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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第522回:理想郷~パラダイスはいずこに…

更新日2017/07/27



自分でそうと感じるほど私も歳をとり、エネルギーレベルが下がってきました。あと1年半で引退しよう、その後で、ゆとりのある定年退職の生活ができるかどうかと年金を計算したりするより先に、ともかく長年続けてきた教職と大学の政治的配慮が鼻に付き出し、うんざりしてきたから、早目に辞めようと決めたのです。 

私たちの生き方は“後はいつもなるようになれ、今が大事だ”というもので、今までなんとかなってきたから、これからも…と薄い期待を籠めているのです。

さて、引退秒読みに入った今、引退後どこに住むかが大きな問題になってきました。現実的に、私の両親が揃いもそろって相当ヨレヨレですから、年に1、2回は実家に帰り、彼らの馬鹿でかい家の世話、税金、健康保険などの書類を診なければなりません。あまり地の果てで引退するわけにもいかないのです。

しかし、今棲んでいるコロラドの西のはずれから実家のあるカンサスシティーの東まで、車で15、16時間かかりますから、世界中のどこに住んでも、15時間もあれば実家に飛んで帰ることができます。お金さえあればという条件付ですが…。

大昔から、人間は理想郷を心に描いてきました。どこかにパラダイスがあるはずだと、淡い期待を抱いてきました。世界で一番自分が幸せだと思っている国はブータンの国民だとされる幸せ調査の結果が出て、なるほどと感心させられたものです。確かに自分が幸せだと感じるのは、とても大切なことですし、その国がその住民とって理想郷に近いと思われているのは素晴らしいことです。しかし、私たちがブータンに行ってブータンの人々のような幸福感を得るかどうかはまったく別のことです。

先月、大阪の人と一緒に旅する機会があり、引退後どこに住むかが話題になりました。彼らは、大阪以外に考えられヘン、そのゴチャゴチャした都会が好きや、最高や、と言うのです。ブータンと大阪ではなんともかけ離れた、ほとんど両極端ですが、幸福感というのは、尽きるところ、自分の生き方に合った場所、文化とまで言わなくても、生活環境が総合的に自分のリズムと合い、一日の終わりに、床に就く時、ああ今日もいい日だったな~と毎日思えるような生き方ができる場所ということになるのでしょうか。

人は普通、たくさんの社会的制約、シガラミの中で生きています。私たちは、比較的そんな制約が少ない方で、私たちが望めばどこにでも行ける、住める環境にあります。とはいっても相手の国が私たちを受け入れてくれるかどうかは別の問題ですが…。 

ウチのダンナさんは、放っておくとどんどん町から離れ、山奥に入っていく傾向があり、「おい、お前が引退したら、大きな木が鬱蒼と生えている山奥に住もうや」とか言い出しています。今でも、十分山の中に住んでいるのですが…。また、その割には、若い時に長いこと住んだ地中海の島に郷愁があるようで、2年ほど前に2ヵ月だけ過ごした、アドリア海のクロアチアの島にも強く引かれているようです。

6月に三十数年ぶりにカリブの島を訪れました。6月なのに、その蒸し暑さたるや、生気を搾り取るかのように感じられたのです。その島の天候、気温が30年前とそんなに大きく変わっているわけはないので、私たちの方が変わったのです。早く言えば歳をとったのです。あんな蒸し暑さ、蚊やハエ、刺しまくる羽虫が襲ってくるところにもう棲めない…というのが、私とウチのダンナさんの珍しくも一致した意見でした。打ち明けたところ、島ではありませんが、中米のコスタリカかベーリーズに越そうかと調べていたのですが、蒸し暑さに打ちのめされこの線はなくなりました。

結局、よく知っていて、自分の波長に合った場所、国に絞られてきてしまいます。そうなると、私の場合は日本しかない…ということになります。公衆道徳の高さ、文化水準、医療保険、人々が親切で教養があり、忖度(ソンタク)と書いていたら、ウチのダンナさん、「オイ、それどこの国のことだ? そんな国あるわきゃないだろうに…」と横から口を挟んでいます。私も、歳とともに次第に、慣れ親しんだところがよくなってきたのかもしれません。

引退後どこに住むかの選択肢があるだけ、私たちはとても恵まれているのは確かなことなのですが…。

 

  

第523回:バウンティー・ハンターと保釈金

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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