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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第683回:日本一高い地下鉄駅 - 仙台市地下鉄東西線 仙台駅~八木山動物公園駅 -

更新日2019/03/21



約20分の散策で荒井駅に戻った。06時30分。誰もいないコンコース、いや、女性がひとり、ベンチに座ったまま寝ている。ラメの入ったハイヒール。ピンク色のワンピースに芥子色のコート。襟に大きなファーを巻いている。彼女も結婚式の二次会帰りか。幸せな夢を見ている様子。駅舎の2階は展示施設があるらしいけれど、この時間はまだ空いていない。屋上庭園があるらしい。しまった。そうと知っていれば、あとから来れば良かった。

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荒井駅。外観同様、木製タイル模様がテーマ

地下のプラットホームで電車を待つ。06時37分発の電車は、運転席の窓ガラスに水滴が付いている。車庫に屋根がない証拠である。また雨が降り出したらしい。電車は私だけ乗せて出発する。仙台駅に近づくにつれて、すこしずつ乗客が増えてくる。そして仙台駅でどっと降りる。都心を貫く地下鉄の典型的な旅客傾向であった。

地下鉄といっても、たいていの地下鉄に地上区間はある。地下鉄だから景色は見えない。だから夜に乗っても構わない、とはならない。仙台地下鉄南北線に初めて乗ったとき、地上区間があって後悔した。東西線に乗るときは事前に調べて、仙台から荒井までは地下ばかり。逆方向の仙台から八木山動物公園駅の間に地上区間があると知った。そこで先に荒井駅まで往復した。荒井駅舎内の展示施設は調査不足だった。資料を当たるより現地調査が大事だ。

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早朝の仙台行きはガラガラ

東西線の地上区間は大町西公園駅と国際センター駅の間にある。広瀬川をまたぐためだ。広瀬川と言えば『青葉城恋歌』。1978年に発売された歌謡曲。さとう宗幸さんが歌った。さわやかな歌声ながら、失った恋人を思う歌。この歌は、さとうさんがパーソナリティを担当していた番組宛てに投稿された詩に、さとうさんが即興的に曲を付けたという。まるで奇跡のような歌だ。全国的にヒットして、いまでも仙台のご当地ソングだという。

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鉄輪式リニア起動。線路の中央に磁気プレートがある

さとうさんは歌のヒットで人気が急上昇し、ドラマ『2年B組仙八先生』で主役を演じた。私も中学2年生だったから覚えている。『3年B組金八先生』で武田鉄矢さんが坂本龍馬にちなんだ坂本金八を演じ、その後を受け継いで、さとう宗幸さんは伊達政宗にちなんだ伊達仙八郎を演じた。伊達先生は坂本先生ほど押しが強くなく、ちょっと優しい感じだった。

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仙台以西は景色が見える区間もある

それはともかく広瀬川だ。青葉城恋歌のヒットで認知度が上がり、観光名所ともなった。地下鉄はここだけは見せてくれる。心して車窓に注目。ああ、これがあの広瀬川か。しかし、曇天で爽やかさはなく、まだ暗いからガラスに室内の様子が映り込む。横着はダメだな。川を楽しむなら、降りて河岸を歩いたほうが良い。川を渡り終えた電車はまたトンネルに入った。青葉山駅を発車してしばらく走ると、また景色が見えた。ほんの一瞬だけど、川を渡ったようだ。地上を走ってくれたら、かなり景色がよさそうな経路である。

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八木山動物公園駅、天井が青い

八木山動物公園駅は予習していた。動物園ではなく、日本でいちばん高いところにある地下鉄駅である。レール面の標高が136.4mだという。2位が神戸市営地下鉄の西神・山手線にある総合運動公園駅で、標高は103m。西神・山手線は新幹線の線路をまたぐ地下鉄としても知られていて、総合運動公園駅は地下鉄路線と言うけれども地上駅だ。しかし1位の八木山動物公園駅は地下駅で標高136.4mだ。八木山という丘の中に作られたからだ。地下駅と言うより、山岳路線のトンネル駅という印象だ。ちなみに八木山は正式には山ではなく、丘の通称らしい。

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市民ホールのような広間

八木山公園駅の改札を出ると、エレベーターホールのような広間があった。床はグレーの濃淡のタイル。天井は空に見立てたか、青色に塗られている。大きなモニターにバスの発車案内がズラリと並ぶ。そしてエレベーター。あ、本当にエレベーターホールだった。各階の案内を見ると、ここは地下2階で地下鉄駅。地下1階はなく、1階がバスターミナルとタクシーのりば。2階から4階までは駐車場だ。動物園の客向け、地下鉄やバスのパークアンドライド向けだろう。

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子どもたちから動物に関する質問が寄せられ
飼育員がひとつずつ丁寧に回答していた

そして5階に動物園の入り口とてっぺん広場とある。日本一標高の高い地下鉄駅には展望広場があるらしい。エレベーターで上ってみると、たしかにそこは屋上だった。あいにくの空模様で景色は残念。しかし、街の向こう、地平線を見渡せる。ガラスの柵には「日本一標高の高い地下鉄駅」という表示もある。夜景もよさそうだ。そしてこの方角だと、きっと初日の出も観られるはず。

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日本一標高の高い地下鉄駅
記録はレール面で、この場所の標高ではない

改札に戻り、駅員さんに聞いてみた。
「日の出は見られますよ。でも、初日の出イベントはやってないですね。ふだんも日の出を観にいらっしゃるお客さんはいます」
期待通りの返事で満足した。初乗り区間の旅は終わった。さて、南北線に乗り直すとしよう。今度は明るい地上区間に乗りたい。

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屋上広場の全景。反対側に動物園の入り口がある

-…つづく



杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著


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