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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第911回:気象異変と山火事

更新日2025/08/07 

 

私たちが住んでいる高原台地のことは再三書きました。少し大袈裟に理想郷のようなパラダイス、天国に近いところだと他人に言っています。確かにハリケーンは来ないし、トルネード(竜巻)も皆無、洪水なんか無縁で、澄んだ美味しい空気が年365日吸えるところだと思い込んでいたところ、事情がすっかり変わってきたのです。

空は晴れているのですが、頭の上はコバルトブルーならぬ薄ぼんやりとしたそれ色で、いつもなら南側に緩やかな緑の丘のように見えているはずのピニヨン・メッサ、西に聳えるサムズ・マウンテン(これは私たちが勝手に付けた名前で、その麓に若い牧童サム一家が住んでいるから、そう名付けした)もいつもなら、クッキリと岩山の稜線を浮き上がらせているはずですが、それがベージュのカーテンで仕切られたようにしか見えないのです。
 
ここ地元の天気予報では、何よりも先に“本日の煤煙情報”を報道し、人体に害を及ぼす指数、どう計算しているのでしょうか、この指数(Air Quality Index)は50以上ですと、体に悪い、老人、子供は外に出るな、とりわけ喘息系の人は最要注意!となります。この高原台地ですら、今日はその指数は59で、50以下に下がることはこの10日間ありませんでした。
 
昨日、週一回の食糧買い出しと図書館へとで谷間の町に行ってきましたが、谷間の町はスモッグの下におぼろげに見えるだけで、ゲゲッ、あんな汚い空気の谷に降りて行くのかと思うと、ゾッとしました。

谷間の町のAQI(大気汚染指数)はなんと120で、さすがに町中を歩いている人は少なかったです。それでも車は結構多く行き来していました。でも、車のエアーフィルターなんか煤煙は素通しすると思うのですが…。

以前にも山火事のことを書きましたが、今回はグランドキャニオンの火事が一番大きく3週間以上燃え盛っています。消火のメドはついていません。それに加えて、我が家から60キロほど南東にあるブラックキャニオン国立公園も業火に包まれ、もちろん公園は閉鎖され、訪問客目当てのホテル、モーテル、近くの豪華団地に強制退去命令が下されています。

我が家の南に見えているピニヨン・メッサを越えた谷にハイウェイ141が東西に走っていますが、そのハイウェイの急峻な両側が燃え始め、当然ハイウェイは閉鎖。わざわざピニヨン・メッサに登って谷を見てきた隣人のキャロルに言わせれば、まるで原子爆弾のキノコ雲がいくつもあったそうです。

ここの周囲100キロ以内だけで6件の山火事があるとニュースで流していました。インターネットのアップで山火事マップを衛星写真付きで見ることができます。それによると、アメリカ大陸の西半分は山火事だらけです。これは異常気象で高温が続き、おまけに空気が乾燥し切っているので、まるでマッチ箱に火種を落としたようにパッと燃え上がるのでしょう。

逆にアメリカの南東部は洪水だらけで、それも大変な激流、冠水で車や家まで流されています。テキサスでは100人以上が亡くなっています。そちらの水を少しでもこっちに送ってもらいたいもんです。

異変は野生の動物たちにも見られ、見慣れない小鳥が随分たくさん家の周りを飛んでいるな~と思っていたら、ガラス窓や素通しのフレンチドアにぶつかってくる小鳥が異常に多くなったのです。ハチ雀やブルージェイ、ブルーバードは常連なのですが、それに加えてモッキンバード(ツグミの一種で日本には生息していません、モノマネどりと訳されています)まで飛び交っています。

夏にこの台地で見かけることがないエルク(大鹿、ヘラジカ)の20頭からの群れが我が家の近くに降りてきているのです。まだ、クマこそ目撃していませんが、人間より環境の変化に遥かに敏感な野生の動物たちが火事、煙、汚れた空気を逃れて山から降りてきているのでしょう。
 

ヨットに住んでいた時、毎年のようにハリケーン・シーズンになると戦々恐々としていました。なんせハリケーン銀座であるプエルトリコの東端にある砂州のマリーナにいましたから、ハリケーンは年中行事でした。ハリケーン情報と首っ引きで、このハリーケンはコースが南寄りだから我々を襲撃しないだろう、いや急にコースを変え北上する例が多いから安心できないとか、ヨット仲間と言い合っていたものです。

その時に気がついたのですが、ハリケーンのような天災はともかく自分のところをヒットしないでくれれば良い、他へ逸れてくれれば良い、と極めて自己中心的というのかエゴイストになるのです。他はどうなっても構わないとまで言いませんが、何よりもともかく自分のところを襲わないで欲しいと祈るのです。でも、最後にハリケーン・ジョージに直撃され、船は大破しましたが…。
 
山火事の場合、燃え盛っている山林の近くに住んでいる人、森の中に住んでいる人はすべての物を捨てて命からがら逃げるだけです。火の勢いは専門家でも予想がつかない広がりを見せることがあり、業火が巻き起こす竜巻のように渦巻く風がまるでのたうち回る恐竜のように暴れるのです。そして、その煙の流れと広がりは広大な地域に及びます。カナダ中西部の山火事の煙がニューヨークまで覆い、自由の女神が霞んで見えるほどです。

 

さて、私たちも山火事がピニヨン・メッサを乗り越えて迫ってきたらどこへ逃げるかが切実な問題になってきました。選択は西か東、なんか大相撲みたいですが、それしかありません。火が南東から迫ってきたら、西のユタ州に向かうしかないのですが、問題はコロラド川を渡る橋がないことです。川畔でキャンプして山火事が燃え尽きるのを待つしかないでしょう。もし西から火が迫ってきたら、いつもの通勤道路DS道路を経てナショナルモニュメントを降り、町へと逃げることになります。

私たちは好きで自然の中、自然がいっぱいの場所で暮らしてきましたが、天災、災害に遭うチャンスが多く、逃げ回る準備が重荷になってきました。やはり歳なんでしょうね。一方、ウチのダンナさんは、山火事や煤煙なんか一時的なことで、それをカバーしても余りある楽しみをここでの暮らしから得ている、差し引きすれば膨大なプラスだ、とのたまっています。

-…つづく

 

 

第912回:AI<人口知能>の世界

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えていました。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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