第27回:マケドニア、国際列車にて…
更新日2002/09/19
ヨーロッパで最も田舎と呼ばれるマケドニア。そんな噂が耳に入って、トルコから国際列車に飛び乗った。ギリシアのテッサロニキで乗り換えて数時間、列車はもうすぐマケドニア国境にさしかかろうとしている。
隣の座席には、マケドニア人ビジネスマン。スポーツメーカー・ナイキの代理店をしているのが一番の自慢とかで、やたらと陽気。そして座席の周りには、このビジネスマンがいつの間にか集めてきた"日本人見たさ"のマケドニア人でいっぱいになった。
日本人だと分かると、誰もが、「首都スコピエの中央駅をデザインしたのは日本人建築家だ」と話し、地震で壊れた駅を新築するのに援助してくれた日本に感謝の言葉を次々と投げかけてくる。
そんな和やかな空気の中、列車は国境に到着。入国係官がやってくると、周りの人間が口々に、「彼は日本人の旅行者」と説明を始める。係官はパスポートを見ると、書きかけていた入国カードを途中で取り上げ、「いいよ、いいよ」とスタンプを押した。
「何故?」と聞くと、「日本人は素晴らしいし、珍しいから」という答えに唖然。スコピエ駅に着くと、夜の10時。辺りは真っ暗で、タクシーは白タク以外に見当たらない。幸いに仲良くなったビジネスマンを迎えに来ていた家族の車に同乗させてもらい、スコピエで一番安いユースホステルまで送ってもらった。
一方、快適な環境でスコピエに入れたものの、出る時は事情が一変した。スコピエ駅発、夜の10時。ユーゴスラビアのベオグラード到着が朝の6時という夜行列車に乗り込んだ。念のために、少し奮発して寝台席のチケットを買ったのが幸いする。
4人用の寝台席に入ると、誰もいなくて独占状態。しばらくすると担当の車掌がやって来た。いろいろ丁寧に説明してくれるものの、口から出てくる言葉にはびっくり。
「とりあえずトイレに行っておいで。戻ってきたら、こうして2つのチェーンを内側からかけて、部屋から出たら駄目だ。カーテンも閉めなさい。誰がノックしても扉を絶対に開けるんじゃないよ。この列車には売店も何もないから、とにかく早く寝るのが一番さ」と言いながら、何度もチェーンのかけ方を教えてくれる。
「国境審査の時はどうするんだ?」。
「国境審査の時は、私が君の名前呼びながら扉を叩くよ。名前はさっき控えたから大丈夫。何度も言うけど、それ以外は扉を開けてはだめだよ」。
「でも、どうして? いったい何があるの?」。
不安げな言葉を察してか、地図まで書いて説明してくれる。
「マケドニアとユーゴスラビアの国境周辺は、政治ゲリラやアルバニア・マフィアが出没して列車を襲うんだよ。特に最近は多くて、外国人を見つけると荷物は全部持っていかれるぞ。彼らは平気で列車を止めるからな…、困ったもんだ」。
列車を襲う組織は違っていても、大元はひとつ。アルバニア・マフィアが牛耳り、政治ゲリラのほとんどはマフィアの活動をカモフラージュしたものらしい。武器は、アルバニア系ゲリラを支援するアメリカによって提供されたものだという。
幸いにも武装グループによる襲撃はなかった。ただ、理由は分からないものの、国境地点では何人かのグループが警察によって連行される姿を窓から見た…。
→ 第28回:マケドニア模様