし"がある。これも食べたいけれど、どうしよう。まだカバンの中に秋田比内鶏弁当が入っている。すこし考えて、やっぱり海苔のり牛めしを買った。今夜食べよう。
在来線用イースト・アイ
郡山駅は東北本線のほかに、磐越西線、磐越東線、水郡線が発着する。3面6線の構内のどこかに必ず列車がいて、磐越西線のプラットホームには観光列車"フルーティアふくしま"が停車中だ。少し離れた留置線にはトロッコ風気動車"びゅうコースター風っこ"もいた。「貨物列車が通過します」という自動放送があって、どんな機関車が来るかと思えば、なんと高級クルーズトレイン"TRAIN SUITE 四季島"だった。貨物扱いとはひどいと思うけれど、不必要に注目させると乗客にとって不快、という配慮かもしれない。それからしばらくして、プラットホームから離れた線路に本物の貨物列車がやってきて、しばらく停車して去った。寒かったけれど、飽きない眺めだ。
実物を初めて見た
ビューコースター風っこ
貨物列車、北海道発かな……
黒磯行きは719系電車だった。二人掛け前向きの座席に座り、ここでやっと駅弁を開く。先に買った秋田比内鶏弁当の方だ。昼飯時を過ぎているし、黒磯駅に近づけば混んで相席になるかもしれない。味わいつつも急いで食べた。快晴で車窓から日光が降り注ぐ。この電車は隙間風もなく温かい。白河城、いや、白河小峰城を眺める頃には満腹も手伝って眠くなってきた。ときどき意識が飛び、まぶたを閉じ、開けると景色がつながらない。なんだか、とても気持ちいい。青春18きっぷは安いけど、お金では買えない貴重な時間を作り出す。これが乗り鉄の醍醐味だ。
黒磯行きでまたクロスシートに乗れた
少し遅めの駅弁タイム
-…つづく
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