第910回:復讐心と戦争
ダンナさんに付き合って西部劇を随分観ました、観せられました。
西部劇は善玉、悪玉がはっきりしていて、最後に必ず善玉が勝ち残る約束事があるのでしょう。最初の10分も観れば、預言者でなくても結末が読めます。そして復讐が多いことも大きな特徴でしょうか。それと大牧場主と零細農夫との対立、この二つで80%以上の西部劇のストーリーが収まるのではないかしら。
忠臣蔵は日本人なら誰でも知っている復讐談で、外国人が日本文化を学ぶ時、忠臣蔵から日本人論を展開する文化人類学的な考察も山ほどあります。ダンナさんが子供の時、お正月の映画といえばオールスターキャストの忠臣蔵が毎年同じように掛かっていたと言っています。それも、いつも超満員で立って観たそうです。
これは日本の武士道、忠誠心、そして復讐心とあらわす事件だから、日本人を知ろうとするなら知っておくべきだと、無理矢理とは言いませんが、吉良上野介の屋敷、江戸城の松の廊下があったところ、四十七士が切腹をした泉岳寺と引きずり回されたことがあります。
でも、四十七士の復讐を持って日本人は復讐心が強い…とは言えないでしょうね。
とても日本的なのは、その復讐が自分の殿様のために行っていることで、四十七士の親、兄弟が殺されたからではないことです。そんな事態を招いたバカ殿様を愚弄するのではなく、忠誠心、武士の意地を世間に見せるためだけではないでしょうけど、多分にナルシズムの混ざったカタルシズムが復讐を掻き立てる原動力だったように見えます。これって外人の偏見かしら。
ついでに江戸時代に起こった敵討ち事件をインターネットで調べてみたところ、その件数が少ないのに驚きました。有名になった敵討ちは、曽我兄弟、荒木又右衛門のようにお芝居になり、講読本になり大いに広がりましたが、件数だけみるととても少ないのです。
これが西欧の歴史や西部開拓時代に起こった復讐なら、数え上げるのが不可能なくらいの件数になります。
日本人は案外、過去、昔のことは水に流す、淡白性格なのではないでしょうか。
今現在、原爆を落とされた復讐としてアメリカ国内でテロ活動をしようとする、広島、長崎の市民はまずいないでしょう。戦争の悲劇を受け入れ、二度と繰り返さない運動を繰り広げているように見えます。
戦争は政府が始め、その時の政権が終結させます。そこに個人個人の感情が残るでしょうけど、戦争終結、条約はあくまで政府間の問題です。と思っていたところ、政府の取る態度、政策と個人的感情のシコリは別の次元のことで、個人的な感情、恨みが復讐心にまで肥大している例が歴史にたくさんあります。
現代史、というより現在進行形で起こっているイスラエルとガザ、ウエストバンクのパレスティナ闘争など、元々イスラエルの土地は誰のものだったのかという次元をトックに通り越し、実に込み入った複雑な歴史的背景がありますが、それ以上にやられたらやり返す、復讐理論があるように思えます。
例えば、イスラエル軍、爆撃によって殺された親、兄弟、親族、友達を持つパレスティナ人は膨大な数になるでしょう。その人たちがイスラエル、ユダヤ人に対して抱く感情、復讐心は計りしれないものがあると、まったくの部外者の私にでも想像がつきます。同じような殺戮、それに対する復讐殺戮がもう二千年以上、繰り広げられてきたのです。
今、ハマスとイスラエルが停戦に同意したにしろ、互いに遺恨が残り、将来復讐に走らないとは誰も言えません。
イタリアの中世史など、復讐に次ぐ復讐で、大元の原因はどこにあったのか分からない混み入った復讐談に満ち溢れています。そしてどこの国でも、復讐を成し遂げた人物を英雄に近い理想の人物として捉えています。
ソビエト=ロシアが第二次世界大戦終了後にも大量の日本軍、日本人を殺し、かつ捕虜として二年以上拘束し、重労働に就かせたのは、全く国際法に反する行為だと知っていてやったと信じています。
先日、ロシア通の佐藤優さんの本をめくっていて、ソビエト=ロシアの行為は日露戦争の怨念、復讐の要素が相当ある…と言っているのを見て、国際間の感情にも復讐理論が成り立ち得ることに驚き、納得しました。
そういえば、アメリカ人一般に“やられたらやり返す”感情が深く根ざしていることに気がつきました。やられたら、草の根を分けても相手を探し出し、倍返しをするのが当然の感覚なのです。
真珠湾を奇襲攻撃でやられたから、原爆の1発、2発くらいは当然のお返しだと信じているアメリカ人が大半なのです。ワールドトレードセンタービルを爆破された仕返しで、本当の犯人とは無関係なイラクに侵攻し、サダム・フセインを捕まえ茶番の裁判で死刑にしても、アレッ? 間違えちゃった、御免なさい、なんて感覚を全く持たないのがアメリカ人なのです。
韓国で極一部の人たちでしょうけど、日本が韓国を占領していた36年間の恨み、慰安婦の問題を繰り返し持ち出すのも復讐とまではいきませんが、多少仕返しの感情が働いているように見えます。
そのために、日本に韓流ブームを巻き起こし、『冬のソナタ』のヨンさまを送り込み、日本女性の心を揺さぶったわけではないでしょうけど…。ヨンさまに日本女性の心をとろかし、韓国女性が被った悲劇の復讐をしてやっている…なんて意識は露ほどもないでしょうけどね…。
-…つづく
第911回:気象異変と山火事
|