■くらり、スペイン~移住を選んだ12人のアミーガたち、の巻

湯川カナ
(ゆかわ・かな)


1973年、長崎生まれ。受験戦争→学生起業→Yahoo! JAPAN第一号サーファーと、お調子者系ベビーブーマー人生まっしぐら。のはずが、ITバブル長者のチャンスもフイにして、「太陽が呼んでいた」とウソぶきながらスペインへ移住。昼からワイン飲んでシエスタする、スロウな生活実践中。ほぼ日刊イトイ新聞の連載もよろしく!
著書『カナ式ラテン生活』。


第1回: はじめまして。
第2回: 愛の人。(前編)
第3回: 愛の人。(後編)
第4回:自らを助くるもの(前編)
第5回:自らを助くるもの(後編)
第6回:ヒマワリの姉御(前編)
第7回:ヒマワリの姉御(後編)
第8回:素晴らしき哉、芳醇な日々(前編)
第9回:素晴らしき哉、芳醇な日々(後編)
第10回:半分のオレンジ(前編)
第11回:半分のオレンジ(後編)

■更新予定日:毎週木曜日




第12回: 20歳。(前編)

更新日2002/07/11 

アミーガ・データ
HN:ELISA
1981年、静岡生まれ。
2000年よりスペイン生活、現在3年目。

あれは、4歳のときだった。ELISAはポニーが大好きだった。いま考えると、汚いし臭いと思うのだけど、祭に行くたび、親にせがんでその小さな馬の背に乗せてもらっていた。どこだかわからないけど、その日、父に手を引かれてELISAは歩いていた。「馬を買ってあげるから、スペインに残ってくれ」、たしかにそう言われた気がする。でもスペイン語で言われたはずなのに、記憶の中の父は日本語でしゃべっている。

一緒に公園に行った。真っ白い新品の靴を持ってスケートに行った。空港で、遠くのほうに小さく見える父に、「バイバイ」と手を振った。その時、ELISAは4歳。写真を撮られるのが嫌いだった父の記憶は、断片的にしかない。

ELISAは4歳で、生まれ育ったマドリードから日本へ移った。最初は日本語なんてまったくわからなかったはずなのだけど、それから通った幼稚園には楽しい思い出しかない。部活に明け暮れた小学校から高校生までも、「私、本当にラッキーだったって、最近気づいたよ」と言うほど穏やかな日々を過ごしてきた。

静岡の、田舎町。外国人なんて見たこともない。そこがELISAの育った町だ。

小学校1年生のとき、下校途中に、6年生の男子数人に囲まれた。どことなく外国人っぽい雰囲気のあるELISAは、本人が知らなくても目立っていたらしい。「『おい、こいつ、どうする?』とか話してるのが頭の上の方で聞こえるのね。もう、怖かったよー!」 家まで必死で逃げ帰った。4歳年上の姉が出て行って、彼らを追い払ってくれた。姉は、いつも気丈だった。内向的だったというELISAは、怒ることも泣くこともなく、ただ悲しい思いをかみしめていた。

中学では、3年間ずっと好きだった男の子がいた。違うクラスだったけど、とにかく格好良かった。「私、面食いだったのね。いま思うとほんっとバカじゃん? ってかんじだけど」 話したこともない男の子への恋心を知ったバスケ部の仲間が、彼に、ELISAのことどう思ってるか聞いてきてくれると言った。

部活の始まる前、静かな体育館。向こうから友達がやってくる。一目で分かるほどはっきりと暗い顔で、「ね、本当に言って良い? 」と念を押す。そんなの、最悪の話が続くに決まっている展開だ。それだけですごくショックだったけど、やっぱり知りたくて話の続きをうながした。「あのね、」 彼はこう一言、口にしたのだという。

「外人は、ちょっと……」

ELISAの母は、スペイン留学中に、カフェテリアで父と知り合った。1970年代の中頃である。それまで東京で働いていたのだが、これから語学力をつけるのならみんなが目指す英語ではなくて、世界中の多くの人口が話すスペイン語を習得しようと思ったのが、留学のきっかけだったという。

父は、バレンシア出身。ELISAは父が若い頃の写真しか見たことがないが、とてもハンサムな男性だったという。間もなくふたりは一緒になり、姉が生まれた。母の実家からは大反対を受けるなかで、駆け落ち同然の結婚だったのだろう。そうELISAは考えている。4年後にELISAが生まれ、さらに4年後、母と姉妹は父と別れて日本へ帰ってきた。

ELISAが小学校高学年のとき、友達が「ね、ELISAんちって、両親離婚してんの?」と訊いてきた。「そのとき、『あーーっ!』って思って」 はじめて、両親がただ単に別々に暮らしているのではないことに気がついた。中学のとき、離婚に関する書類を見つけた。それで、納得した。

母は父のことを語りたがらない。結婚に反対していた祖母も同じ。誰もELISAに、ちゃんとした説明はしてくれなかった。

 

 

第13回:20歳。(後編)

 
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