第686回:電飾のオーケストラ - 烏山線 宝積寺駅 -
郡山駅から乗った電車は、黒磯駅に14時53分についた。黒磯から南下する電車は4分後の14時57分発。こんどは余裕がない。そして相変わらず跨線橋の向こうのプラットホームだ。長距離客が少ないとはいえ、わざわざ不親切にしなくてもいいのに……。
仙台で初乗り区間を踏破して、トロトロと東北本線を南下している。青春18きっぷ利用だから、という理由もあるけれども、もうひとつ寄りたい路線があった。烏山線だ。
宇都宮行きは通勤電車。首都圏に近づいた
烏山線は宇都宮駅から北へ二つめの宝積寺駅を起点とし、東へ約16kmの烏山駅を結ぶ。路線距離は20.4kmで、直線距離との差を比較すれば素直なルートである。すべての列車は東北本線に直通し、宇都宮駅を発着する。
昭和40年代生まれの私にとって、烏山駅と言えばアニメ『銀河鉄道999』のアンドロメダ終着駅だ。私が12歳の頃。テレビアニメ『銀河鉄道999』の劇場版が公開された。その広告タイアップとして、上野発、行先不明のミステリー列車"スリーナイン号"が走った。団体旅行扱いで、きっぷは上野駅で発売。発売当日はきっぷを買うために長蛇の列となった。私も列に並び、残念ながら抽選に外れた。ミステリー列車の終着駅が烏山だったと報道で知った。
恨みの烏山線の乗車は、それから10年が過ぎた1983年9月3日だった。日光線と合わせて乗っている。どんないきさつかは記憶にない。誰かに青春18きっぷを譲ってもらったかもしれない。あの頃の青春18きっぷは4枚綴りで、切り離して使えた。
EV-E301系の模型があった
その烏山線が注目されている。2014年から蓄電池電車、EV-E301系が投入された。烏山駅の給電設備と、烏山線が乗り入れる東北本線区間で充電して、非電化区間を電車が走る。営業実験の意味合いもあっただろうけれども、それも成功と見えて、3月のダイヤ改正で全列車がEV-E301系に統一される。それがどんなものか見ておきたい。この技術が進化すれば、すべての電化区間で、あの煩わしい架線や架線柱が消える。
留置線のキハ40形。見納めかも?
宝積寺駅に15時36分に着いた。次の烏山行きは16時35分発だ。列車は宇都宮からやってくるわけで、1時間ほどの待ち時間だ。留置線にはキハ40というディーゼルカーが1台。3月には居場所を失う車両だ。古い国鉄型。このまま廃車。あるいは改造されて、流行りの観光列車に生まれ変わるか。
少し外を歩いてみよう。改札口のそばのテーブルに、EV-E301系の模型があった。銀色車体にグリーンの帯。車体長20メートル。片側3扉。模型を飾るケースに "sustina"のロゴがある。総合車両製作所、元東急車輌のステンレス車体のブランド名だ。もうすぐ実物を観られるから、気持ちが盛り上がってきた。
木製の天井が彫刻のよう
見上げれば天井の形が独特で、パイナップルの実、あるいは昆虫の巣のような造りになっている。この天井は駅の両側の出入り口階段まで続いている。宝積寺駅を橋上駅舎に改築するにあたり、建築家の隈研吾氏が手がけたそうだ。東口にある公共施設 "ちょっ蔵広場" と統一したデザインになっている。高根沢町の中心駅として整備されたらしい。
東口から見た駅舎
東口の "ちょっ蔵広場" には食堂と倉庫型の体育館かイベントホールのような建物がある。食堂にはビール、唐揚げ、うどん、そばのノボリがはためいているけれど、あいにく腹は減っていない。二つの建物に囲まれた広場にはオーケストラの人々を模したオブジェがある。電飾を仕込んでいるようだ。クリスマスや正月の飾りだろう。
"ちょっ蔵広場" の食堂
夕方の散歩だろうか。おじいさんと幼い女の子が佇んでいる。女の子は指揮台に上がり、タクトを振る真似をしている。それをなんとなく眺めていたけれど、女の子が振り返って、私と目が合ってしまった。女の子は照れくさいのか、おじいさんの元へ駆け寄った。いや、変質者だと思われ、怖かったのかな。夕方の寂しい駅前だからな。
電飾のオーケストラ
烏山線のプラットホームに戻る。こんど列車は蓄電池電車だ。時刻表で調べると、列車番号に電車を示すMという文字がついていた。しかし、自動音声放送が、今度の列車は二つドアという。あれ、さっき見た模型は三つドアだった。二つドアはディーゼルカーだ。放送が間違っているらしい。
西口から見た駅舎
しばらくして、本当にキハ40形がやってきた。オレンジ色の車体に、窓まわりをクリーム色の帯にしたディーゼルカーだ。放送が正しい。運転士さんに聞いたら、ダイヤ改正の全列車蓄電池列車化に対応するため、2月末まで現行の蓄電池電車も改装工事を実施しているとのこと。私はわざわざ蓄電池電車に乗るために、この列車を選んだ。それがディーゼルカーとはがっかりだ。
EV-E301系の愛称はACCUM(アキュム)
しかし、いつのまにか列車を撮影する人が増えている。それも熱心にキハ40形を撮っている。そうか、彼らにとっては、もうすぐお別れになるキハ40形の方が貴重だ。しかも、蓄電池電車が改造中で、ディーゼルカーの運行本数が増えている。彼らにとってはJR東日本からの粋なはからいになったわけだ。ああ、そういうことなら納得だ。私もディーゼルカーを撮影しよう。烏山線の最後のディーゼルカーの旅を楽しもう。
あら、DCがやってきた
-…つづく
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