第386回:紅葉の季節、日本の秋
日本を何度も訪れてはいますが、通年日本に滞在したのは3回だけです。21歳の時15ヶ月大阪で過ごし、客員教授として東京で1年、今度は北海道に10ヶ月滞在しました。ほかは私のショーバイ柄、夏休みと冬休みに日本行は集中しているので、日本の春と秋をほとんど知りませんでした。いつも、北海道の秋は良いですよ、空気が澄んでいて、しかも一斉に山々が燃えるような紅葉に包まれるから、是非秋にいらっしゃいと言われ続けていましたが、今回、初めて北海道の秋をたっぷり味わうことができました。
私たちが住んでいるコロラドの山の紅葉は、黄葉で全山黄金色に染まります。しかもアスペンの金色の葉は、ほんの弱い風にでも反応し、ユラユラと揺れますから、光の加減で本当に磨き上げた金のように輝くのです。それが、コロラドの透明でありながら濃い青色の空をバックに光ります。毎年、その時期になると、黄金色の林、森を抜けるルートを選び、シーズン最後のハイキングに出かけます。その頃は丁度、クマが冬眠のため餌を漁る時期に重なりますから、チョット神経を使いますが。
北海道の秋はコロラドとは全く違い、色彩がとても豊富でした。燃えるような赤があるかと思えば、黄金色もゴッホのひまわりのような黄色もあり、その中間色もあり、針葉樹の緑もあるといった具合で、とても華やかです。しかも渓流や沼、湖が多いですから、水面に映し出された山々の紅葉はほとんどドラマチックと呼んでも良いほど感動的でした。
一つ残念なことは、紅葉の期間がとても短いことです。毎日散歩している森も、日々色調が変わり、冷気が入り込むとアレヨと言う間に葉が落ちてしまいます。その分、日替わりメニューを楽しむことができるのですが…。
こんなに艶やかな四季を持つ国は世界中で珍しいかもしれません。私たちが長く住んだ、スペイン、カリブ、プエルトリコにももちろん四季はあります。スペインと言っても地中海の島でしたから、観光客がいなくなるのが冬、ビーチやバーが人で埋まるのが夏の違いくらいしかありません。カリブ、プエルトリコはもっと四季の移り変わりがなく、あるのはハリケーンシーズンとハリケーンが来ない季節の二つしかありませんでした。 一年中海の水の温度はそう変わりません。
バロック音楽を一躍世界に広める先鞭をつけた、ヴィヴァルディの『四季』はあまりにも有名ですが、北イタリアに住み、そこで生涯を終えたヴィヴァルディが見たり、感じた四季は日本の四季とは当然のことですが非常に違います。どうも地中海では太陽はすべてを焼き尽くす悪役で、夏は太陽の下で泳ぎ、遊び、農作物に実りをもたらす恵みの神ではなく、太陽が高い間はひたすら木の下などで涼をとったり、シエスタ(お昼寝)をしてやり過ごさなければならいもののようなのです。秋も冷たい風が吹きすさび、どうも森を歩きながら紅葉を愛でる雰囲気ではありません。
日本の秋、北海道の秋は違います。澄み切った冷たい空気の中、色とりどりに染まった山が迫ってきます。秋は去りゆく夏を懐かしむとともに、華やかな自然のショーを楽しむ季節なのです。昔から紅葉の山やモミジは絵に描かれ、着物の柄になり身近なものでした。日本ほど紅葉を描いた画家が多い国もないのではないかしら。
一つだけ残念なのは、車で行けるところはどこでも、この季節の紅葉ポイントが混み合っていることです。お花見と違って、寒いからでしょうけど、さすがにゴザを広げ、お酒を飲んでいる人は見受けられませんでしたが…。
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