のらり 大好評連載中   
 
■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第631回:航空機の搭乗経路 - 山梨リニア実験線 2 -

更新日2017/05/25


実験センターの扉が開いた。アスファルトの広場があり、門扉から建物まで青色にペイントされている。自然に建物の入り口に向かうデザインだ。脇に記念写真の看板があった。リニア車両の客室窓から顔を出すデザインだ。簡単には入れない場所だから、母と窓枠に収まり、シャッターを押してもらった。飯田の老夫婦の流儀で「遺影にしよう」と言い出しそうになる。もちろん口には出さない。


リニア実験センターの駅舎、白と青が基調だ

正面の建物はリニア中央新幹線の駅を模しているようだ。全面ガラスの向こうに搭乗券発見機が見える。鉄道と言うより、航空機の雰囲気である。そこは入り口ではなく、左側を向くと自動ドアがある。中に入るとすぐに荷物検査場があった。まるで空港だ。カゴに鞄を載せ、ポケットの中身をぶちまけてゲートを潜る。


せっかく用意してくれたからやってみよう

鞄は口を開けるように指示される。係員がペットボトルのフタを開けて匂いをかぐ。かなり念入りだ。2ヵ月前、東海道新幹線でガソリンを持ちこんだ老人が焼身自殺を図るという大事件が起きた。新幹線も荷物検査をすべきだという議論が起きている。液体検知センサーの開発を……という声もある。うっかりミスは機械で防げるけれど、死にたい人を停める装置は難しいと思う。


荷物検査場

問題がなければ、さっき見えた搭乗券発見機へ。タッチパネルに予約番号と電話番号の下4桁を設定する。予約したときに、固定電話と携帯電話のどちらを使ったか忘れた。固定電話では失敗。携帯電話を打ち直したらOK。母と私の搭乗券がプリントされた。搭乗券には2次元バーコードが印刷され、搭乗口を入るときに使う。ますます旅客機方式である。

将来の営業運転もこの方式だろうか。現在の新幹線に比べると面倒だし時間がかかる。せっかく品川~名古屋間を40分で走っても、大深度地下へ行き、この手続きをすると駅で20分くらいかかりそうだ。テロリズムへの警戒心が高まり、安全に配慮したい気持ちはわかる。しかし、現在の新幹線のような、発車間際に乗れるスピード感は失った。いま、東京~名古屋間はのぞみで1時間40分ほどだ。もともと短時間だけに、数分程度のロスタイムが気になる。



搭乗券を入手

搭乗券を受け取って10歩ほどでゲートがあり、2次元バーコードをかざす。ママゴトみたいな様子だけど、こうした手続きの流れも営業に向けた“実験”の一環だろう。搭乗ゲートの向こうにプラットホームも車両もない。大広間があって、パイプ椅子がズラリと並んでいる。ここでリニアの紹介や禁止事項の説明を受けるようだ。「講習を受けないと実車には乗れませんよ」という仕組み。これはもちろん体験乗車の行事で、営業運転ではやらないはずだ。


赤白の点線が実験線。開業時のルートの一部になる

説明会が始まるまで、壁の掲示物を見物する。超電導リニアの原理、リニア実験線の紹介、安全性についてなどのパネルが並ぶ。ギネス世界新記録の認定証が二つあった。2003年の時速581kmの世界一と、2ヵ月前、2015年4月21日の時速603kmの認定証だ。もちろんどちらも世界一。自己新記録の更新であった。営業運転は時速500kmの予定だけど、性能としては時速600kmを目指し、余裕を持った時速500kmで運行させたいという。そんな記事を読んだ気がする。


乗車前に説明会

印象に残った展示物は、リニア中央新幹線の全体地図であった。インターネットでも公開されていたかもしれないけれど、改めて眺めると驚く。全区間285.6kmのうち、リニア実験線の長さは42.8km。すでに1/8以上の軌道は完成している。実際には諸手続、長いトンネルの難工事などがあるからそう簡単ではないけれど、地図上では着々と進んでいるような気がした。


乗り場へ向かう通路

説明会が終わると、いよいよ搭乗だ。空港の搭乗橋のような細長い通路を歩く。高いところに明かり取りの窓があるほかは白い壁。空港の搭乗橋なら飛行機の機体が見えて気分が盛り上がるところだ。しかし外は見えない。仕方ない。ここはレジャー施設ではないし、開業したら駅は地下で窓もないはず。搭乗口は厚い壁で囲まれている。車体は見えず、ぽっかりと乗降口が開いている。これも飛行機と同じだ。


航空機の搭乗口にそっくり

座席は2列×2列の配置。背もたれの形状が複雑で、背後から見ると厚みがあるように見えて、真横から見ると腰の部分が薄い。最近の航空機のエコノミークラスは全体的に薄いから、肩から頭にかけてクッションを厚くした感じだ。清潔感はあって高級感はなく、さりとて座り心地は悪くない。そして、航空機と違ってシートベルトがない。


