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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第278回:女性の時代?

更新日2012/09/20



オリンピックで女性の活躍が目立っていました。アメリカの選手団も日本同様、女性上位で、女性の選手の数が男性を上回っていました。男性にあって女性にない種目は、今回女性のボクシングも加えられましたから、ないのではないかしら。古代オリンピックで女性の参加どころか、女性は観客としてスタジアムに入ることさえ許されなかったのですから大変な違いです。

その逆に、女性にあって、男性にない種目は新体操とシンクロナイズドスイミングだけでしょうか。日本には男性のシンクロチームがあるそうですから、これらの女性の分野に男どもが進出する日も近いのかもしれませんね。

それにしても、ウーマンリブ、女権論者たちもいつもなら、仕事での機会均等、政治的権利同権を主張するはずなのに、男性と女性を分けて競うのは差別だ、すべて混合、男女取り混ぜて競技せよ…と言い出さないのは、暗に女性は男性と争ってもすべての競技で負けるに決まっている…と、差を認めているからでしょうか。

アメリカの名門(であるらしい?)マスターズゴルフが開かれるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブも、ついに女性のメンバー加入を認めました。前国務長官だったコンドリーザ・ライス(Condoleezza Rice)と経済界の大物女性ダーラ・ムーア(Darla Moore)の二人です。

スポーツだけでなく、すべての分野で女性は躍進していますが、アメリカのウォールストリートと議会は"オールド・ボーイ・クラブ"、村会会議的な要素が多く残っています。

つい本音を吐いてしまったという感じで、ミズーリー州から選出された、トッド・エイキン下院議員が、“堕胎の是非”(これがアメリカの選挙戦の一番大きな争点の一つなのにもあきれますが)について、8月19日、テレビ(KTVI-TV ミズーリー州、セントルイスのチャンネル)でインタヴューアーが、「貴方はたとえ、強姦や近親相姦(これがまたアメリカでは実に多いのですが)で妊娠した場合でも、堕胎は認めない立場をとりますか?」と質問したのに対し、「女性は本当にセックスをしたくない時には、強姦を受けつけないようにできているし、女性の身体は妊娠しない仕組みになっている…」と述べたのです。

アメリカに何万人といる強姦の被害者、それによって妊娠させられた女性がいることなど、まるでトッド・エイキン議員の耳にも目にも届いてないのでしょう。それとも、無視してもよいと思ったのでしょうか。

この発言は、全米の女性たちに強い衝撃を与えました。未だにこんな人がおり、圧倒的な支持を受けて国会議員に当選し、保守党である共和党の幹部として活躍している現実に、私もあきれ果ててしまいました。

彼は大統領選挙と時を同じくして行われる下院議員選挙に再選を狙って立候補しています。

あわてたのは、共和党の大統領選挙戦真っ最中のロムニー候補(ウィラード・ミット・ロムニー;Willard Mitt Romney)です。こんなことで、貴重な女性票を失うわけにはいきませんから、トッド・エイキン議員に立候補を取り消すよう申し入れて、共和党イコール女性蔑視のイメージを消そうとしています。

トッド・エイキン議員は、「表現の仕方が不適切であった」と言い訳をしていますが、自分の強姦や近親相姦の被害者に対する意見を変えているわけではありません。敬虔なクリスチャンとして、女性の体内に芽生えた生命を人間の意志で殺す堕胎は認められない、すべては神の意向なのだから…と繰り返すばかりです。

もちろん、彼には写真映りの良い妻と家族がおり、家族ぐるみで選挙戦を戦っています。そして、日曜日には教会に行き、自分自身が敬虔なクリスチャンであることを疑いもしないのでしょう。

アメリカを牛耳る"オールド・ボーイ・クラブ"的な女性観を支持する層がとりわけアメリカ中西部、南部には厚く、今回のトッド(ここからはトッドと呼び捨てです)発言でも、「チョット、口を滑らせ、本音を吐いただけだ」と考えている人がたくさんいると思われます。それでなければ、今までトッドが圧倒的多数で議員の座を守ってきている理由が成り立ちません。

ドッドのような議員を選出し続けている私たち選挙人の方の罪も重いのですが…。

 

 

第279回:一夫多妻と愛人志願

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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