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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第624回:ウッドストック・コンサート

更新日2019/09/05




いくら呑気な私でも、授業が始まる2、3日前には大学に行き、多少の準備をします。アメリカの大学には、入学式、始業式のようなものはありませんが、代わりに新入生歓迎のバーベキュー・パーティーがキャンパスの真ん中に張られた大テントの下で開かれていました。そこに、新入生勧誘のため、色々なクラブ、サークルが机を並べ盛んに声を嗄らしています。新入生の輝くばかりの若さは眩しいほどです。

私と同じように、サーテト、いよいよ学期が始まるな~と、重い腰を上げて準備に入るとするかという同僚の先生たちとも顔を合わせます。当然、話題はこの夏休みをどのように過ごしたかに集中します。

その中で、50代の英文学の女性の先生がウッドストックの50周年記念コンサートに行ってきたと言うのです。ということは、あの1969年のウッドストック・コンサート、3日間で40万人も集めた、まさにエポック・メイキングのイべントからもう50年も経ったのですね。それにしても、その先生はウッドストック世代ではないのに、恐らく彼女が4、5歳の時に起こったイべントの50周年記念コンサートによくぞ興味を持って、ニューヨーク州の田舎まで出かけたものです。

私はダンナさんに付き合わされるように、何度ウッドストックの記録映画を観たか数え切れません。ウッドストックはヒッピー世代、ベトナム反戦運動のピークに開かれました。それも、当時全く無名の若者4人が、大きなレコード会社やプロの興行師を通さずに、小さな町の牧場主マックス・イエスガー(Max Yasgar)さんの牧草地に簡易ステージを作り開催したのです。ヤンキースタジアムとかマジソンスクエアガーデンなどのすでにあるウツワを使わなかったのです。

当初、町の人たち、ニューヨーク州政庁は、そんなことができるわけがない…、こんな田舎の草原に人が集まるワケがないと思っていましたが、次第に具体化するに従って、慌て出しています。町にはコンサート反対派が多くなり、なんとか法的に規制できないものかと、模索しているのは滑稽なほどです。ウッドストック・コンサートがあった町(本当は町の中ではなくて、相当離れた郊外なのですが…)というだけで、ウチのダンナさんの世代の老人、定年退職者の観光地、メッカになり、現在に至るまで大いに潤っているのですが…。 

時のニューヨークの知事、ネルソン・ロックフェラーは1万人の州兵(National Guard)の出動を考慮し、準備したほどでしたし、トイレなどの衛生設備の不備を突き、コンサートを中止に追い込もうとしています。

“Music & Peace”=“音楽と平和”をキャッチフレーズにした3日間のウッドストック・コンサートは、暴力事件など全く起こらず、大成功に終わったのでした。

コンサートはリッチー・ヘブンス(Richie Havens)で幕開け、妊娠6ヵ月のジョーン・バエズ(Joan Baez)、ジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)、オハイオ大学で学生4人が州兵によって殺された事件を歌にし(私もこの事件に抗議するデモに参加しました)、プロテストソングとして大ヒットを飛ばしたクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング(Crosby, Stills, Nash & Young)、カルロス・サンタナ(Carlos Santana)、そしてシメはジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)と、ロック、フォークの大物が、今となっては想像できないほど集まったのです。

このコンサートに駆けつけたミュージシャンは生涯ウッドストックに出演したことを誇りにし、招待されたのに出演しなかったアーティストは歴史的イべントに名を連ねかったことでホゾを噛むことになります。ニューヨーク市まで来ていながら、ウッドストックへのヘリコプターの都合がつかず出演できなかったジョニ・ミッチェル(Joni Mitchell)などはウッドストック賛歌とでも呼ぶべき歌を作曲しています。

50年後に懐メロ風に、夢よもう一度とウッドストック・コンサートが開催されましたが、当時のヒッピーはすでに鬼籍に入っているか、そうでなければアメリカ社会に組み込まれ、孫のいる良い爺さん、婆さんになり年金暮らしをしていることでしょう。時代も変わり、今では、ベトナム反戦運動的、社会的なアピールは全くありません。そこにあるのは、レコード会社、テレビ局などの商業主義がウッドストックの名前を利用し、人を集め、お金儲けをしようとしている姿です。

ウッドストック以降、夢よもう一度とばかり、イギリスのワイト島(The Isle of Wight Festival)、アフリカ救済コンサート(ライヴエイド;LIVE AID)、恒例のニューポート・フォーク・フェスティバルと開かれましたが、ウッドストック・コンサートには遥かに及びませんでした。

今は昔となったウッドストック・コンサートのCDを聴きながら書いています。あの時代の熱気がウッドストック・コンサートを作り上げたと、懐かしさがヒシヒシとこみあげてきます。

-…つづく

 

 

第625回:セクハラ、強姦、少女売春、人身売買

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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