座席は簡素な作りだ

座ってから発車まで、しばらく時間がある。営業列車ではないから、全員の着座と安全確認を実施しているようだ。車内に緊張した雰囲気が生まれる。リニア実験線の駅は全路線の中央付近にあり、まずは東京方面へ向かって折り返し地点に行き、端から端までを1往復して戻る。座席の向きは固定されているから、行程の半分は後ろ向きだ。

いよいよ発車だ。磁気浮上式列車の挙動はどうなるか。ふわりと浮くか、あるいは低速時の車輪を格納した瞬間、車体の重みで少し沈むか。どっちだろう。


出発前、窓からの景色

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
著者にメールを送る

1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

<<杉山淳一の著書>>

■連載完了コラム
感性工学的テキスト商品学
~書き言葉のマーケティング
 
[全24回] 
デジタル時事放談
~コンピュータ社会の理想と現実
 
[全15回]

■鉄道ニュース(レポーター)
マイナビニュース
ライフ>> 「鉄道」
発行:マイナビ

 

■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著


『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』 ~日本全国列車旅、達人のとっておき33選~』

ぼくは乗り鉄、おでかけ日和
杉山淳一 著


『みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック (LOGiN BOOKS)』

みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック
杉山淳一 著


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第101回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで
第351回~第400回まで
第401回~第450回まで
第451回~第500回まで
第501回~第550回まで
第551回~ 第600回まで

第601回:来世ですれ違う
- 伊予鉄道郡中線 -

第602回:生活路線の終点へ
- 伊予鉄道横河原線 -

第603回:ダイヤモンド・クロッシング
- 伊予鉄道 高浜線 -

第604回:物語がいっぱい
- 高浜駅・梅津寺駅 -

第605回:坊っちゃん列車のマドンナ
- 伊予鉄道 坊っちゃん列車 -

第606回:環状線を作る単線
- 伊予鉄道 城北線 -

第607回:マドンナたちのロープウェイ
- 伊予鉄道 本町線 -

第608回:ひとりで観覧車
- 伊予鉄道 花園線 -

第609回:四国山地を迂回して
- しおかぜ30号・南風25号 -

第610回:夜明けの街の路面電車
- とさでん交通 伊野線 -

第611回:街道に沿い、終点に至らず
- とさでん交通 後免線 -

第612回:旅行鞄の運命
- 土讃線 後免駅~高知駅 -

第613回:高知港の片隅へ
- とさでん交通 桟橋線 -

第614回:目的は龍馬ではなく龍馬像
- とさでん交通バス桂浜線 -

第615回:もうひとりの龍馬
- MY遊バス・南風16号 -

第616回:うどんとそうめんの境界
- 徳島線 阿波池田駅~阿波半田駅 -

第617回:四国完乗
- 徳島線 阿波半田駅~徳島駅 -

第618回:これが最後の北斗星
- 寝台特急北斗星 1 出発 -

第619回:ロビーカーの記憶
- 寝台特急北斗星 2 食堂車 -

第620回:夜から朝へ
- 寝台特急北斗星 3 青函トンネル -

第621回:北斗星ファンクラブ
- 寝台特急北斗星 4 ロビー -

第622回:新技術の残骸と未来の電車
- 苗穂駅・札幌市電 -

第623回:のりものくらべ - 藻岩山 -
第624回:旅行鞄の置き所
- 急行はまなす 1 -

第625回:未完のダイヤ
- 急行はまなす 2 / 特急つがる2号 1 -

第626回:国鉄型車両の旅
- 特急つがる2号 2 -

第627回:雪見コーヒー
- こまち14号 1 -

第628回:雪国の赤い鳥
- こまち14号 2 -

第629回:駅弁のあとで昼寝
- こまち14号 3 -

第630回:母に捧げる時速500km
- 山梨リニア実験線 1 -


■更新予定日:毎週木曜日



  TOP-トップページ》 《コラム一覧 》 《のらりインタビュー》 《コラム・バックナンバー
……………………………………現在連載コラム……………………………………
新・汽車旅日記 】 【店主の分け前 】 【フロンティア時代のアンチヒーローたち ~西部女傑列伝5
 【亜米利加よもやま通信 】 【ひとつひとつの確かさ 】 【よりみち
………………………………掲載完了イチオシコラム………………………………
[拳銃家業 ] [貿易風の吹く島から ] [ くらり、スペイン ] [グレートプレーンズのそよ風 ]  
  [フロンティア時代のアンチヒーローたち ]

     

このサイトに関するご意見・ご感想・お問い合わせはこちらまで。
Copyrights 2017 Norari