サラセンとキリスト教徒軍騎士たちが入り乱れ
絶世の美女、麗しのアンジェリーカを巡って繰り広げる
イタリアルネサンス文学を代表する大冒険ロマンを
ギュスターヴ・ドレの絵と共に楽しむ
谷口 江里也 文
ルドヴィコ・アリオスト 原作
ギュスターヴ・ドレ 絵
第 4 歌 魔法の指輪
第 3 話: 嵐に会ったルッジェロのその後
さて前回は、ルッジェロが天馬イポグリフォにまたがった途端、たちまち天馬が空に舞い上がり、天空はるかかなたへと、ルッジェロを連れ去ってしまったところまでをお話ししました。
せっかく会えたのに、あっという間にルッジェロがいなくなってしまい、呆然とする乙女騎士ブラダマンテのためにも、そのお話の続きをしたいのですが、ここでふと思い出しましたのは、第2歌の第1話にて、サラセン軍に攻め込まれて窮地に陥ったシャルル大帝の命を受け、援軍を頼むべくイングランドに向かう海の上で嵐に会った剛勇リナルドのこと。そのことをお話しするのをすっかり忘れておりました。そこで今回は、その続きをお話しすることにいたしましょう。

嵐の前ではどんな船でも木の葉と同じ。リナルドが乗った船は、天気さえ良ければすぐに渡れるはずのドーバー海峡で波風に翻弄され、方角も分からぬままに嵐の海を何日も漂い続けたのだった。
しかし、やがて嵐は収まり、船は樫の大木が生い茂る森の近くに錨を下ろし、リナルドと愛馬バイアルドは渡し船で陸地に渡った。

船乗りによれば、そこは間違いなくブリテン島の一角、しかし風に翻弄されて流れ着いたのはどうやらイングランドのはるか北のスコットランド。古(いにしえ)の昔、アーサー王と円卓の騎士たちが活躍した緑豊かな森。
それを聞いた剛勇の騎士リナルドは胸が高鳴り、すぐにでもランスロットやガラハッドと同じような大冒険や、妖艶な美女、アーサー王の妻ギネヴィアのような淑女と今にも遭遇するのではないかという心持ちになり、勇んで深い森の奥へと馬を進めたのだった。

やがてリナルドの行く手に見えてきたのは王宮と見紛うような巨大な僧院。こんな森の奥深くにどうしてこんな僧院が、と思いつつもリナルドが、僧院の固く締まった扉の前に立って自らの名を名乗れば、扉の中の小さな覗き窓から外を伺う気配がし、そしてすぐに扉が開き、一人の僧侶がこう言った。
騎士のお方であれば大歓迎です、どうぞ中へ。
僧院に迎え入れられた剛勇リナルドは、修道僧たちから手厚い接待を受けた。僧院の裏手の畑で採れた麦でつくった香ばしいパンはもちろん、野菜や卵、それに森の幸のキノコや果物や鹿肉など、リナルドが、もうこれ以上は無理ですと言うまで、僧侶たちは真心を尽くした料理を次から次へと振舞った。
すっかりお腹もいっぱいになり、嵐の海で疲れはてていたリナルドをトロリトロリと眠気が襲い始めた頃、実は、、、と老いた僧侶が話し始めた。さてこの続きは、第4歌、第4話にて。

-…つづく