第428回:ファーストフッドは不滅です
かれこれ、30~40年ほど前のことになりますが、スペインに初めてマクドナルドがオープンしました。当時、スペインはどこに行っても、“バール”(Bar)と呼ばれるカフェーテリア兼タパスバー兼軽食のお店が花盛りで、一軒一軒違ったタパスを用意していて、オリーブ、トルティージャ(スペイン風オムレツ)、いわしの酢漬け、肉団子、カージョス(豚の内臓の煮付け)、高級なところではエビや小さな巻貝、ムール貝、ハマグリなどをカウンターに並べ、小皿に盛って突き出しのようにサービスしてくれたものです。
こんなにバラエティーに富んだバール文化がある国に、ハンバーガーショップが乗り込んできても成功するわけがない…、誰が好きこのんでハンバーガーなぞ食べるものか、すぐにもあっさりと引き上げるに決まっていると思っていたところ、オープンから大盛況を続けており、私の予想はあっさりと外れてしまいました。
スペインのマクドナルド、バーガーキングなどでは、ビールもワインも飲めるし、第一、コーヒーがスペイン人の嗜好に合わせたのでしょう、エスプレッソなのです。しかも、当時スペインでは珍しかったクリームがたっぷり入った(コレステロールだらけの)ソフトクリームを安い値段で売り出したのです。やはり、飛びついたのは若者です。何十年も内装を変えたことのない薄暗いバールより、明るくちょっとスマートに見えるガラス張りのファーストフッドの店に集うようになったのです。
日本やファーストフッド本家のアメリカで、主にハンバーガー離れが進み、年々売り上げが落ちている…と言われてから3、4年経ちますが、世界的にみると、どうしてどうしてナカナカ廃れる様相は見せていません。
一番貢献しているのはなんと言っても中国です。この20年で50%以上伸びており、世界のファーストフッドの20%を占めています。美味しい中華料理があるのに、いったい誰がハンバーガーやフライドチキンを食べるのだと考えるのは、私のようなシロウトで、現代都会に住む中国人は、とても忙しく昼食をまともに摂る時間がない、そこで味はともかく素早いサービスと一見清潔に見えるアメリカ系のファーストフッドに流れる…と分析?されています。アメリカ的ファーストフッドは、中国に定着したと言ってよいでしょう。
日本はとみると、世界の売り上げではアメリカに次ぐ3番目のファーストフッド超大国です。人口の比率からいくと断然トップになってしまうほど、ファーストフッド天国なのです。これは私などには理解できないことです。美味しい定食やお弁当、お蕎麦がハンバーガーと同じ値段か少し高いだけで食べられるのに、何でよりによって、マック、バーガーキングへ行くのか分かりません。
数年前、東京の中心部に1年間住んだことがあります。その時、お昼の定食をあちこちで食べ歩きましたが、お昼ご飯の時間はどこも満員で、しかも私が食べ終わるまで隣、向かいに座るサラリーマンが少なくとも3回転するのには驚きました。定食が出てくるのも素早いけど、食べる方も新幹線並みのスピードなのです。私のように食べるのが遅い人はショーバイの邪魔をしているようで、気が引けてしまいます。量もそこそこで美味しく、そして安いランチのバラエティーがなんと多いことでしょう。選択枝が多すぎて悩むほどでした。
これだけ、忙しい人、昼食に時間をとることができない人が沢山いるなら、なるほどファーストフッドが流行る条件が整っているのかもしれません。
モスクワにマクドナルドが1号店をオープンした時、あのモスクワの厳寒、寒い空の下で長蛇の列を作って待っている人を見て呆れました。あれは多分にアメリカ的なものへの憧れもあったのかもしれません。それにしても、マックはシバレつく外気の中で長時間待つような食べ物ではないと思うのですが。
そして、アメリカと仲の悪いイランです。この国では、マクドナルドは認可されていません。ところが、敵もさる者で“マッシュドナルド”と名付け、看板の大きな丸っこい黄色のMマークの山を二つでなく三つにした店が大いにウケているそうです。
また、スターバックコーヒーのトレードマークと見間違うほどよく似た商標で、“ライーズコーヒー”(RAEES COFFEE)というのがアメリカ的サービスで売り出し、これもまた大いに流行っているといいます。もちろんマックもスターバックも国際裁判に訴えていますが、10年以上経った今でもラチがあきません。イランもなかなかやるものです。
スペインに住む友人から、私たちがよく通っていたバールが閉店になったとメールがありました。付け加えて、家族だけでやっていたような定食レストラン、バールも次々と閉まっているとの悲しいニュースでした。
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