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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第487回:ノーベル賞の怪か快挙か?

更新日2016/11/03



村上春樹さんがノーベル賞の候補になっている、いるらしいと報道されてから、もう何年経っています。今回もノーベル文学賞は、なんとフォークのシンガーソングライター、ボブ・ディランにもっていかれ、村上さん、またもチャンスを逃しました。ボブ・ディランが受賞したことに驚き、喜びながら、村上春樹さんに早く賞を上げて欲しいという複雑な気持ちです。ギネスブックに候補になりながら賞を取れなかった回数という項目があれば、村上さんその筆頭ではないかしら。

ボブ・ディランも村上春樹さんもノーベル文学賞を貰うか、貰わないかなどに全く拘泥していない様子です。事実、ボブ・ディランはノーベル賞を受理するかどうかどころか、スエーデンのノーベル賞協会に返事もしていません(10月29日現在)。 チョット、ボブ・ディランの受賞記念スピーチを聴いてみたい気もするのですが…。

他の部門でまた日本人が受賞しました。医学・生理学賞の大隈良由さんです。日本人のノーベル賞受賞者は彼で22人になるといいます。そんなにたくさんの受賞者が日本から出ているのに、お隣の中国、韓国では今まで受賞者がいないことに驚かされます。

大学のレベルでいくと北京大学もソウル大学も世界水準のトップをいく学府なのですが…。 そんな事態を中国の新聞で、日本は昔から、学問、文芸を重じる伝統がある…、第一、紙幣の顔ぶれを見てみるがよい。樋口一葉、夏目漱石、野口英世、福沢諭吉などなど、文学者、科学者ばかりではないか、それに比べわが国(中国)ではすべて毛沢東一本ヤリだ…というのです。

こんな紙幣のデザインがどこまで国民の総意を反映しているか疑問ですが、自国の紙幣が毛主席だけだと、批判できるようになっただけ中国も開けてきたのかもしれませんね。アメリカの紙幣も政治家(主に大統領ですが)ばかりで面白味がありません。いつかボブ・ディランの顔の入ったお札が出ると面白いのですが。

一方、韓国の新聞は、日本がこのようにノーベル賞ラッシュ期を迎えたのは100年もの間の積み重ねの結果である。ただ単にお金の量と使い方だけでの問題ではなく、国民の科学、文化に対する真摯な態度を培ってきたことが、現在に繋がっている…と日本人が聞いたら歯が浮くようなことを書いています。

私がこんなことを書いているのを横からダンナさんが覗き、「そういえば、明治維新後、膨大なお金を使い、お雇い外人を大勢呼んだな~、工部省では明治7年(1874年)に予算の33.7%を外国人教師に払っているし(石塚裕道 殖産興業政策の展開)、創立間もない東大でも明治10年(1877年)の予算の3分の1は外国人教師の給料に使われていた…」とノタマッテいます。いつもながら、そんな雑学的なことを記憶の片隅に留め、パッパと調べるダンナさんには驚かされます。

日本人ほど外から学ぶことにこれだけ一生懸命な民族はそういないでしょう。ところが、今回受賞した大隈博士、近い将来、日本からノーベル賞受賞者は出なくなるだろうと、今の若者が結果のすぐ出る研究にばかり走り、肝心の基礎科学の方をなおざりにしていることを嘆いています。

日本人のノーベル賞受賞は3年連続ですが、ところが、日本人は10年連続で受賞している他のノーベル賞があります。でも、こちらの方はイグ・ノーベル賞(IG Nobel Prize)* の方で、人々を笑わせると同時に考えさせることに寄与した研究に与えらます。よくぞ、こんな馬鹿馬鹿しいことを調べ、研究、実験したものだと失笑を禁じえないながら、オヤ、そういえばそうだ…と、うなずいてしまうのです。

日本人の受賞は足立浩平教授と東山篤規教授の合同研究?で、"天の橋立"で股の下をかいくぐるように眺める風景はどう違って見えるか、股のぞき効果についてのものです。 立って、普通に眺めるより股をかいくぐって眺めると"平らで、奥行きが少なく"見えるという大発見が認められました。4、5メートル以上離れた物体は距離感が60%ほどになることを突き止めた!!!のでした。おまけに、逆さに見えるプリズムメガネを制作し、マサチューセッツ工科大学での講演に持参し、受講者に実験させて見せ、評判だったと言います。

他の研究は、「なぜ白い馬はアブに刺されにくいか」「トンボは黒い墓石に引き付けられるのはなぜか」「フォルクス・ワーゲンがとった排気ガス検査の時のように自動的に悪いガスが出なくなる方法とは」「鏡を見て左側が痒いのに、右をかくと、痒みがなくなる」「1,000の嘘つきに、嘘をつく頻度、回数を尋ねた答えは信用できるか」、また男性にとって無視できない「ポリエステル、コットン、ウールのズボンを履いている男性のセックスライフの違いをねずみを使って実験」と毎年ながら愉快な研究が目白押しです。

このような遊び心を持った、ゆとりのある研究、実験を続けていく環境が本当のノーベル賞につながっていくのでしょうね。

 

*Ig Nobel Prize[イグノーベル賞] 

 

 

第488回:アメリカ大統領選挙の怪

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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