第186回:世界の果てからモシモシ、ハイハイ
私たちが住んでいる山の家に、なんと電話があるのです。はるか奥に超豪華なハンティングロッジを建てた大金持ちが、私たちの山を横切るように電信柱を何本も立て、電気、電話を引いたので、私たちはその恩恵をこうむっているのです。
でも、携帯電話の電波は15-6キロ町のほうに行かなければ入りませんし、FM放送もダメです。インターネットは前時代的、石器時代のように恐ろしく遅い電話回線を使っています。でも、それにしても、電話があるので他の世界と(私たちは気取って下界と呼んでいますが)つながりを保つことができています。週末に私の実家に電話したり、日本の94歳の義理のお母さんの声を聞いたりできます。
便利な道具は両刃のカタナのようなもので、こちらが望まない電話がうるさいくらいかかってきます。テレマーケティングと言っていますが、クレジットカード、保険会社、新しい商品に加え、選挙の最中は電話を切ろうかろ思うほど、ベルが鳴りっぱなしです。 共和党のボスからコロラド州知事の候補、上院下院、州議会議員の候補の取り巻きからの電話攻勢はそれはそれは煩わしいことです。オバマ大統領、ミッシェル夫人、ティーパーティのサラ・ペイランとからもかかってきました(もちろん、テープ録音ですが)。
一応、テレマーケティングなどの電話販売をカットする、"ノンコール・リスト"に登録して入るのですが、敵もさる者で、マーケットリサーチなどの名目でかけてきて、アンケート調査のように質問し、最後にうちのこの商品は……とやるのです。山の生活の静かさは、電話などという生きるために本来必要でないオモチャを捨てなければ得られないのでしょうね。
逆に、こちらから、大きな会社、銀行、クレジットカード、保険、旅行、電力、航空会社などに電話するとき、コンピューターの声ばかりで、本当の人間に繋がるまで、イエス、ノウ、に始まり、彼らが録音したメニューオプションから、大声で、ナンバーツーとか、メンバーシップの番号を読み上げなければなりません。それで、やっと生身の人間が電話の向こう側に出てきます。それが70-80%くらいの確立で、アメリカ以外の国のモシモシ、ハイハイセンターに繋がるのです。
電話の受け主が支払うアメリカのフリーダイヤルは1-800でしたが、とても足りなくなり1-877、1-866も登場し、いまでは小さな町の商店でもフリーダイヤルを持っています。そのフリーダイヤルに電話した時も、大手の会社ですと、100%近く海外のテレホンセンターにつながり、ナマリの強い英語らしき言葉で対応してきます。
一番多いのはインドで、旅行、コンピューターのアフターサービス、銀行、クレジット会社などはほとんどインドのインド人が対応してきます。私は言語学者の端くれですから、イロイロな英語の発音、言い回しに慣れているつもりですが、それでもなかなか分かりにくいことがよくあります。彼らは一応トレーニングを受け、自分の仕事をよく知っており、アメリカ流の英語を聞き取る能力も相当高いようです。
興味本位に、「私は、コロラドの山からかけているけど、あなたは今どこにいるのですか?」とか、「お天気はどうですか?」「アメリカに住んだことがありますか?(アメリカ英語を綺麗に話すオペレーターに)」とかチョットした雑談をします。その結果、最も多いのはインドですが、フィリピン、マレーシア、モルディブ諸島、セイシェル諸島に住む人までいました。彼らの良いところは、ゆったりと時間をかけて対応してくれることです。時々アメリカ国内のモシモシセンターにつながると、彼らの客を客とも思わない尊大で、事務的な対応、ほとんど乱暴な話し方にあきれ返ってしまいます。しかも、南部や黒人、ヒスパニックのナマリが酷く、外国ナマリより分かりにくいことが多いのです。
これでは、電話応対センターを海外に持っていかれても当然でしょうね。アメリカ国内での電話サービスオペレーターは最低賃金の1時間7ドルで、あまり良い仕事ではありません。しかし、インドでは時給2ドルで優れた人を雇えるのですから、そんな仕事はドンドン海外に出て行ってしまうのはあたりまえでしょう。
現在、250万人くらいの雇用がそのような形で海外に流れていると言われています。そんな仕事をアメリカ国内に留めようという運動がありますが、それ以前にアメリカ人に電話の対応の仕方、お客さんを相手にする言葉遣いを教え、正しい英語を教え、それからやっとその分野知識を教育しなければ、とても海外の優れた人たちに太刀打ちできないと思うのです。
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