第429回:中西部の山火事シーズン到来
山火事の季節になりました。毎年のように繰り返されるアメリカ中西部の山火事騒ぎが始まりました。カルフォルニア、オレゴン、ワシントン、ユタ、アラスカと西部の州は軒並み燃えています。よく毎年そんなに燃える森林があるものだと思うほどです。今年はオレゴン州、ワシントン州の火の手が強く、ワシントン州では歴史上最悪、最大の山火事、野火に襲われ、未だに鎮火の目処がまったく立っていません。
私たちの住んでいる高原台地にも、カルフォルニアやユタでの山火事の煙が西風に乗って流れてきています。この1、2週間、スカッとした秋晴れのはずなのに、空全体がベージュに霞み、谷を挟んだ向かいに側にあるグランドメッサの山々の稜線さえボケています。
現在燃えているか燻っている山火事は、西部の州で二十数箇所に及びます。コロラド州の西側、この界隈は夏の間まったくと言ってよいほど雨が降りません。湿度が10%内外、最近では6%まで下がりましたから、かなり乾燥している状態で、ほんのチョットしたきっかけで火事が発生します。
以前、隣下に住んでいたオジサンは、芝刈り機(アメリカ的に大型の座って運転するタイプです)で雑草を刈っていたとき、鋼鉄のブレードが石をハジキ、火打石のように火花が飛び、それでアッと言う間に乾燥しきった雑草に燃え移ったと言っていました。その時は、幸いすぐにシャベルで土をかけて消し止めることができました。
山火事の原因は90%以上と言ってよいと思いますが雷です。雨を伴わない乾いた黒い雲が水平線で閃光を放っているのが秋の風物詩で、夕暮れ時など、閃光はとてもドラマチックです。ですが、光だけでなく、かすかにでも落雷の音が聞こえ出し、それが次第に大きく響き、閃光と落雷の時間差が縮んで、体が震えるくらいの大音響になると、きれいだ、ドラマチックだ、と呑気なことを言っていられなくなります。
私たちの森にも、落雷した痕跡がたくさんあるのです。すべて私たちが越してくる前のことですが、ピニヨンパインの大木が真っ黒に焦げて倒れているのです。おそらく近所の人たち総出で消し止めたのでしょうか、チェンソーで燃えている木を切り倒した痕跡が幾つもあります。
こんなに乾燥している土地ですから、とても熱帯雨林の樹木のようなスピードでは再生しません。森が回復するには、200~300年はかかると言われています。一度燃えたら、ここでは私が生きている間に緑の木を見ることができないのです。
この台地には約200軒の家、牧場、農場があります。住んでいる人たちは野火、山火事の恐ろしさをよく知っていますから、この季節に火の始末や火の使い方にとても神経を使っています。
ところが、高原に憧れて町から移り住んだ、町の連中(と、ここに古くから住む人たちは半ば軽蔑して呼びます)は、この季節に平気で野外バーベキューなどをします。もちろん、プロパンガスのバーベキューセットですが、それでさえとても危険で、小さな丘を隔てた洒落た新築の家がバーベキューから広がった火で見事に全焼しました。焼け跡に行ってみたところ、真っ黒なボイラー、冷蔵庫が転がっているだけで、本当に見事なまでにきれいさっぱり灰になっていました。
ボランティアで組織している消防隊は、家の周りの木を切り倒し、火が広がり山火事にならないようにするだけで、家の消火には全く手を貸さなかった…そうです。火事を出したその家の持ち主に同情する人は全くいませんでした。あんな町の連中のせいで自分の森が灰になってはかなわない、どうせアイツ等はすばらしい火災保険に入っているだろうから、まったく損はしないし、またすぐにもっと豪華な家を建てるだろう…と言うわけです。実際、焼け跡は整地され、建設工事が始まっています。
私たち人類は、ずいぶん様々な方面でこの地球に手を加えてきましたが、まだ、雨を降らせることすらできません。膨大に汚してしまった大気に対し、天が罰として大乾燥、山火事を下しているかのようです。それに、人間はナパーム弾や原子爆弾のように物凄い魔法の火を造り上げましたが、そんな火を消し止める爆弾の発明にはさっぱり気合を入れず、未だに消火剤を飛行機から撒いたり、海に近いところでは海水をヘリコプターで汲み上げ、それを山まで運んで撒いているのが現状です。この様子を“焼け石に水”と言うのではなかったかしら。
どこまでマジメでホンキなのか、インディアンの祈祷師に雨乞いのお祈りをしてもらう地方自治体や隣組がかなりあり、お祭りのアトラクションとしても人気を博しています。地球に対する、とりわけ天候に限れば現代の科学はまだインディアンの雨乞いの祈祷の域を出ていないのかもしれませんね。
一雨降れば、山火事が消え、汚れた空気を洗い流してくれるのですが…。
第429回:秋は収穫の季節
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