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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 
第335回:クリスマスツリー街道 -流氷特急オホーツクの風 その1-
更新日2010/06/24


"流氷特急オホーツクの風"が札幌駅に入線した。なるほど、窓の位置が高い。寝台車の上段くらいの高さだ。窓ガラスはそこから始まって、曲面で天井に回り込んでいる。いかにも眺望の良さそうな車両だ。客室にはいると天井も高く、頭上にたっぷり空間がある。5時間半の長旅も、これならゆったりと過ごせそうだ。

母を座席に残し、私はいったん外に出た。飲み物を調達しつつ、外から車両を眺めていく。5両編成の真ん中の3号車だけが2階建てで、1階にソファーが配置されていた。座席では会話しにくい大人数のグループ客や、なにかと落ち着かないこども連れの避難所になるのかもしれない。先頭車両に戻ってみたら、隣のホームに731系電車が停まっていた。JR北海道独特の形で、モアイ像みたいな顔をしている。


3号車は2階建て。

モアイ電車が去った後には、正面に"FIGHTERS"というロゴを描いたリゾート列車が並んだ。私たちが乗る"ノースレインボーエクスプレス"の兄弟車で、"ニセコエクスプレス"の愛称がある。ニセコではなくファイターズのロゴを描く理由は、北海道の球団"日本ハムファイターズ"を応援するための臨時特急に使われるためらしい。JR北海道やJR九州は車両のデザインがユニークだ。

発車するとすぐに車掌から案内放送があって、お決まりの停車駅案内だった。続いて3号車に乗務するアテンダントから車内販売やビュッフェのメニューの案内があった。メニューは各車両を訪問するアテンダントからも渡された。乗車記念の紙と、キャンペーン応募ハガキもあった。流氷の時期、JR北海道はこの流氷特急と流氷ノロッコ、SL冬の湿原号の共同キャンペーンを実施している。それぞれの列車のスタンプを集めて応募すると、海の幸などがあたるらしい。私たちは今回、そのすべての列車に乗る予定だ。


リゾート列車兄弟が並ぶ。

流氷特急オホーツクの風は、その名も示すように特急列車だ。しかし、札幌を出て3つめの厚別で臨時停車し、後続の特急「スーパーカムイ」に抜かれた。あちらは最新の電車、こちらは約20年も走り続けたディーゼルカーという性能差がある。しかもこちらは臨時列車だから、定期列車の邪魔をしないように、ダイヤの隙間に組み込まれている。もっとも、こちらは観光列車だから悔しい気はしない。母は雪景色に見入っている。この列車でも母に窓際を譲っている。しかし、私たちは先頭の展望車両のため、通路側の席から運転席越しの景色が見える。前面展望は天井から下がったテレビにも投影されている。

新参モノに道を譲ったとはいえ、我らが流氷特急も快走している。座席の高さに加えて、外が真っ白な雪景色だから、地面を蹴っている感覚がない。まるで低空飛行をしているような気分である。函館本線の札幌-旭川間はJR北海道のドル箱区間であり、とくに札幌-岩見沢は人口も多い。ただし建物は低く、私たちは白い屋根ばかり見つめている。08時29分に岩見沢を発車。ここは弟が学生時代の2年間を過ごした場所である。アパートの手続きなどで母も訪れたはずだ。私は行ったことがないので、そんな思い出話を聞く。


先頭車は前面展望も楽しめる。

私は母に駅弁を食べようと提案した。まだ9時前である。駅弁は車内の昼食用に買った。しかし、さっき貰った車内販売メニューに"ザンギ丼"があった。ザンギは北海道風の唐揚げであるらしいけれど、私はまだ食べたことがなかった。基本は鶏肉だ。しかし、網走ではサーモンを使ったザンギ丼が有名らしい。それをお昼に食べることにして、早弁をしようと言うわけだ。私は幕の内弁当"いしかり"、母は"かに三種味くらべ弁当"である。母は私と違って魚介類を好むので、この弁当は嬉しそうだ。毛ガニ、ずわい蟹、たらば蟹の蟹飯と一口大の蟹の身が入っていた。私は食べられないけれど色がいいので撮影した。母がいなければ撮れない写真である。


かに三種味くらべ。

雪の町の景色を眺め、ゆっくりと朝食を済ませた。雪は止んでいるけれど、あたりは雪景色のまま。母は駅に停車するたびに、ホームの屋根に積もった雪に驚いていた。柱は細いけれど、屋根の雪は厚い。どうして屋根が潰れないのかと思う。列車の頻度が少ないホームでは、長いつららが下がっている。それも母には興味深いらしい。


雪深い北海道を行く。

旭川駅に到着。大勢のお客さんが乗り込んで、約半分空いていた席が8割ほど埋まった。聞こえてくる声は中国語である。旭川から乗ったと言うことは、昨日は旭山動物園を見物したのだろうか。千歳空港について、旭山動物園、温泉旅館に泊り、流氷を巡る。台湾や上海など雪の少ない地域の人々にとっては人気のツアーかもしれない。


旭川駅に到着。

旭川を出た流氷特急は宗谷本線を進み、ふたつめの新旭川で停車。客扱いのない運転停車だ。流氷特急はここから石北本線に入る。ただし、単線の石北本線では、上り普通列車がこちらに向かっている。その列車の通過を待って、そろりそろりと進んでいく。宗谷本線は最北の稚内へ。石北本線は最果ての網走へ。札幌付近では何度か路線が交わっていたけれど、ここからはそれぞれ孤独な旅路である。石北本線は石狩川に沿って上流へ向かう。石北本線の石は石狩川で、北は北見だろうか。風景がにわかに険しくなる。


車内放送が「この先は鹿が出る地域のため、列車が徐行したり停車したりする場合がある」と言った。車窓の樹木は針葉樹が増えてきた。「クリスマスツリーみたいね」と母が言う。濃い緑色の葉を繁らせた、背の高い木が並ぶ。そこに雪が積もっている。確かに、絵本で観たようなクリスマスツリーに似ている。長い乗車だが母は飽きていないようだ。いや、実は私も飽きていない。どんな風が吹くのか、雪が木にまとわりつく様子が、場所によって、木によって違う。大きな固まりが細い枝にしがみ付いていたり、なぜかドーナツ型になっていたり。このあたり、人が立ち入らないような場所である。自然に任せた雪景色だ。白一色だが、単調ではない。平野部なら一面の白が延々と続くけれど、山岳路線の雪景色は楽しい。


クリスマスツリーの森。

伊香牛から上り勾配になった。いよいよ山越えである。愛別をすぎると両側に山が迫ってくる。上川でずいぶんお客さんが乗ってきて、これで満席になった。上川に何があるのかと思うけれど、何かあるのではなく、列車が少ないのである。旭川から上川までは1時間に1本程度の便がある。しかし上川から先は普通列車が1日2本。特急が5本。この列車は上川から網走方面行きの3つめの列車で、お客さんが集中しているだけなのだろう。


いよいよ山越えだ。

-…つづく

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。月刊文藝春秋「乗り鉄うまい旅」連載。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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