第39回: 中国、大連の国家安全局員
更新日2002/12/12
2002年秋、北朝鮮拉致問題が話題になっている最中、北朝鮮難民支援NGOの日本人代表が、中国大連の国家安全局に拷問を受けたということが話題になった。この報道を見て、以前に大連を訪れた時に知り合った安全局員の顔が脳裏をよぎった。
安全局員と知り合ったきっかけは、仕事で大連を訪れていた日本人の貿易関係者の紹介だった。
「今日、これからホテルに面白い人が訪ねてくるのですが、一緒にきてみませんか?」
そう言われて、この男性の宿泊するホテルに一緒に向かった。
ホテルの部屋で待つこと約10分。訪ねてきたのは、身長190センチはあろうかと思われる大きな男性だった。眼光は鋭く、流暢な日本語を自在に操った。部下らしき男たちも3人ほど連れてきている。
「この方は国家安全局のAさん。安全局というところはご存知だと思いますが、公安警察や情報部のようなものです。今は安全局から大連市に出向しているので、大連に関して不自由なことがあれば、Aさんに頼めばどうにでもなりますよ」
紹介はされたものの、身分証明書を見せてもらったわけでもない。ただ明らかに一般市民とは違う雰囲気を醸し出していた。
それから一週間、A氏に誘われ何度か食事を一緒にする機会があった。A氏はいつも運転手付きのベンツの公用車に乗って現れ、部下を何人か従えていた。気心がお互いに分かりはじめた頃、A氏の仕事について聞いてみた。
「大連市に出向されているそうですが、何をなさっているんですか?」
「大連市は経済開放を推進しているから、日本企業の誘致もするし、反対に進出してきた日本企業を監視するのも仕事さ」
そう言って笑うと、別の話を切り出してきた。
「大連に進出したい人がいれば便宜を図るよ。外国人の営業が禁止されている業種の場合は、名義上の中国人も紹介できる。他にもいろいろあるさ…。もちろんお互いの信頼関係があってのこと。中国人は友達関係を大事にするからね」
日本で問題になっている中国マフィアについても聞いてみた。
「タチの悪い連中は、みんな南の奴らだ。香港とか福建省とか…。北方民族の大連にはそんな奴らはいないよ。私たちが許さないしね。それよりも一番の問題は、大連より北にある黒龍江省や朝鮮国境から職を求めて流れてくる連中さ。中国は住みたい場所に自由に移動できないから、北方からの流入を防ぐことの方が重要なんだ」
こんな話をしながら飲んで食べた後の会計は、いつも公費で落とすのだという。訪れたどの店も、席に経営者がやってきては緊張した感じで挨拶をし、安全局の影響力の一端が伺えた。経済開放しようとも国家管理社会は依然として変ることはない。
NGOの日本人を拷問した安全局。その中に日本語堪能なA氏はいたのだろうか…。
→ 第40回:インド、ダージリンのイメージと現実