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■イビサ物語~ロスモリーノスの夕陽カフェにて
 

第58回:ゴメスさん倉庫で射撃大会

更新日2019/03/07

 

『カサ・デ・バンブー』の大家さん、ゴメスさんは当時すでに70歳を越していたと思う。それでも現役で建築資材、鉄材を扱う大きなショウバイをしていた。

ゴメスさんの倉庫とそこに付随している事務所へは何度も足を運んだことがある。イビサにしては広大な敷地に褐色の、あるいは黒々とした鉄材があちこちに積まれており、その中央に中学校の体育館を二つ併せたほどの大きさの室内倉庫が建っている。大型トラックが楽に入れる通路が中央に走り、天井にリモートコントロールの大きなクレーンがあった。

ゴメスさんの趣味は競技ピストルで、バレアレス諸島(マジョルカ、メノルカ、イビサの三島)の大会で最高4位になり、スペイン全国大会に出場したことがあるのが自慢だったが、全国大会での結果は語らなかったが…。

銃規制の異常に厳しい日本ほどではないにしろ、スペインでも個人がピストルを所有するのは、たとえそれが競技用のものであっても、煩雑な手続きを経て、ライセンスを取得しなければならない。よって、射撃の選手は警察官、軍人が幅を利かせることになる。クレー射撃場は各地に随分あるが、ライフル、ピストルの射撃場は軍の基地内か警察学校内にしかなかった。イビサにはそのような練習場もなかった。

もう店を閉めていたから、10月の終わりか11月だったと思う。ゴメスさんが、内輪の射撃練習をやるから来ないかと誘ってくれたのだ。私は、ゴメスさんの倉庫兼事務所で待ち合わせ、そこからカンポ(campo:森、山)の射撃場に行くものとばかり思い込んでいたのだが、そのゴメスさんの屋内の鉄材倉庫が射撃場だった。

倉庫に着いた時、すでに4、5人の射撃仲間がそこにいた。向こうも、オウ、お前か、という表情を見せ握手し、私もこの顔はどこかで見たことがあるなぁ…と、うすうす感じていたのだが、どこで会ったのか、誰だったのか、一向に思い出せなかった。

話していくうちに、アッ、こいつはイカツイ、ボナパルト帽を被ったグアルディア・シヴィル(Guardia Civil:治安警察または治安警備隊)ではないか、と思い当たったのだ。制服を脱いだラフな服装にコロッと騙されたのだ。一人を判別したら、後は次々と連鎖的に思い出した。

そこに集った射撃仲間は皆、オマワリ系だったのだ。一人は港の税関の役人、もう一人は私たち外人の在留許可証などを司る国家警察、という風に、全員が何かしら私と面識のある御仁ばかりだったのだった。

こんな射撃仲間がいるなら、公認の射撃場でなく、非合法のゴメスさんの屋内倉庫で散々撃ちまくり、腕を磨いたところで問題になるはずがなかった。

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チョリソ(chorizo)とヤギのチーズ(queso)

彼らは、持ち寄ったケソ・マンチェーゴ(queso manchego:ラ・マンチャ地方のチーズ)、チョリソ(chorizo:パプリカをたっぷり入れたソセージ)、オリーブのニンニク漬け、ワインだけでなく、コニャックなどのリキュールも持ち込み、射撃パーティームードだった。

さて、射撃の方だが、縦2メートル、幅1.5メートルほどの鉄板を立て、その前にダンボール箱を積み、前面に的用の紙を貼り付け、25メートル離れたところから、ピストルを構え、的を撃つだけだ。一体こんなのがスポーツと言えるのかと思いたくなるほど、身体の動きが少なく、必要なのは視力と握力だけではないかと思った。

道具のピストルだが、様々な種類があり、弾丸にも破壊力はなくても直進性があるとか、どのくらい火薬の詰まった弾が良いとか、手首にかかる負担、衝撃を少なくした方が的を外さないとか、彼らはマニアックな情報を披露してくれるのだった。

ピストルも競技用のモノは、彼らオマワリさんが普段持ち歩いているものとは全く違うことを知った。あんな小さな飛び道具なのに、バランスがどうの、トリッガー(引き金)の軽さ、重さがどうのとやたらとゴタクを並べるのだ。

皆、相当に修練を積み、地方の大会くらいに出場した経験者だから、イトモ簡単そうに撃ち、的中央の黒いドット近くに弾痕を集めていた。

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鉄材倉庫内でコルト45を撃つ大家のゴメスさん

さて、私の番になり、ジョン・ウェイン、ダーティー・ハリー並みにとはいかないが、ここにいる先達のマネをして両手でしっかり構えたのは良いが、手渡たされたピストルが意外に重いのに、まず驚かされた。一体こんな重い飛び道具を腰にぶら下げて、開拓時代の西部の男どもは草原を、パイオニアの町を本当に闊歩していたのだろうかと思った。

ピストルの照準を通して見た的の中心、黒マークはユラユラと揺れ動き、私は腕をしっかりと固定することができず、揺れ動く照準が黒マークを通過したかなという時に引き金を引いたのだった。轟音が響き渡り、衝撃が走り、的の中心を打ち抜いたのではないかという、淡い期待は見事に外れたのだ。それも、的用の白い紙、大きな紙にさえ当たらなかったのだ。10発撃って、やっと紙の外れに2発穴を開けただけだった。

道理で、皆、ニヤニヤして私の射撃を見ていたはずだ。私の後ろのテーブル、椅子に陣取っていた奴らは、イチイチ、上に逸れた、今度は右だと的確に読み、ヤジッてきた。ピストルがどれほど当たらないものかと知らされたのだった。

お前の腕なら、10メートル離れていれば、ジグザグに走って逃げてみせるとか、ピストルは忘れろ、侍のカタナにしろ、射撃の才能ゼロだ、ゴメスさんの倉庫が穴だらけになるゾ、と酒のサカナにされっぱなしだった。

私は、俺は西部劇向きの射撃、早打ちが得意で、向かい合って撃ち合うなら誰にも負けない、そんな実践競技はオリンピックにはないのか。フェンシング、柔道、テコンドー、皆一対一でやり合うではないかと…自分でも虚しい弁明をしたのだった。

皆、相当飲んでいたはずだが、“オマワリが私的で非合法な射撃訓練をし、おまけに酔っ払い運転をする”ことなど全く意に介さず、それぞれ車を転がし、帰途についたのだった。

-…つづく

 

 

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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