第85回:歴史的瞬間
更新日2008/11/06
11月4日、コロラド時間の夜9時過ぎに、オバマが当選確実になり、地元シカゴのグラント広場(南北戦争で北軍の将軍グラントの名前にちなむ)に集まった大群衆が狂気している様子や、ニューヨークのタイムズ・スクエアーもまるで第二次世界大戦終結勝利パレードのような大騒ぎの様子が放映されました。
これほどの恐らく何万人もの群集が一つのことに熱狂し、興奮し、大半が涙を流し感動しているのを観たことがありません。ある人は地べたに座り込み嬉し泣きし、ある人は互いに涙を流しながら抱き合い、他の人は口々何か叫びながら飛び跳ねたりています。
群衆の中混じって、黒人公民権運動を指導してきたジェシー・ジャクソンやアメリカで一番影響力を持つ女性と言われるオフラ・ウインフリーが涙している姿をテレビカメラは見逃しませんでした。これがシカゴ、ニューヨークの夜の11時過ぎのことです。
いつクラッシュするか分らないエレクトロニクス投票に不安を抱きながらも、夕方の5時からテレビの4大チャネルが放映する開票速報を夜の11時まで、6時間も映りの悪いまさに石器時代のテレビを酷使して観てしまいました。
40年以上大統領選挙を追ってきたニュースキャスターでさえ、こんな風景は見たことがないと嘆息したほどです。これはアメリカにとって新しい夜明けであり、新しい夢が始まったと自らの感動を隠そうともしませんでした。
9時20分に共和党のマッケイン候補が地元アリゾナ州のビルトモア・リゾートホテルの大広間に招待客だけの集会で敗者宣言をしました。おそらく千人単位の人がそこにいましたが、黒人の姿はほとんど見えません。
マッケインの敗者宣言は話し上手でない彼の今までの演説のなかで一番優れた感動的なものでしょう。彼はこの非常に難しい状況で潔く、誇りに満ちた敗者であることを証明したのです。オバマの名前が出るたびにブーイングをする聴衆を抑えるように両手を挙げ、演説を続けなければなりませんでしたが、選挙の結果を素直に受け入れ、新しい大統領の下でアメリカを一つに再建することに協力することを誓ったのでした。
午後10時に(シカゴの11時)オバマがグラント広場に集まった群衆の前に姿を現し、勝利演説をしました。天才的な演説家がいるとすればオバマです。彼の演説はそれを聞いた人が生涯忘れず、子供や孫に伝えるたぐいのものでした。大群衆は水を打った様に静まり返り、彼の言葉に耳を傾けたのでした。
長い選挙戦をともに戦ってきた参謀だけなく、インターネットを通じて5ドルの援助をしてくれ、選挙戦を支えてくれたすべての人々に感謝し、今回の勝利はあなた方のものだと述べてから、アトランタに住む106歳になる黒人のおばあさんのことを語り始めました。
そのおばあさんが生きてきた時代、女性にも黒人にも選挙権がなかった時代から、黒人が大きな障害を乗り越え公民権を獲得して行った過程を説き、アメリカは確実に変わっていっていること、しかも良い方向に進歩していること、彼は白人、黒人、アメリカンインディアン、ラテン系という壁がなくなり一つのアメリカとしての将来を描いて見せたのでした。
「日本の選挙では勝った人が片目のダルマさんに目を書き入れ、両目をあけて万歳三唱して終わりだ、麻生太郎さんが首相になった時泣いて喜んだ人なんか日本全国3人といない」…とはウチのダンナさんの見解です。もっとも日本では毎年のように総理大臣が変わっているようなので、毎回こんなに感動していられないでしょうけど。
演説が人々の心をまとめるために大切なことは、シーザーやアントニウス、チャーチルを例に出すまでもありません。とりわけ西欧では国の元首は有能な執務官であると同時に優れた演説家であることが求められています。
オバマが最高の演説家であることは立証済みですが、空中分解寸前のこの国をどうやって立て直していくのでしょう。これからの彼の苦労を思うと同情せずにはいられません。アメリカ分裂の危機に直面したリンカーンのように、オバマがリンカーン以来最も難しい時期に大統領の職を引き継ぐことになるというのは歴史家の一致した意見です。
せっかちなで移り気なアメリカ人は、早く目に見える形で結果を求めたがります。アメリカ人は自己の直接的利益に結びついた形で政治的解決を求めたがります。オバマがそんな要求を満たすことができなかった場合、グラント広場やタイムズ・スクエアーで熱狂した群集は、熱したとのと同じ速さで冷め、彼を見捨てるでしょうね。
第86回:日本旅行で困ったこと?

