第286回:天気予報と地震予報
珍しいハリケーンが、アメリカの北東部、ニュージャージー、ニューヨーク州を襲いました。このハリケーン『サンディー』は季節外れでもあるし、コースがちょっと変っていて、ハリケーン銀座のフロリダ南部を通らず、はるか沖合いを北上し、やおら進路をほとんど真西に変更し、ニュージャージーに上陸したのです。
カテゴリー1という小型のハリケーンでしたが、普段ハリケーンに慣れていない地域ですから、それはそれは大騒ぎで、海岸線近くや低い土地に住んでいる人、150万人に避難退去命令が出ました。その割には、と言っていいのでしょうか、避難したからこそというべきなのでしょうか、人的被害は少なく、恐らくニュージャージー、ニューヨークで毎日起きている殺人事件で命を落とす人数よりはるかに少なかったのでないかと思います。でも、こんな数字は比較できませんね。
天気予報はよく当たるようになった……と思います。ハリケーンや台風の中心勢力や針路など、かなり正確だと言ってよいでしょう。オマケにマスコミが後押ししてくれますので、テレビを観てさえしていれば、数日前に対策を立てるなど準備ができます。 ちょっと騒ぎ過ぎの傾向があるにしろ、"転ばぬ先の杖""備えあれば憂いなし"を地で行き、安全にやり過ごすことができます。
それでも、予報が外れることもママあります。でも、普段は雨の予報だったのに曇りだったとか、降水確率20%の予報なのに半日降り続いた程度のことで、実害はありませんし、もともと天気予報はそんなものと見くびっていますから、予報が外れたことにメクジラ立てて怒る人もいません。外れた予想をした気象予報士さんが、ごめんなさいと誤り、どうして予報が外れたのか説明してくれると、逆にその予報士さんの信用が高まると思うのですが、そんなことをする予報士さんはいないようです。
ところが、この町が地震に襲われることはまずない、可能性は非常に低いと、当のその町での集会で宣言した6日後に大地震に見舞われた可哀想な町があります。イタリアの"ラクイラ"という町に大きな地震があり、309人が亡くなりました。その中の37人は、そのニュースを聞いて、この町では大事に至らないと、家に残ったために死亡したというのです。
イタリアは、時々とてもユニークが話題を提供してくれる面白い国です。今度も世界の地震学者を震え上がらせるのに充分以上、効果のある判決を下したのです。
ラクイラの町は地震による危険度は低いと声明を発表した『地震の高リスク検討会』のメンバー7人に対して、なんと求刑以上の禁固6年の刑を言い渡したのです。
"お前たちがちゃんと警告を発していれば、大半の人は命を落とさずに済んだ…貴重な生命の損失はお前たちの予想が大きく外れたこと、または安易な声明を発表したせいだ。よって、実刑を言い渡す…"と言うことになるのでしょうか。そうなると、大げさに危ない、危ないと叫ぶ地震学者のほうが、自分の身を守るための利巧な処世術を身に着けている…ことになってしまいます。
ところが、イタリアで判決が下った後、国立地球物理火山研究所のポスキ所長が、ラクイラの町の『地震の高リスク検討会』では、逆に地震の可能性が高い、住民に警報を発するべきだと決定していたところ、防災局長(こちらはお役人)のベルトラーゾ長官が、ポスキ所長に電話をかけてきて、住民にみだりに不安を抱かせるのは好ましくない、警告発表を控えろ、住民を安心させるようなコメントにしろ…と圧力をかけてきたと言うのです。
これは大きな問題です。電話で圧力をかけたベルトラーゾ長官にも大きなに罪があるし、その圧力に負けた間違った情報を流した地震学者たちにも大きな罪があります。
このような、政府と専門家が癒着して情報をコントロールするは、ファシズムの第一歩であることは歴史が証明していますし、私たちはすでにとても高い授業料を払って学んでいるはずだと思うのですが…。
第287回:山シーズンの終わり
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